世界50カ国で6,200万人の会員を抱える世界最大のインターネット動画配信サービス「Netflix」(ネットフリックス)が、この秋にいよいよ日本でのサービスを開始する。月額定額(価格、プラン等は検討中)で、さまざまなジャンルの映像コンテンツが見放題。すでに日本でも対応テレビが販売され、フジテレビがオリジナル番組を制作するなど、少しずつ情報が明かされているが、まだ見えない部分が多い。それゆえ、"黒船"と呼ばれることもあるこのサービスは、日本でどのようにサービス展開していくことを考えているのか。日本のコンテンツにも造詣が深い、Netflix日本法人のグレッグ・ピーターズ社長に話を聞いた――。
■Netflixとは
米・カリフォルニア州に本社を置く、世界最大のインターネット動画配信サービス。米国での利用者は全世帯の4分の1におよび、テレビチャンネルの一部に近いイメージで定着している。
テレビ以外にも、タブレット端末、スマートフォン、パソコン、ゲーム機、セットトップボックスなど、さまざまなデバイスに対応。
月額定額で見放題となっており、米国での月額料金は、画質などにより、7.99ドル(約98円)、8.99ドル(約1,100円)、11.99ドル(約1,500円)のプランがある。
オリジナルコンテンツの制作に注力しており2013年に自社作品として制作した『ハウス・オブ・カード』は、ネット配信で初公開されたドラマとして初めて「プライムタイム・エミー賞」を受賞した。
――日本ではすでに「Hulu」や、「dTV」という月額見放題のインターネットビデオサービスが展開されています。「Netflix」のこれらのサービスとの違い、特徴は何ですか?
重要なのはやはりコンテンツそのものだと考えています。世界中から集まるグローバルコンテンツ、日本で制作されたローカルコンテンツ、ともに他のサービスでは目にできないような"強い"コンテンツを提供する。ここが、一番の違いや特徴になると思います。
――"強い"コンテンツとは、具体的にどのようなことですか?
まず、ユーザーにとって「早く見たくてたまらない!」というコンテンツであることです。もっと細かく言えば、人に響くストーリーであるということ、クリエイターに明確なビジョンがあり、それがとても大きなスケールであること。そのジャンルが好きなユーザーがどっぷりハマってしまう、そういったコンテンツです。
世界中のすべての方が、同じようにどっぷりハマるという作品はないので、例えば家族もの、犯罪もの、スリラー、サスペンス、ホラー、SF、アニメーション……それぞれのジャンルの中で、どっぷり没入体験ができるような作品を作っていくことになります。
――フジテレビがNetflixに向けて制作することを発表したリアリティ・ショー『テラスハウス』の新作(※1)や、オリジナルドラマ『アンダーウェア』(※2)は、その理念に合致すると判断されたんですね。
まさにそうです。『テラスハウス』が好きな人は死ぬほど好きですし、きっと「待ちきれない!」「早く見たい!」と感じると思います。『アンダーウェア』は、詳細な内容まだ明かされていませんが、あのトピックの題材が好きな人にはたまらない、見たいと思わせる内容になると思います。
(※1)『テラスハウス』
フジテレビ系で2012年~2014年に放送されていた、シェアハウスで同居する男女6人の共同生活を記録していく番組。俳優志望の菅谷哲也、AKB48(当時)の北原里英、グラビアアイドルの筧美和子といったメンバーが繰り広げるリアルな姿が人気を集め、番組公式のYouTube動画は、累計2億8,000万回という再生回数を記録している。Netflixでは、『テラスハウス』の新シリーズを日本でのサービス開始時から配信。全18話(予定)で、現在"住人"を世界中から募集中。
(※2)『アンダーウェア』
フジテレビが制作するNetflix向けオリジナルドラマ。銀座の高級下着メーカーに就職した主人公・繭子が、成功をつかんでいく姿を描く。脚本は、安達奈緒子(『リッチマン,プアウーマン』『失恋ショコラティエ』)、演出は、尾形竜太(ABC『警視庁失踪人捜査課』)、プロデュースは、関口大輔(『SP』『リッチマン,プアウーマン』)が手がける。英題は『Atelier』、全13話(予定)。
――ピーターズ社長は、日本の好きなコンテンツに、小津安二郎監督や黒澤明監督の映画、ドラマの『半沢直樹』、『深夜食堂』といった作品を挙げられていましたが、こうしたタイトルも、Netflixで見られるコンテンツの理念と合致するのでしょうか?
Netflixで流すコンテンツを選ぶにあたって、個人的な趣味は入りません(笑)。ただ、それらにも共通するのは、やはりストーリーが良いということですね。普遍的な名作なので、世界の方にも見ていただきたいという気持ちはあります。
――日本のコンテンツで言えば、すでにアニメ『シドニアの騎士』(※3)などが、世界のNetflixで配信されていますね。その反応はいかがですか?
『シドニアの騎士』はとても人気がありますし、とても"熱い"反響が来ています。それに、映画『十三人の刺客』(2010年、三池崇史監督)も、アメリカのNetflixで配信しているんですが、とても人気があります。これはストーリーが響いているからなんですね。
日本法人が5月にオープンして、これから提供できる日本のコンテンツがどんどん増えていきます。それらが世界の方に見ていただけるということを考えると、とてもワクワクしますね。
(※3)『シドニアの騎士』
弐瓶勉のSF漫画を原作とするアニメーション作品。制作はポリゴン・ピクチュアズ。日本では2014年4月からTBS系で放送され、Netflixでは同年7月から欧米などで配信されている。
――やはり、実際にどれくらいの数の日本のコンテンツが流れるというのが気になります。理想とする日本のコンテンツの本数や比率はどのようにお考えですか?
それは答えるのがすごく難しい質問ですね。何時間なのか、タイトルの本数なのか、ファンの愛…これはどう測ればいいのか難しいですし。だからわれわれは、数値では考えていません。視聴したユーザーから「これが好きだった」「あれが良かった」といった情報のフィードバックを得て、それを元に、次はどんな番組や作品を契約し、パートナーを組んで制作していくのかという選択につなげたいと思っています。そうした自然の流れの中で、コンテンツのバランスというのが出てくると思うんですね。
そうしていくと、みなさんの考え方自体も大きく変わると思います。その作品やコンテンツが、日本から生まれたものなのか、世界から来たものなのかというのが関係なくなり、ストーリーのクオリティが重視されるようになっていくのではないでしょうか。