160カ国以上で5億世帯を超える視聴者を抱える世界最大級の音楽&エンターテインメント専門チャンネル「MTV」。世界を股にかけ、様々な音楽を世界に発信している同社ならではというべきか、社員たちは大の音楽好きばかりだ。現在、同チャンネルでは、1950年代から2015年に至るまで、様々なジャンルが生まれた"ロック"を細分化し、各ジャンルを代表するアーティストの楽曲を紹介していく番組「Tree of Rock」を放送している。そこで、本稿では同社のロック好き6名に集まってもらい、"ロック好きだから分かるアレコレ"を聞いてみた。

Rock好きなMTVの社員6名に集まってもらった。なお、「Tree of Rock」内で設定したジャンル分けはMTVが独自に行ったもので、異論は認めるとしている

まずは単刀直入に「“ロック”とは何か?」という問いを投げかけてみた。すると、「ロックに定義はない」「定義づけられないのがロック」という答えが。辞書的にも「1950年代のアメリカにおけるロックンロールを起源とし、1960年代以降、特にイギリスやアメリカで幅広く多様な様式へと展開したポピュラー音楽のジャンルである」とあり、まさに時代とともにさまざまなジャンルへ枝分かれして進化しているのもロックの特徴的な要素のひとつであるようだ。次に、これまでロックをあまり聴いてきていない人向けに、ロックとはどのようなものなのかを具体的なアーティスト名を交えつつ、紹介してもらった。

※今回の企画では、ハードロック・メタルを除いたジャンルのみを取り扱っている。

――一概に言うのは難しいと思いますが、皆さんが「ロックの中で好きなのは洋楽だったらコレ、邦楽だったらコレ」というものを教えて下さい。

Ta:「ミクスチャー(※)やダンスロック(※)が割と好きなジャンルなんですが、日本のアーティストでいえばBOOM BOOM SATELLITESが昔から好きですね」

※■ミクスチャー
1998年~2000年あたりが中心のジャンルで、ロックのミクスチャーという意味。ラップロック、ラップメタルと呼ばれることもあり、ヒップホップのラップの部分を取り入れている。日本の代表的なミクスチャーロックバンドは、Dragon Ash。
代表的な海外アーティスト:レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン

ダンスロック
読んで字のごとくロックに四つ打ちなどのダンスビートをとりいれた音楽。日本でも2000年代に「踊れるロック」ブームを作り出した。サカナクション、テレフォンズなどダンスミュージックの要素も取り入れ、独自のサウンドを確立した日本のバンドも増えてきている。
代表的な海外アーティスト:ザ・ラプチャー、!!!(チック・チック・チック)

To:「シューゲイザー(※)が好きなんですけど、それと同時にLUNA SEAがすごく好きだったんですよね。LUNA SEAのギターサウンドなんかは意外とシューゲイザー的なところがあって、実は音だけ聴いてみたら共通するところがあります」

※■シューゲイザー
エフェクターを多用して、ノイズにも似た深い歪や空間的な音が特徴。“シューゲイザー”とは“靴を見つめる人”の意味で、客席ではなく足元を貼りつくように見つめながらパフォーマンスする姿から名付けられた。ポップで甘いメロディーを際立たせた浮遊感のあるサウンドは、ロックファンから絶大な支持を受けている。最近の日本のバンドでは、L’Arc-en-Cielのyukihiro、MO’SOME TONEBENDERのkazuhiro momo、凛として時雨の345からなるバンド” geek sleep sheep”の作品から、こういったサウンドを聞くことができる。
代表的な海外アーティスト:マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス&メリー・チェイン

F:「私はロックンロールリバイバル時期のロック(※)が好きなんですけど、日本だとandymoriが好きですね」

※■ロックンロールリバイバルUS、ロックンロールリバイバルUK
2000年初頭に起きたロックンロールリバイバルムーブメント。1980年代中期~1990年代の作りこみ過ぎた音楽や、2000年前後の内省的で陰鬱な音楽への一種のアンチテーゼ的な流れで、スキニージーンズに革ジャンや揃いのスーツというファッションスタイルをはじめ、シンプルでわかりやすいロックを復活させた“1周まわってまた新しい”スタイル。
代表的な海外アーティスト:ザ・ストロークス(US)、ホワイト・ストライプス(US)、ザ・リバティーンズ(UK)、アークティック・モンキーズ(UK)

N:「私は育ちがイギリスなんですけど、時代的にブリットポップが全盛期だったこともあり、よく聴いてました。日本人でいえば、吉井和哉さんが好きですね」

M:「邦楽で好きなアーティストで言うとaikoさんかな。aikoさんは秀逸だよね。コード遣いが絶妙! 」

H:「aikoさんの楽曲の展開やコード進行は実はある種のプログレだったりもするんだよね」

To:「そういう意味で言うとサンボマスターもそう。ギターのコードとかホントよく考えるなぁって。楽器の知識があるとそういう面を楽しめると思います」

――aikoさん以外に技術的にスゴイと思う、日本のアーティストはいるんですか?

To:「スピッツはスゴイですよね。各メンバーの演奏スキルが凄いのはもちろんなんですが、例えばベースの田村さんのベースラインが本当にスゴイ。フレーズだけ聞いたらメロディーを邪魔してもおかしくなさそうなのに、それが全く邪魔にならずに、それどころかよりポップに聞こえるように成立してるという」

――音楽以外の面で、ロック好きな人たちの共通していえることはあるんでしょうか。

Ta:「ロック好きな人たちって漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズが好きな人が多いですね。出てくるキャラクターのスタンド名がほぼロックアーティストの名前になっているんですよ(笑)」

M:「特に、4部以降に出てくるスタンド名を調べて、そのアーティストを知ってほしい! 」

Ta:「ジョジョ好きだったらロック好きになる可能性は高いね(笑)」

M:「どちらかというとハードロック寄りかもしれないけど」

H:「あと、映画でいうとタランティーノ作品! 絶対みんな好きだと思う」

Ta、To、M、N:「それ、分かる!!」

――ロックをほとんど聴いたことのない"ロック初心者"にとって聴きやすいジャンルを教えて下さい。

F:「間口が広いのはブリットポップ!(※) 」

Ta:「入口としてはOasisかな。ロック初心者であれば、メロディとサビがしっかりしているものが聴きやすいと思うので」

M:「例えばONE OK ROCKはエモ(※)の影響を大きく受けていると思うので、ONE OK ROCKが好きな人は10年ぐらい前に流行った海外のエモ・バンドを聴いたら意外とハマるかも」

Ta:「ポップパンクとかもいいかもしれない。重要なのは聴きやすさだね。やっぱり、メロディーが立っていて、歌えたり、合唱できたりする部分が大事なんですよね」

F:「そこから『自分はエモ寄りだな』とか分かってきたら、もっと掘り下げていけるのかなと」

To:「ONE OK ROCKが好きな人は、エモはもちろん、ミクスチャーも好きになれるだろうし。もっと遡るとオルタナ(※)とかもいけるんじゃないかな?」

※■ブリットポップ
ニルヴァーナのボーカル・カート・コバーンの自殺直後に衰退しつつあった時期に、ブラーの3rdアルバム「パークライフ」の大ヒットと、オアシスの鮮烈なデビューによって、イギリスの音楽シーンに大きなムーブメント。

※■エモ
“エモーショナル”がジャンル名の由来。2000年代初頭に、日本と海外で同時多発的に流行していた。インターネットの普及により広がっていった。ギター、ベース、ドラムによる一般的なシンプルなバンドサウンドの上に、疾走感ある元気で明るい印象のリズムや、哀愁のあるメロディーと情緒的なボーカルを乗せるといったスタイルが特徴。曲の展開が日本のJポップと似ていてわかりやすい。
代表的な海外アーティスト:ジミー・イート・ワールド、フォール・アウト・ボーイ

※■オルタナ
80年代半ばから後半にかけてのジャンルで、同時期に商業的に成功していたハードロックに対する反発的な志向が強い。音的にはパンクやニューウェーブよりもメロディーが確立されているのが特徴で、ファッション性もネルシャツにジーンズといった一般的なスタイルであることが多い。当時、分類できなかったジャンルを“オルタナ”と呼んでいた傾向もある。
代表的なアーティスト:ダイナソーJR.、ニルヴァーナ

いかがだっただろうか。上記の話以外にも、音楽のテイストはその土地の気候が非常に密接に関連しているという話も面白かった。MTVの中の人たちが「北海道からBEGIN(沖縄出身)の音楽は生まれないし、沖縄からeastern youth(北海道出身)の音楽は生まれない」と話していたのが非常に印象的だった。

今回の座談会を通じて分かったことは、ロック初心者にはオアシス(ブリットポップ)やグリーン・デイ(ポップパンク)など「大衆的で、メロディーがあって歌える」アーティストを入口にするのがオススメであるということ。一方、今回のロックの各ジャンルを日本の音楽に当てはめるのは意外と難しいというのが本音。というのも、「レベルの高い日本のロックバンドがどんどん増えてきて、海外とは別に日本独自のスタイルが確立されてきた」とのことで、最近の若者が洋楽のロックをあまり聴かなくなったとされる理由もそのあたりに関係しているかもしれない。

MTVでは、1950年代から2015年に至るまで、様々なジャンルが生まれた"ロック"を細分化し、各ジャンルを代表するアーティストの楽曲を紹介していく「Tree of Rock」を6月7日より1カ月に渡ってオンエアしている。