2016年1月から運用が開始される予定の「マイナンバー制度」。10月には住民票のある国民ひとりひとりに個人番号が通知されることとなっている。社会保障や税に関する行政手続きの簡素化やポータルサイトを利用した行政サービスの利便性の向上や効率化を目的とした新しい社会基盤となる予定の制度だが、同制度のあらましを、総務省「個人番号を活用した今後の行政サービスのあり方に関する研究会」構成員などを務めた、筑波大学図書館情報メディア系准教授の石井夏生利氏に解説していただいた。
「マイナンバー」、どうやって生成される?
石井氏によると、「マイナンバー」制度の導入が議論され始めたのは、2009年頃から。2009年7月に公表された「民主党の政権政策Manifesto2009」において、「所得の把握を確実に行うために、税と社会保障制度共通の番号制度を導入する」と謳われ、これを受けて政府・与党社会保障改革検討本部で検討が開始された。その後、政府内での議論を経て、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」が2013年5月24日に成立し、同月31日に公布された。議論の過程では、ドイツ、アメリカ、スウェーデン、オーストリア、フランス、デンマーク、韓国、シンガポールなどの諸外国の制度が参考にされたものの、特定の国の制度に倣(なら)ったものではなく、日本独自のものとして検討がなされたとのことだ。
10月になると、すべての国民が受け取ることになる予定の「マイナンバー」だが、その番号は2014年4月1日に設立された地方共同法人「地方公共団体情報システム機構」が、住民票コードを変換して生成することになっている。またその際、住民票コードを復元できる規則性を備えていないこと、他のいずれの個人番号(検査用数字以外の11桁の番号)とも異なるものであることが必要とされる。そして、既に住民票コードを割り当てられている人には一斉に指定がされるが、施行日以降は住民票に記載がなされた時点で個人番号が生成されることになるという。ちなみに、マイナンバーは、日本国籍者に限らず、中長期在留者、特別永住者、一時庇護者及び仮滞在許可者、経過滞在者にも付与されるとのことだ。
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「マイナンバー」の管理者は誰?
そして、ここで素朴な疑問となるのが「マイナンバー」の管理者。さらに、第三者に番号を知られた場合に悪用される可能性がないのかということ。石井氏は次のように説明する。
「ひとつの省庁が一元管理するわけではなく、マイナンバー法に基づき、マイナンバーを取り扱うことのできる行政機関、地方公共団体、健康保険組合等において、それぞれにマイナンバーと紐付く情報が管理されます。悪用されるおそれがありますので、マイナンバーを不用意に他人に知らせることは、法律上制限されています。『個人番号カード』を万が一紛失した場合には、専用のコールセンターに連絡した上で、直ちに住所地の市区町村に届け出をしなければならず、その際に写真を添付した再交付申請書を提出し、個人番号カードの再交付を求めることができます」 また、マイナンバーの含まれる個人情報(特定個人情報)は、原則として提供してはならないが、訴訟手続きをはじめ、その他の裁判所における手続きや、刑事事件の捜査などの場合には提供を行うことができ、弁護士がマイナンバーを取り扱うこともあり得ると話す。例えば、マイナンバー法違反の刑事事件の審理を裁判所で行う際に、漏えいした個人番号を含む個人情報が、証拠として裁判所に提出される場合などである。
セキュリティー面はどのようになっている?
セキュリティー面については、運用の際、厳格な本人確認が義務付けられている。 2016年1月からは「個人番号カード」も発行され、内蔵されたICチップの中に公的個人認証という「電子証明書」が搭載されることになる。インターネット上の身分証明書のような役割を果たすこの「電子証明書」を利用し、電子申告などで他人によるなりすましや改ざんを防ぐための機能が提供される。ただし、電子証明書の発行は都道府県知事が行うが、手続きは市区町村が窓口となる。電子証明書の交付を受ける際には、厳格な本人確認が行われ、電子申請や申告の際には、あらかじめ設定した4桁の数字と、6文字以上16文字以下の英数字を利用した電子証明書のパスワードが必要だ。
さらに、電子証明書は、2016年1月以降は、総務大臣の認定を受けた民間事業者との手続きにも利用できるようになるほか、ポータルサイトを利用する際には、ログイン時に電子証明書が必要になる。
企業にとっての位置づけは?
石井氏によれば、主として行政手続の効率化と国民の利便性向上を目的とした制度であるマイナンバーは、企業に直接的なメリットを与えるものではないという(公的個人認証の利用範囲をオンラインバンキングやショッピングサイトなどに拡大することによるメリットはある)。
「むしろ企業は個人番号関係事務実施者として、マイナンバーを取得することになりますので、マイナンバーの取り扱いが許される場合・許されない場合を正しく理解するとともに、これまで以上に安全管理をきちんと行う必要があります。情報セキュリティーは地道な対策の繰り返しですので、これを機会に社内の安全管理体制を再度見直して下さい」と助言する。
一方、法人に対してはマイナンバーでなく、法人番号が付与されるとのこと。法人番号は、誰でも自由に使うことができ、(1)法人番号をキーにして、法人の名称や所在地の確認が容易になる、(2)鮮度の高い名称・所在地情報を入手でき、取引先情報の登録や更新が効率化する、(3)複数部署で異なるコードを使用している場合に、取引先情報に法人番号を追加すれば、情報の集約や名寄せ作業が効率化する―といったメリットが期待できるという。
今年10月には手元に届く予定の「マイナンバー」。突然手にして慌てないために、また制度を有効活用するために、事前に基本事項は押さえておきたい。