住宅ローン金利は相変わらず史上最低水準を維持しています。6月は固定金利が0.05%~0.10%程度の上昇になりましたが、それでも最低水準であることに変わりはありません。住宅ローンの借りやすさを背景に、消費増税後も住宅取得に関して、需要が急激に冷え込むことはありませんでした。こうした時期のマイホーム購入、住宅ローンの借り方については、冷静に考えてみることが必要でしょう。

自己資金比率が上昇。マンション購入で40%近くに

国土交通省が毎年発表している「住宅市場動向調査」によると、平成26年度の平均取得価格は、分譲戸建てで3684万円、分譲マンションで3636万円という結果に。これは、平成25年度と比較すると、それぞれ、57万円、53万円の増加となりました。

一方、自己資金は、分譲戸建てで1111万円、分譲マンションで1431万円。自己資金比率は30.2%。39.4%となっています。注目すべきなのは、自己資金比率の増加。4年前の平成22年度の調査では、分譲戸建てで26.9%、分譲マンションで26.8%。ともに自己資金比率は高くなっています。

消費増税前の駆け込み需要などで、自己資金不足の購入が増えたのではと、心配していましたが、十全の準備を十分に行って、購入に踏み切った人が多かったと言えるでしょう。

ただし、健全な資金計画であるかと言うと、別の視点も必要になります。

たとえば、住宅ローンの年間返済額をみると、分譲戸建ては19.2%、分譲マンションは19.4%で、これは一般的に理想とする返済負担率30%以内に収まっており、十分余裕のある計画に思えますが、実態はどうでしょう。

家賃負担よりも重いローンの毎月返済額

同調査では、返済負担を非常に負担感があると答えた世帯が14.4%、少し負担感があると答えた世帯は56.9%で、年々増加している傾向にあります。これは年収や購入前の住居費、つまり家賃との関係もあるのではないでしょうか。

平均世帯年収は、分譲戸建てで644万円。購入代金との比較では年収倍率が5.7倍。分譲マンションでは年収694万円で年収倍率が5.2倍です。ほかの調査では首都圏などは9倍というデータもありますから、国交省の調査では、全国平均でかなり低く抑えられているようです。しかし、いずれにしても、昔のように、収入が右肩上がりの時代ではなくなった今、この年収倍率は、少々無理をして住宅を購入している、ということかもしれません。

また、購入前の家賃と、購入後の毎月返済額(年間返済額を毎月返済のみとし12で割り返す)を比較してみると、分譲戸建て購入者の、購入前の家賃は7万6240円。対して毎月返済額は9万5800円。分譲マンションの場合では、家賃は7万7071円。毎月返済額は10万2200円。

住宅購入後の住居費負担は、あきらかに増加しています。また、住宅購入後は、修繕積立金や管理費、固定資産税など、毎年さまざまな維持費がかかります。賃貸住まいでも2年ごとの更新など費用が発生しますが、持ち家の維持費と比べると、その負担は格段に違うのです。

意外と返済額を低く抑えたつもりでも、もうひとつ懸念されることがあります。それは、途中で金利が上昇する可能性があることです。

借りられる額ではなく、返せる額

長期固定のフラット35以外は、基本的に返済途中で金利が変わります。10年固定なども固定金利期間が終了すれば、その時点で金利タイプを選択し、その時点での金利が適用されます。長い間、住宅ローン金利は低水準で推移していますが、日銀は2%程度のインフレ目標を掲げています。景気動向次第では金利上昇の可能性は、これまでよりは高くなると考えておいたほうが無難です。ただし急激な金利上昇はないでしょうから、過剰な心配はしなくてもいいでしょう。

調査によれば、変動金利型の住宅ローンを選択した人は、分譲戸建てで70.6%、分譲マンションで63.4%になります。急激な金利上昇はないとしても、変動金利タイプを選択している人が非常に多いという印象です。

変動金利タイプは、5年ごとに金利の見直しがあり、返済額が上がる可能性はあります。また、変動金利は1%を切るなど非常に金利が低いので、そもそもの借り入れ額が実力以上になっている可能性が高いのではないでしょうか。

たとえば、借入額3000万円を35年返済で借りた場合の毎月の返済額は、

  • 10年固定1.30%で毎月返済額8万8944円

  • 変動金利0.9%で毎月返済額8万3294円

その差は約5600円で、意外と金利タイプによる毎月返済額に大きな違いはないと感じるかもしれません。では、家賃並みの返済額8万円で、いくら借りられるかみてみましょう。

  • 10年固定1.30%で借入可能額2698万円

  • 変動金利0.9%で借入可能額2881万円

いかがでしょうか。200万円近い差があります。変動金利タイプを選択する人は、毎月返済額を5000円減らしたいのではなく、借入可能額を増やしたいと考えてしまうのではないでしょうか。

調査データから個別の事情は読み取れませんが、実態としては、上記のようにいくら返せるかではなく、いくらまで借りられるかで資金計画を立て、自己資金と合わせていくらまでの物件が買えるか、という発想になっている可能性が高いのです。

さらに言えば、毎月8万円とした返済額は当初の返済額。これが10年後、変動金利では5年後に、金利次第では増額する可能性もあるのです。

資金計画は、いくら借りられるのかではなく、いくらなら毎月返せるか、さらにいえば、金利が上昇したときに、いくらまでなら増額に耐えられるかを、試算しておくべきなのです。

最初から全力で計画した住宅取得では、ちょっとした躓き、たとえばボーナスをあてにしていた、子どもの教育費がかさんだ、妻が退職することになった、といったことで返済が途端に苦しくなってしまうのです。

せっかくのマイホームを手放さなくてすむようにする、それは、購入時に余裕をもった資金計画ができるかにかかっているのです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

伊藤加奈子

マネーエディター&ライター。法政大学卒。1987年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。不動産・住宅系雑誌の編集を経て、マネー誌『あるじゃん』副編集長、『あるじゃんMOOK』編集長を歴任。2003年独立後、ライフスタイル誌の創刊、マネー誌の編集アドバイザーとして活動。2013年沖縄移住を機にWEBメディアを中心にマネー記事の執筆活動をメインに行う。2級FP技能士。