一日で1,000便以上の飛行機が飛ぶJALで、お客さまの搭乗券のご予約から空の旅に関するアドバイスまで、幅広く電話応対によるサポートを行っているJALナビア。「世界最高のコンタクトセンター」となるべく、電話応対・話し方のスペシャリストがその"話し方の技術"を磨いている。今回は同社に、相手が心地よくなる話し方・聞き方のヒントを教えてもらった。

専門用語は極力避けていくべき

お話しいただくのは、JALナビア東京センター国際部所属の石井真由美さん。国内線・国際線の予約担当として入社以来13年間、予約室というセクションで活躍している電話応対のプロフェッショナルだ。JALナビアでは、話し方・聞き方において「おもてなしの心を持って接する」「意識的にでも笑顔を作って話をする」「相手に気持ちよく話を終えてもらう終わり方を意識する」という基本がある。その上で、より相手の心をつかむための極意はあるのだろうか。

石井さん「これはビジネスの現場などでも応用できると思いますが、専門的な用語は極力避けたほうがよいでしょう。いわゆる業界用語などを含みます。航空業界の場合はディレイ(出発時刻遅延)やウェイティング(搭乗券のキャンセル待ち)などが代表例です。専門用語は、聴く側が同程度の知識をお持ちであれば成立しますが、そのバランスが偏っている場合は、ご理解いただくまでにむしろ時間がかかってしまいますし、誤解を招く恐れもあります。できるだけ、誰にでも通じる用語や言い回しをするように心がけています」

間違った使い方には大人の対応を

いわゆる共通理解ができていない言語は、コミュニケーションの上では弊害となる可能性が高い。しかしコンタクトセンターの場合、ある程度慣れているお客さまや、航空業界のことを知っているお客さまであれば、多少の専門用語が混ざることもあるそうだ。だが、中には相手が意味を間違えて使ってしまうケースも少なくないという。

石井さん「もしもお客さまのほうで、用語に対して誤ったご理解をなさっている場合、そこは気の遣いどころです。たとえば「それはディレイではなく、○○ということですね」と、間違いを指摘したり、否定することはタブー。まったく違う言い回しで応対して、お気を悪くなされないように配慮します。これも、お客さまにとって気持ちよくお話しいただくという点では、気配りのひとつと言えるでしょう」

根気よく繰り返し伝えていく

また別の問題として、お客さまが話題の業界やカテゴリのことに"慣れて"いない場合、話す側の伝えることを理解するまでに時間がかかることもあるという。一度伝えたことを、再度同じように伝えなくてはいけない場合だ。しかし、これも伝え方によっては、否定されたと感じてしまう人もいるだろう。そういう場合はどうするのか?

石井さん「最もやってはいけないのは『先ほどもお伝えしましたが』というフレーズを使うことです。お客さまの中で消化しきれていないということは、逆を言えば、こちらが的確にお伝えできていないということでもあります。『先ほどもお伝えしましたが』というフレーズは、とても自分本位なフレーズですので、使わないほうがいいでしょう。言い方を変えるか同じ言い方をするかはケースバイケースですが、繰り返しお伝えするだけにとどめています。また相手が話している最中に話をさえぎって自分のことを話しだす人がいますが、これもNGです。きちんと最後までお話を聞いてそれから返答をする。これが感情的にさせない、望ましいやりとりの仕方です」

会話は「共有」していくもの

「先ほどもお伝えしましたが」というフレーズや、相手の言葉をさえぎって自分の話を始めてしまうのは、「自分が上位である」というニュアンスでの否定表現にもつながるという。こうした表現をかもしださないような配慮は必要だが、逆に、相手を感動させて虜にするような工夫はあるのだろうか?

石井さん「JALナビアで積極的にやっていることが、『Delight(感謝・感動・サプライズ)を感じていただくためのサービス』です。その一環として、お客さまとの会話から得た記念日などをサプライズでお祝いするのです。たとえばご予約の際、結婚記念日の旅行でご搭乗なさるなど、何気ない一言が聴けた場合、情報を空港や機内に引き継ぐようにします。するとCAが『ご結婚記念日ですね、おめでとうございます』などと一言添えることができます。こうした何気ないことが、お客さまの感動を呼ぶことも多いのです。またオペレーターには、付加サービスのための予算と権限が与えられていますので、サプライズプレゼントをご用意することもあります。点だった情報を線にして、お客さまのもとへと届ける。そうした気持ちで相手に接することが大事ですね」

まとめ

相手が心地よく、自分も心豊かになれるようなサービス精神、話し方、そして聴き方。話をする際には一方的に伝えて終わりということになりがちだが、「共有する」というマインドがとても重要なのは間違いない。話す側、聴く側、そこに上下の隔たりはなく、あくまで「気持ちよく話すことができた」という共通の喜びがあることが理想なのだろう。