一般的な「単純いびき」と特に注意したい「睡眠時無呼吸症候群」
気になって眠れない、寝室を共にしたくない、一緒に旅行に行きたくないなど、家族やパートナー間のトラブルにもなりがちな「いびき」。いびきは、かいている本人は自覚しにくいため、知らず知らずのうちに、周りの人にストレスを与えていることも。指摘されたからといってすぐに治せるものでもなく、「治せるものなら、治したい! 」と悩んでいる人も多いのではないでしょうか。今回は、いびきの原因と治療法について解説します。
睡眠中に一時的に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」とは
いびきとは、睡眠中に起こる鼻やのどの粘膜の振動音のこと。一般に、何らかの原因で鼻からのどにかけての空気の通り道である上気道が狭くなり、振動しやすくなるために起こるといわれています。いびきをかく人は、睡眠中に正常な呼吸ができていないため、眠りが浅く、睡眠不足の傾向も見られます。
いびきの症状には、世間一般に「いびき」と認識されている「単純いびき症」のほかに、睡眠中に一時的な呼吸停止状態に陥る「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」があります。
■単純いびき症
睡眠中にいびきはかくものの、呼吸が止まることはなく、健康上の問題も特に見られません。風邪や飲酒、疲労などによる一時的な症状のことも多いですが、慢性化すると病気に進行することも。
■睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠中に、いびきと10秒以上の呼吸停止(低呼吸)状態が交互に起こる病気。そのほか、睡眠中の窒息感やあえぎ、日中の激しい眠気や疲労感、集中力の欠如といった症状を伴います。一時的な呼吸停止(低呼吸)により血液と脳内の酸素量が不足することで、高血圧、糖尿病、心疾患、脳疾患などの合併症を引き起こす可能性もあるので注意が必要です。
「肥満」がいびきのリスクを高める!
いびきには、さまざまな原因が考えられます。その中でも、主に睡眠時無呼吸症候群の原因としてあげられるのが、「肥満」です。体重が大幅に増えると、首まわりやあご、気道の内側などに脂肪がつき、上気道が狭くなってしまいます。脂肪は舌にもつくため、睡眠中に、肥大化した舌が上気道をふさいでしまうことも。
また、鼻やのどの形態異常によって、いびきが起こることもあります。例えば、鼻が曲がっている(「鼻中隔わん曲症」)、口蓋扁桃(こうがいへんとう ※扁桃腺のこと)が大きい、口蓋垂(こうがいすい ※のどちんこのこと)が長いなどは形態異常にあたります。小児では、鼻腔(びくう)の後方にある咽頭扁桃(アデノイド)が肥大化する「アデノイド増殖症」も重要です。鼻やのどの形態は遺伝によるところも大きいので、家族にいびきをかく人がいて不安に思う場合は、医師の診察を受けてみても良いでしょう。
ちなみに、日本人は欧米人よりいびきをかきやすいといわれています。欧米人は首が長く下あごの発育が良いため、上気道が開きやすいからです。それに比べて、首が短く下あごが小さい傾向がある日本人は、いびきをかくリスクが高いといえるようです。
そのほか、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、鼻茸(はなたけ ※一般的には「蓄膿症」と呼ばれます)などの鼻・副鼻腔疾患、口呼吸、舌の筋肉の老化なども、いびきの原因として考えられます。
いびきの検査、治療法は?
冒頭でも述べましたが、いびきは自覚しづらい症状です。自分がいびきをかいているか不安に思ったり、周りから指摘されたりする場合は、病院での検査をお勧めします。特に、睡眠時無呼吸症候群かどうかを正しく判断するうえでも検査は重要です。
検査は、睡眠時に簡易モニターを設置して調べる方法と、1泊の入院で器具を装着して調べる方法があります。いずれも病院では保険適用となるケースが多く、その場合の検査費用は、自宅検査の場合は3万円程度、入院による検査の場合は5万円程度が目安となります。
検査後は、いびきの原因によって、さまざまな治療法が検討されます。主な治療法としては以下のとおりです。なお、手術の心構えとして、鼻やのどの粘膜は再生するものなので、症状が再発する可能性もあることを覚えておきましょう。
生活習慣の改善
減量、飲酒や喫煙の制限、睡眠薬の適切な使用(医師にご相談を)など、アドバイスを提示します。
オーラルスプリント(口腔内装具)療法
睡眠時にマウスピースを口に装着することで気道を確保します。
薬物治療
鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)に対する薬物治療により、鼻の通りを良くして睡眠中の鼻呼吸障害を軽くします。
外科手術
気道を広げるために、口蓋扁桃(扁桃腺)を摘出し、周囲ののどの粘膜を切離し縫い合わせる「口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)」が代表的。また、鼻の空気の通りを良くするために、鼻の形態異常を改善する手術も重要です。
持続陽圧呼吸(CPAP)
睡眠時無呼吸症候群における最も一般的な治療法。睡眠時に鼻マスクなどを装着し、枕元に置いた装置からポンプを使って鼻からのどにかけて圧をかけることで気道を広げます。対症療法であるため、使用している間しか効果が得られません。
いびきは、音そのものは周りが我慢することで解決できるかもしれません。しかし、そこに深刻な病気のリスクが隠れているとすれば、見逃してはならないサインの一つになります。本人以外に、家族やパートナーなど周りの人がいびきの症状に気づいた場合は、病院での検査を勧めましょう。いびきの原因を知り、適切な治療を受けることは、さまざまな病気への進行を防ぐだけでなく、良好な人間関係を保つことにもつながるはずです。
記事監修: 松根彰志(まつね・しょうじ)
医学博士
1984年 鹿児島大学医学部医学科卒業
1988年 鹿児島大学大学院医学研究科修了
1988年~1990年 ピッツバーグ大学(アメリカ合衆国ペンシルバニア州)留学
NPO 花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会 副理事長、事務局長
同団体は、花粉症・アレルギー性鼻炎や蓄膿症・副鼻腔炎に正しく対処するための情報発信・活動を推進しています。
日本医科大学医学部 耳鼻咽喉科学 教授
日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科部長、病院研究委員会委員長
日本耳鼻咽喉科学会、日本アレルギー学会、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 各学会の代議員
神奈川気道炎症病態研究会 代表幹事 など
<お知らせ>
日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科では、6月よりスギ花粉の舌下免役治療(新規分)を再開しました。