6月7日にトルコで総選挙、リラにとってのベストシナリオは!?

6月7日、トルコで総選挙が実施される。総選挙終了後にはリラ相場が上昇するとの見方もあるが、果たしてどうか。

与党AKP(公正発展党)が圧勝すれば、エルドアン大統領は自身の権限強化に向けて邁進するだろう。専制的な政治手腕で知られるエルドアン大統領の権限が一段と強化されるならば、外国投資家はトルコへの投資を躊躇するかもしれない。逆に、最近の世論調査の一部が示唆するように、AKPが過半数の議席を獲得できなければ、AKPは連立政権の樹立を模索することになろう。その場合は、政治の不透明な状況が長引くかもしれない。いずれのケースも、リラにとって良いシナリオではないだろう。

リラにとってのベストシナリオは、AKPが議席の過半数を獲得しつつも、憲法改正の動議に必要な6割には及ばないケースだろう。つまりは現状維持であり、政治の不透明感が払拭されて、リラの追い風になるかもしれない。ただ、ベストシナリオであっても、現状維持である以上、相場材料としては早々に消化されそうだ。

総選挙が終わることで、TCMBは政治に配慮することなく政策運営ができる?

選挙結果に対する為替市場の初期反応を別とすれば、リラの命運を握っているのはTCMB(トルコ中央銀行)だろう。総選挙に向けて、景気テコ入れのためにエルドアン大統領がTCMBに利下げを迫るほどに、リラが売り込まれる場面があった。5月の消費者物価は前年比+8.1%。これに対して、TCMBの目標は+5%だ。インフレ率が中央銀行の目標を大きく上回るなかで、中央銀行が自身の判断で機動的に政策を発動できないのであれば、それは通貨安要因だ。

昨年1月にリラが大きく下落した際、それを止めたのはTCMBの大幅な利上げだった。TCMBは緊急会合を招集して政策金利を4.5%から10.0%に一気に引き上げた。これにより、リラはいったん値を戻した。しかし、TCMBが3か月連続で利下げした昨年7月ごろからリラ安が再開し、今年1月と2月の利下げによってリラ安が加速した。総選挙が終わることで、TCMBは政治に配慮することなく政策運営ができるかもしれない。総選挙後の初となる次回の会合は6月23日に開催される。会合に向けて、TCMBを試すようなリラの売り仕掛けがあるかもしれない。TCMBは利上げを決断できるだろうか、大いに注目だ。

トルコリラ相場(対米ドル)

出所:Bloombergより作成

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。