6月初旬に国賓として来日したフィリピンのベニグノ・アキノ大統領は、日本記者クラブで会見を開き、現在のアジア情勢に関する見解を述べました。

日本記者クラブで会見するフィリピンのベニグノ・アキノ大統領((C)日本記者クラブ)

「AIIB加盟は、国民の利益につながらなければ意味がない」

アキノ大統領は、中国が推し進めているAIIB(アジアインフラ投資銀行)について、

「フィリピンは現在、AIIBへの加盟を検討している最中だ。フィリピンも他国と同じように多くのインフラ整備を必要としている。しかし、中国との間では、借款をめぐって期待していた結果を得られなかった経緯があるため、ガバナンスについては徹底的に確認する必要がある。プロジェクト評価に関する決定と借款の条件が、政治と切り離されているかどうかなどを見極めたい。加盟する際には、国民の利益につながらなければ意味がない。

南シナ海の問題についても、フィリピンが内輪の場で中国に言っていることは、『我々は小さい頃から、合意を得るためには相手の立場に立って考える必要があると教えられてきた』ということだ。地図を見れば分かるのだが、中国の人々に聞いてみたいのは、もしあなた方がフィリピンの立場だったとして、南シナ海に面したフィリピンの海岸線の西側が奪われ、東側だけを維持することになったとしたら、果たして『自分たちの国の航路の半分をどうぞ』と言うだろうか。フィリピンは主権を表明しているだけであり、主権が尊重されることを求めているだけだ。中国が小さい国のアドバイスも受け入れていく姿勢を示してくれるのかどうかも見極めていきたい」

と強く主張しました。

日本との関係、「サポートと友情の関係に転換できたならその方向に」

また、歴史認識を含めた日本との関係性についてアキノ大統領は、

「印象に残っている映画『ワイルド・ギース』(1978年)のなかで『私たちは過去についてあなたを許さなければいけない。あなたは現在について私たちを許さなければいけない。そうでなければ、ともに将来はない』というセリフが出てくる。この言葉は重要だ。日本による残虐行為が行われた映画を私も観ているが、第二次世界大戦中という偏見が広がっていた当時に製作された映画も数多くある。今となっては、複数の描写は過剰で不当だったと感じる。

そして、戦後の日本は、対フィリピンということで言えば、しっかりとした補償義務を果たしている。また、自然災害や防災への援助も粛々と行われており、戦時賠償は支払われてきたと言えるだろう。インフラ整備や耐震技術、首都圏の大きな橋など、日本の援助によって推進されている事業は数多くあるのだ。

大型台風が発生した際にも、日本からは真っ先に救援隊が来てくれた。悲惨な出来事があった事実を覚えておくことは大切だが、一番大事なのは、悲劇が繰り返されないように互いに努力を重ね、サポートと友情の関係に転換できたのであれば、その方向に向かって進んでいくことだ。私も国民も、そのように考えている」

と述べました。

来年の大統領選、「7月の一般教書演説の直後に後継者を指名」

さらに、来年行われるフィリピン大統領選挙についてアキノ大統領は、

「7月の最終月曜日に一般教書演説を行うが、その直後に後継者を指名する。たとえ、誰が大統領になろうとも日本とフィリピンとの良好な関係は変わらない。日本は大切な貿易相手国だ。安倍首相との間でもJICAを通じて鉄道のシステム等、重要なプロジェクトの面で合意した。国民も日本との関係が良好である人物を大統領に選ぶはずであり、良質な両国関係を育んでいきたいと思っている」

との見解を示しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。