卵巣に小さな嚢胞が多数できて、排卵がなくなったり遅れたりする「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」。前回の「症状編」では、生理不順のほかヒゲや多毛、ニキビ、肥満といった症状が見られることをお話しました。それでは多嚢胞性卵巣症候群であることがわかったら、どんな治療を受ければいいのでしょうか。今回は、治療方法について解説します。
薬などで排卵を誘発する治療が一般的
多嚢胞性卵巣症候群は、ひとつの体質と考えられおり女性ホルモンレベルが良好に保たれていれば、経過観察していても問題ありません。しかし多嚢胞性卵巣症候群での排卵障害は年齢とともに進行するため、妊娠希望の場合は治療を開始するのが早ければ早いほど妊娠できる可能性は高まります。
若い女性などで当面は妊娠を考えていない場合であれば、ホルモンレベルが良好になるように女性ホルモン剤を用いた治療をします。生理不順の程度によって使用する薬剤や服用方法が異なりますが、まず周期的にプロゲステロンのみを投与する「ホルムストローム療法」やエストロゲン・プロゲステロン投与の「カウフマン療法」によって女性ホルモンを整えます。そして3周期ほど服用したのちに服用を中止すると、脳下垂体から卵巣ホルモンの連携が復活して正常排卵に至るという、いわばショック療法のような治療をします。
一方、すぐにでも妊娠を望む場合は妊娠したいときのみ排卵を起こすという医療処置が行われます。治療ではまず内服するタイプの排卵誘発剤が用いられますが、それで反応がない場合は他の薬を併用したり注射で排卵を誘発したりします。薬で排卵が起こらない場合には、排卵が起こりやすくなるよう、卵巣に穴を開ける腹腔鏡手術を行う場合もあります。
また近年、多嚢胞性卵巣症候群には、インスリン抵抗性が排卵を妨げている可能性があると考えられています。そのため糖尿病の検査や治療が勧められる場合もあります。
重度だと、体外受精を行うことも
多嚢胞性卵巣症候群という難しい病名を聞くと、「もう妊娠できないのでは? 」と不安に思う人もいるでしょう。でも軽度であれば、大抵は上記のような治療を行えば妊娠できることがわかっています。ただし多嚢胞性卵巣症候群は、排卵誘発による副作用が出やすい傾向があるので、排卵誘発剤による治療が困難な場合には、医師から体外受精のような高度な不妊治療をすすめられることもあるかもしれません。
多嚢胞性卵巣症候群の症状や度合いは人それぞれ違い、また妊娠できるかどうかにはその人の年齢も大きく関わってきます。信頼できる専門医と相談しながら、自分のペースで治療を進めることが大切です
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善方裕美 医師
日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。
主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など