利用者が増え続けるネットショッピングなどの通信販売。クレジットカードや代金引換など、さまざまな決済方法があるが、ネットプロテクションズが提供しているのが、後払い決済サービス『NP後払い』だ。顧客が通販で商品を購入する際、購入方法として『NP後払い』を選択すると、商品を先に受け取り、その後に届く請求書で後から支払うという仕組みになっている。2014年12月5日には、ユーザー数が累計5,000万人を突破した。今回は、『NP後払い』のサービスを提供するネットプロテクションズの柴田紳社長に、同社に入社したいきさつから、ここまで同サービスが普及した要因などについて、お話をお伺いした。

ネットプロテクションズの柴田紳社長

『NP後払い』のサービスは2002年から開始。事業者のメリットとしては、ネットプロテクションズが「未回収リスク」を負うという点が挙げられる。未回収リスクとは、商品を購入者に先に送って、代金が回収されない可能性があるというものだが、この未回収リスクを負うというビジネスモデルはかなり画期的だった。商品購入の申し込みがあった後同社が与信審査をし、与信審査に通れば代金を同社が事業者に立替払いするというというもので、同社がその後、商品購入者に請求書を送り、代金を受け取る。これは、アメリカのクレジット事業に詳しい人が考えたビジネスモデルだが、日本では柴田社長が、このビジネスをゼロから実際の形にしていったという。

商社時代に「インターネットを使った事業を自分でもつくりたい」

――ネットプロテクションズに入社される前は、どちらにいらっしゃったのですか?

日商岩井(現双日)のたばこ課に3年在籍していました。スキームが決まっている部署で、刺激が少ない仕事でした。その後、日商岩井が設立したITXという投資ベンチャー企業に移りました。当時ITの波があって、インターネットを使った事業を自分でもつくりたいと思っていて、日商岩井の中でもそういう企画を出している人がいました。インターネットを活用したような事業構築ができる、そういう人間になりたいなと。そういうスキルが身に付くような会社はどこだろうと見渡して、ITXを選んだという感じですね。24、5歳ぐらいの時です。

――IT事業に興味があったわけですね。

当時、ITXはベンチャーを買収してそこに経営陣を送り込むビジネスモデルを展開していました。2001年の5月に転職をして、すぐにネットプロテクションズを買収するかどうかという話が持ち上がってきて、その調査のアシスタントをして結果的に2001年の11月に買収に成功しました。その時点で、アシスタントをしていた僕がネットプロテクションズに出向することになったんです。

――なるほど。買収に関わったことがきっかけでネットプロテクションズに移ったんですね。

最初は取締役として出向していましたが、2004年に社長になりました。ですが、移った当初は事業実態がないような状況でした。後払い決済は安心感もあるし、ネット決済の手段としてニーズはありそうだよねという、ふわっとした構想はあったのですが、それをどう実現して、どうやって収益をあげて、どんなシステムが必要でという、その辺については全く考えられていなかったのです。

事業のイメージだけあったが、それ以外は何もなかった…

――事業のイメージだけあったんですね。それ以外は何もなかったと。

騙されたじゃないですけど、最初から投資失敗だなと思いましたね。

――柴田さんは、そこでどうされようとしたのですか。

今とは違って転職市場が未成熟だったので、転職先の会社でうまくいかなかったらキャリアはどんどん落ちていくというような恐怖感がすごくあったので、逃げ道はないと思っていました。ここでやりきって失敗したんだったら拾ってもらえるところもあるだろうけれど、ここで逃げてはキャリアが終わるという思いで、やりたいかやりたくないかということではなく、やるしかないと。

――覚悟を決められたわけですね。やるしかないということになって、後払い決済に目をつけた理由はどういうことだったんですか。

元々後払い決済はインターネットショッピングでハマるだろう、という事業構想に対してITXがお金を投資していたため、これ以外の絵をつくるわけにはいきませんでした。

会社をつくる上でのすべての機能を、ほぼ全部自分が担当

――柴田さんがネットプロテクションズにいらっしゃったときの、ネット通販というか、通販の決済の市場はどんな感じでしたか。

今とそんなに変わっていなくて、銀行振込みの前払いが主流だったほか、クレジットカードが早い段階から浸透し始めていましたし、代引きの利用も増えつつありました。

――そんな中、「後払い」のビジネスモデルをアメリカから参考にされたわけですよね。

元々この会社の創業者が、アメリカの決済の事情にある程度精通していました。そこで、この会社に来て後払いのテストサービスを4、5カ月でつくってリリースしたところ、売り手に対しても買い手に対しても、このサービス自体にニーズがあるということがわかりました。

――ただ、構想はあったけれども、事業としてはゼロからだったわけですね。

事業をつくる上でのすべての機能というか、できる人が社内に誰もいなかったので、ほぼ全部自分でやる必要がありました。後払い決済とはどういうモデルで、ショップ様とはどういう契約をして、どんな運用をして、どういうデータがどういうタイミングで回ってきて、それを手動でやるのがいいのかシステムでやるのがいいのか、システム化するとしても最初からやるべきなのか後からでいいのか、法律はどのようになっているのか、規約はどうするのか、営業はどうやるのか…。その辺を全て考えて、全部自分でやっていきました。

――すごいですね…。当時の社員は何人くらいいらっしゃったんですか。

そのころは13、4人ぐらいいたのかな。でも、大赤字で事業もなくて、社内の雰囲気も最悪という状況なので、新しい人は当分採用なんてできないよねという感じでした。

未知のビジネスモデルに恐怖感、だが「自分が進めないと前には進まない」と覚悟

――そうした中、「未回収リスク」を負うという、ビジネスモデルの実現に動いたわけですよね。それに対して怖さはありませんでしたか。

むちゃくちゃありました。できないのではないかという恐怖感に常に苛まれながら、みんなからも無理だと言われるし、株主からもこの投資は失敗で事業はうまくいくわけはないとか、誰に相談してもこんなのやるのは馬鹿じゃないのかとか言われ続けながら、自分が進めないと前には進まないので、気持ちを保ち続けるのが大変でした。

――事業の手ごたえをつかんだのはいつごろですか?

2004年ぐらいです。

――社長さんになる前後ですね。そのときはどういう状況だったのですか。

この事業が成立していくために必要なのは、まず売れること。ショップ様に導入してもらうこと。お客さんに使ってもらうこと。これは早い段階で何とかなると思っていましたが、問題は未回収リスクです。そのリスクをどうやってヘッジしていくか、そこが成り立つかどうか、当初は見えませんでした。

そこがやっと何とかなってきたら、最後はオペレーションです。現在、月150万通もの請求書を出しています。『NP後払い』を導入しているショップ様は2万店以上あり、150万人のお客様と両方から問い合わせが入ってもおかしくない。それぐらいのオペレーションを抱えている会社で、そのオペレーションを少ないコストで回していかないと利益が薄くなってしまいます。その構造を超えて利益が出るモデルになるかどうか、当初は確信が持てませんでした。

それがいろいろな重要な部分のシステムができたりとか、アイデアで突破できたりとか、何とかやれると思えるようになるまで3年かかったということです。

『NP後払い』の仕組み

仕事の記憶しかない3年間、ニーズをつかんで成功

――3年というのは長かったですか、短かったですか。

ほぼ記憶がないです。その期間は仕事しかしていなかったと思います。

――2004年に事業がいける、ということになって、さらに利益が出るようになったのはいつごろですか?

2007年から2008年です。取引量が増えて、リスクが減って、オペレーションコストが下がること。それで人件費が賄えると黒字になるという構造です。

――成功された理由は、どこにあるとお考えですか?

ショップ様という売り手と、購入者様という買い手の双方のニーズにうまく合致したということだと思います。結局、お客様が使うかどうか決めますので。

――お忙しい中、本日は誠にありがとうございました。


いかがだっただろうか。大手商社からベンチャー企業に移ってからの柴田社長の壮絶な体験を感じていただけたのではないだろうか。新しい事業を立ち上げる難しさと同時に、安易に転職せず、覚悟を持ってやりぬいた柴田社長のお話に圧倒されたインタビューだった。大手運輸会社が後払い決済市場に参入するなど競争は激しいが、これからも力強く事業を展開していかれるのだろうと確信した次第である。

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