世界最古の各国代表チームによる大陸選手権大会として知られる、南米サッカー連盟主催の「コパ・アメリカ」。スカパー!では、6月12日からチリで行われる全26試合の模様を放送する。
出場するのは、南米の10カ国に招待チーム2カ国を加えた計12カ国。それぞれ4カ国ずつ3つのグループに分かれ、各グループの上位2カ国に、グループ3位の中で成績上位の2カ国を加えた計8カ国がノックアウト方式の決勝トーナメントへ進出する。
昨年のW杯ホスト国でベスト4のブラジルやW杯準優勝のアルゼンチン、前回大会優勝国のウルグアイ、躍進著しいコロンビアなどに加え、ジャマイカとメキシコが招待国として参戦。普段は欧州各国リーグのビッグクラブでプレーするスター選手たちも多く、彼らが母国のプライドを背負って繰り広げる真剣勝負は、W杯とはまた一味違った醍醐味がある。
そんな「コパ・アメリカ」の見どころなどを、現在はFC今治(サッカー四国リーグ所属)の代表であり、スカパー!で解説も務める元日本代表監督の岡田武史氏に聞いた。
――南米のサッカーはどういうところが特徴だと思われますか?
「コパ・アメリカ」には欧州でプレーする選手がたくさん出場しますが、欧州のクラブの組織的なサッカーとは異なり、南米各国の代表としてプレーするときの彼らは、まったく違うサッカーをします。気候や気質など、様々な要素もあると思いますが、とにかく勝負へのこだわりがものすごく強い。サッカーのスタイルよりも、“勝つ”ことに重点を置いているので、個々の選手に対しても規制をしないんですよね。
――選手たちは比較的、自由にプレーするということですね。
それは、南米のサッカーに対する捉え方や価値観が、我々とは少し違うからなんです。例えば僕らは分析システムを使って、データを元にしながら相手を徹底的に研究しますが、それを見たジーコが「これはすごい! これをブラジル代表がやったら絶対に負けない」と言ったんです。でも、続けて「サッカーはストレスになってはいけない。サッカーはこうしなければいけないと規制をするものではなく、エンジョイするものだ」とジーコは言いました。あくまでサッカーは楽しむもので、ストレスになってはいけないという価値観が南米にはあるから、あまり規制はしない。でも、チームが勝つことに対しては強いこだわりがある。そこは欧州と違うところですね。
――勝利への執着心と言うと、日本との違いでもありますね。
日本もどちらかと言えば組織的に、みんなで頑張ろうという感じですよね。勝負への執着心も、平和な社会が続いていることで動物的本能である闘争心は確実に落ちてきていますから。その差は、今大会を見ると強く感じるかもしれません。それにスタジアムの雰囲気も、南米は欧州に比べるとまったく違います。いまの欧州は、家族連れでも行ける明るいエンターテイメントな雰囲気がありますが、まだ南米では熱狂した雰囲気や盛り上がりだけでなく、"負けたら大変なことになる!"という殺伐とした緊張感が残っていますからね。
――特に南米は、ライバル意識も強く持っているように感じます。
いや、表現がストレートなだけだと思いますよ。アジアでも欧州でも隣国同士というのは微妙な関係にあります。南米ではアルゼンチンとブラジル、ウルグアイがそういう関係ですよね。ただ個人的には、南米の人たちはあまり根に持っていないように感じます。ブラジルW杯ではアルゼンチンの人たちが大挙して押し寄せ、ブラジルがドイツに大敗したときはアルゼンチン人が大喜びしていた(笑)。そんなことをしたら普通は大変なことになるけど、南米ではそれが当たり前なんですよね。ブラジルはブラジルで、負けた次の日から、それまで街中にあふれていた黄色いユニフォームが見当たらなくなって、W杯なんてあったの? みたいな顔をしているんですから(笑)。
――強豪国についてはどのような印象をお持ちですか?
じっくりと見てきたわけではありませんが、ブラジルはW杯のときに見せていた"守備をしっかりしてカウンターを狙うサッカー"が、ブラジルらしくはないけど手堅い印象がありました。ホームの地の利も、メンタリティーの強さもあったから、W杯では上位へ行くと思われていたけど、やっぱり通用しなかったなというイメージですよね。アルゼンチンもW杯は決勝まで行きましたが、それほど圧倒的なサッカーではなかった。そんな中で、ものすごく面白いサッカーをやっていたのがチリとメキシコだったと思います。
――特に今大会のホスト国であるチリは、地元ですから注目ですね。
チリはかつて、(マルセロ・)ビエルサが監督をやっていましたが、その頃から大きく変わったと思っています。当時、ビエルサは(イバン・)サモラーノや(マルセロ・)サラスというチリでスーパースターだった2トップを重用せず、選手みんながアグレッシブにハードワークをするサッカーを導入しました。それまでの常識だったスター選手中心のチーム作りではなく、総合力で戦ようになってチリは強くなった。今回はホームですし、勝てば大会自体が盛り上がるでしょうから、僕は一応チリを優勝候補に挙げています。まぁ、当たらないと思いますけどね(笑)。ただ、僕は全員がハードワークをするチリのようなスタイルが、将来的なサッカーの指針になると思っていますから、チリにはぜひ勝ってほしいです。
――日本のファンは、チリのサッカーのどこに注目したら面白いですか?
(リオネル・)メッシやネイマールのスーパープレーを見るのは楽しいですし、もちろんそれもサッカーの楽しみ方のひとつです。ただ、もうひとつ別のサッカーの形として、チリのサッカーを見てもらいたい。ブラジルやアルゼンチンは、ネイマールやメッシを中心としたチーム作りをしていますが、チリには突出したスーパースターがいません。特別に背が高い選手や足の速い選手もいないけど、全員でアグレッシブに戦うサッカーなので、日本人には共感を呼ぶと思いますね。その中で、「こんなにハードワークするんだ」とか「こんなに闘争心を持って戦うんだ」という姿勢は、日本との違いとして見てほしいです。
――岡田さんが今大会で注目している選手は?
ネイマールとメッシは突出していますよね。ウルグアイの(ルイス・)スアレスは出場できないので、その2人にハメス・ロドリゲスを加えた3人が注目選手になるでしょう。難しいですが、敢えて1人挙げるとすれば、メッシでしょうか。メッシは所属するバルセロナでのプレーに比べて、まだ代表では活躍できていません。ブラジルW杯は過去に比べれば良かったけど、"王様"という感じではなかった。年齢的に考えても、メッシがマラドーナのような国民的ヒーローになる最後のチャンス。彼にとっては大事な大会になるでしょう。そういう意味でも僕はメッシに注目したいですね。
【コラム】FC今治にかける思い
岡田氏が代表を務めるFC今治は、1976年に「大西サッカークラブ」として設立され、度重なる名称変更を経て2012年に現在のFC今治に改称した。2012年と2013年に四国サッカーリーグで優勝。2012年には天皇杯でJ1サンフレチェ広島に勝利するなどの活躍を見せている。現在はJFL昇格を目指して四国サッカーリーグを戦っている。岡田氏が目指すのは、FC今治を通じたスポーツでの町おこしと、これまでにない新しいクラブ運営の形。日本人が世界で勝つため、育成からトップチームまで一貫した「型」を意識し、日本のクラブらしい「プレイモデル」の構築に取り組んでいる。「自由なところから自由な発想は生まれず、型があるから驚くような発想が生まれる」とは岡田氏の言葉。クラブの「型」から、個々が創造力を発揮し、スポーツをベースに今治の町の発展に寄与することも目指してる。
なお、岡田氏が出演する「コパアメリカ チリ2015」関連番組『俺に言わせぃ!サッカーおやじ会スペシャル!コパアメリ会!!』が、大会開催中の6月12日~7月5日の期間にBSスカパー!で放送される。出演は岡田氏のほか、金田喜稔氏、水沼貴史氏、城福浩氏。基本放送日時は、試合開催日午後11:30~深夜1:00(90分)※金曜、土曜、日曜は放送開始時間変更。グループステージ終了日6月22日(月)と決勝終了日7月5日(日)のみ午後11:00~120分拡大版として放送。※スカパーオンデマンド配信対象外。