赤ちゃんを待ち望んでいた女性やその家族にとって、妊娠は何よりうれしい出来事。しかし一方で、無事に出産の日を迎えられるか、心配な気持ちもあるのではないでしょうか。妊娠初期のもっとも大きな気がかりとも言えるのが「流産」です。今回は、その定義や原因、種類、起こる確率など、流産について最低限知っておいてほしいことをお話しします。

流産ってどういうこと?

医学上では、妊娠22週未満で、何らかの原因で妊娠が終わることをすべて「流産」と定義づけています。流産が起こる確率は、すべての妊娠のうち10~20%程度と言われ、その約80%は妊娠12週未満で起こる「早期流産」であるとされています。また、妊娠12週以降22週未満の流産を「後期流産」と言い、妊娠22週以降に妊娠継続ができなくなった場合は、「死産」として扱われます。

早期流産のほとんどは、胎児側の問題で起こる

流産の原因は、はっきりとわからない場合もありますが、医学的には、早期流産か後期流産かによって異なるとされています。まず、早期流産の原因の多くは、受精卵の染色体異常などといった胎児側の問題。すなわち、妊娠した時点で流産になることは決まっており、避けられない運命とも言えるでしょう。「あの時安静にしていれば……」と悔やむ人もいますが、安静にしていたからといって流産が防げたとは言えないのです。

しかし後期流産では、子宮に何らかの異常が見られるなど母体側に原因があるケースが多くなります。子宮の異常には、出産時期には早い段階から子宮口が開いてしまう子宮頸(けい)管無力症をはじめ、子宮奇形や子宮筋腫、子宮内膜症などの状態や症状が挙げられます。これらは医療処置で防げる可能性もあるので、おなかの張りや痛み、出血があったらすぐに婦人科を受診することが大切です。

よく耳にする「切迫流産」「稽留流産」って? 流産の種類

流産は、進行度や子宮内の状態によって、下記のような呼び方をされることがあります。

・生化学的流産
妊娠検査薬で妊娠反応が出たものの、超音波で妊娠が確認できる前に流産してしまう状態。

・切迫流産
出血や腹部の痛みなどの症状があって、流産の一歩手前とする状態。妊娠継続の可能性がある。

・進行流産
子宮口が開いて出血が起こり、流産が進行している状態。

・不全流産
流産が進行していながらも、子宮内に胎児の組織が一部残っている状態。

・完全流産
胎児の組織がすべて自然に子宮外へ出てしまった状態。

・稽留(けいりゅう)流産
死亡が確認された胎児が、子宮内にとどまっている状態。

完全流産では、そのまま経過を見ることもありますが、不全流産や稽留流産では、ほとんどの場合、子宮に残っている胎児の組織を除去する手術を行います。ただし稽留流産で、子宮内感染などの症状がなければ、陣痛が来て自然に子宮の内容物が排出されるのを待つ場合もあります。

前述のとおり、流産のほとんどは主に胎児側の問題で起こるとされる早期流産であり、妊娠初期のお母さんの行動が原因で起こるわけではないので、自分を責める必要はありません。

そうは言っても、流産による喪失感は大きなもの。流産した経験を語る人は少ないため気づきにくいのですが、35歳以上の妊娠経験者のうち、流産を経験したことがある人は約40%に上るというデータも出ています(厚労省研究班データより)。流産を経験しなかった人にも、そのようなつらい経験を抱えている人が大勢いることを知っておいていただければと思います。

※画像は本文と関係ありません

善方裕美 医師

日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。

主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など