IPO市場が大躍進の米国株式市場

今年の秋に「日本郵政」が上場する。1987年に上場したNTT並みの政府系大型株が「IPO(新規公開株)」となるとあって、話題を集めそうだ。

その半面、一般投資家にとって「IPO」はあまり馴染みのない言葉であることも確かだ。一般的にIPO銘柄は、聞いたことのないような社名のことも多いし、規模が小さいことから、投資するには不安が大きいからだ。ただ、昨年リクルートが上場、今年は、日本郵政が上場するほか、LINEも上場候補にあがるなど、注目銘柄が続き、徐々に注目を集めつつある。

こうした中、海を越えた米国では、IPO市場が活況を呈している。景気回復や株価上昇などを背景に、2014年は、件数、調達額とも、2001年以降でもっとも高い水準となっている(「グラフ1」参照)。

「グラフ1」

国の経済活性化には、新陳代謝が必須

今、なぜ米国のIPO市場が沸いているのだろうか?

ひとつには、世界的にIPOを推奨する動きがあることが大きい。というのは、国の経済が常に成長していくためには"新陳代謝"が不可欠だからだ。競争力が衰えた企業が退場し、活力のある新しい企業がどんどん出てくることで、資金が動き、新しい需要を喚起し、ひいては、経済に貢献するからだ。そのため、ここ数年、各国の証券取引所が上場基準のハードルを下げ、世界中の新規企業に、自らの証券取引所で上場するようアピールする動きが加速している。2014年9月にニューヨーク証券取引所に上場した中国通販サイト大手「アリババ」はその典型だろう。

実際、IPOは上場する企業にとっても、飛躍的な成長をもたらすきっかけになることが多い。IPO効果の第1は、莫大な事業資金が手に入ることにより、設備投資や研究開発を積極的に進めることができることだ。第2に信用力・知名度が向上することも大きい。信用力が上がって優秀な人材が集まる。第3にM&Aで事業の幅を広げるといった戦略も展開できるようになる。こうしてIPO5年以内に、新興企業が飛躍的な成長を遂げ、一大企業へと成長する例は数多くある。

こうした恩恵を存分に受けて、世界に名だたる企業となったのが、アップルであり、グーグルであり、最近では、フェイスブックやツイッターなのだ。

IPOを支える3本柱「ヒト、技術、資金」

では、なぜ米国IPO市場は、そこまで抜きん出ているのだろうか? それは、企業とIPOを支える3つのキーワード「ヒト・技術・資金」が圧倒的であるからといえる。

ヒトという意味では、米国はもともと移民の国だというカントリー精神がある。日本の場合、"いい大学を出て一流企業に行くのがエリート街道"といった観念がまだまだ強いが、米国では、"サラリーマンになるよりも事業立ち上げこそ目指す道"という雰囲気が強い。

教育機関でも、事業立ち上げを夢見る世界中の優秀な人がこぞって米国に集まってくる。教育機関にいながら、新技術・サービスを開発する機会が与えられ、そうした研究に多くの資金が集まる仕組みができているからだ。いわゆるベンチャーキャピタルの資金量は、日本とアメリカでは、100倍ほど違うといっても過言ではないのだ。

時代の潮流となる企業の誕生が続く米国だが、現在、特にめざましく成長しているのが「IT技術」「ヘルスケア」「エネルギー関連」などの分野だ(「グラフ2」参照)。

「グラフ2」

IT技術でいえば、SNS、クラウドなどの技術を使って、Eコマースなどの新しいサービスが次々生まれている。ヘルスケアでいえば、バイオ技術、遺伝子工学など、エネルギー関連だと、シェールガス・オイル、バイオエネルギーといったものがあげられる。

新しい技術やサービスを生む"非連続的なイノベーション"

こうした、今までにないサービスや技術が出てくるのが米国ならではの特徴だ。既存の企業の場合、継続的にやっている事業があると、そこから全く異なる技術を生み出すのは難しい。画期的な技術やサービス、つまり"非連続的なイノベーション"とよばれるものは、既存企業よりは、全く新しい企業から出てくるというのが過去のケースなのだ。

こうした点を鑑みて、米国では、新規事業案件に資金が回る仕組みが充実している。例えば、「DARPA(米国防高等研究計画局)」が、軍事技術に限らず、先端的な技術になりそうな案件には、常に200件程度を出資をしている。その結果世に出てきたのが、インターネットであり、GPSであり、身近なところでは「ルンバ」なのだ。ルンバは、アイロボットという企業が、元々米軍から地雷除去装置の開発を依頼されたことがきっかけとなった。人工知能を使って無人で地雷除去をできないかという研究をしているうちに、あの円盤の形にたどりつき、ルンバが生まれたというわけなのだ。

米国のIPO銘柄に絞って投資する投資信託を利用するのも賢い選択肢

夢いっぱいの米国IPO市場だが、日本にいるとなかなか新規上場の情報が掴みづらい。公募に応募するのも一苦労だ。何と言っても、IPO企業は中には大企業として成功する例もあるが、その影で露と消えていく企業も後を絶たない。つまりリスクも高いというわけだ。一投資家が、そうしたリスクを冒して、米国のIPO企業に投資をするのは勇気のいることだ。そこで、プロが情報収集と分析を重ね、こうした米国のIPO銘柄を厳選して投資する投資信託を利用するのも、ひとつの賢い選択肢だ。

日興アセットマネジメントが設定している『日興USグローイング・ベンチャーファンド』は、公開後5年以内の企業の株式を中心に投資している。組み入れ上位銘柄には、フェイスブックをはじめ、バイオ医薬品・新薬開発に特化した「アブビー」、家畜とペットに特化した医薬品・ワクチンの研究開発の「ゾエティス」、民間航空機を航空会社にリースする「エア・リース・コーポ」など、名だたるIPO銘柄がズラリと並んでいる。

投資を通じて"アメリカン・ドリーム"を感じるのも新しいムーブメントなのかもしれない。

(※本稿で使用されているグラフはラザード社提供のデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではない)

<著者プロフィール>

酒井 富士子

経済ジャーナリスト。(株)回遊舎代表取締役。上智大学卒。日経ホーム出版社入社。 『日経ウーマン』『日経マネー』副編集長歴任後、リクルート入社。『あるじゃん』『赤すぐ』(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から経済ジャーナリストとして金融を中心に活動。近著に『0円からはじめるつもり貯金』『20代からはじめるお金をふやす100の常識』『職業訓練校 3倍まる得スキルアップ術』『ハローワーク 3倍まる得活用術』『J-REIT金メダル投資術』(秀和システム)など。