2015年度の採用活動において何かと話題になっていた「内定取り消し」。一体どんなところが問題なのか、また逆に承諾していた内定を辞退する場合にペナルティは発生するのか、実際にはよくわかっていないことも多いでしょう。今回は、アディーレ法律事務所所属の岩沙好幸弁護士が内定と法律の関係性について解説します。

そもそも内定取り消しとは?

就職手続は、下記のような流れで進みます。

(1)企業からの求人
(2)これに対する労働者の応募
(3)企業から労働者に対しての採用内定通知
(4)勤務開始日からの勤務

一般的に、企業から労働者に対して採用内定通知をした時点で「始期付き」で「解約権留保付き」の労働契約が成立します。つまり、労働者と企業との間で「契約」が成立するのです。そのため、企業は一方的に契約を解除できないのが原則です。にもかかわらず、企業側から一方的に労働契約を解除するのが「内定取り消し」という問題です。

企業からの内定取り消しは違法なのか?

先ほど、採用内定通知をした時点で「始期付き」で「解約権留保付き」の労働契約が成立すると述べましたが、「解約権留保付き」というのは、働きはじめる日(就労開始予定日)までに採用内定通知書や誓約書に記載された取消事由が生じた場合には、内定を取り消せるという意味です。

ただし、取消しが適法となるためには、記載された事由に該当し、かつ、内定取消しが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当な場合」に限られます。これらを満たさない内定取消をしても、違法となります。

違法とされる場合はどういう状況なのか?

採用内定の取消事由は、内容に合理性・相当性が必要なため、どんな事由でもなるとは限りません。学校を卒業できなかった場合や、採用に差し支えるような罪を犯した場合など、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できない事実が判明した場合でなければ違法となります。

たとえば、不況による内定取消しは合理性を認められる可能性が低く、違法となりやすいでしょう。また健康診断で異常が発見された場合は、内定取消事由にあたると考えられますが、それは業務に耐えられない程度に重要な場合に限られます。提出書類に虚偽の記入をした場合も、記入の内容・程度が重大なもので、従業員としての不適格性が判明したことが必要です。

内定取り消しされた会社へ損害賠償請求はできるのか?

会社の勝手な内定取り消しについては、債務不履行(約束を破るといった行為)または不法行為(他人の権利ないし利益を違法に侵害する行為)に基づく損害賠償請求が認められる場合があります。

過去の裁判例(大日本印刷事件)においては慰謝料100万円が認められました。内々定取消に不法行為の成立を認めて、慰謝料50万円を認めたものもあります(コーセーアールイー事件)。

また、客観的合理性がなく社会通念上相当と認められないような事由で内定取消をしても、それは違法であり効力がありませんので、労働者は契約上の権利を主張・要求できます。すなわち、入社日以降も従業員としての地位がありますので、賃金を毎月請求することができます。

内定承諾書に法的な拘束力はあるのか?

内定承諾書には、「内定通知書を受領しました。貴社へ入社することを承諾いたします。内定期間中に内定取消事由が生じた場合は内定を取り消されても異存ありません」などと記載されることが多いです。前述した、内定取消事由などが記載されていることが多く、その意味で法的拘束力があります。

なお、労働者には解約の自由があり(民法627条)、通常の会社員が退職願の提出によって会社を自由に辞めることができるように、内定も少なくとも2週間の予告期間をおく限り自由に辞退でき、そのことについて責任を負わないというのが原則です。

ただし、内定の辞退が信義に反し、不誠実である場合は例外です。その場合、企業側に損害が生じていれば法的には企業が損害賠償を請求することは可能です。

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。 パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。 動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。