2014年12月に正式にサービスを開始した、ソーシャルレンディングサービス「Lucky Bank」。不動産特化型ソーシャルレンディングサービスを日本で初めてローンチしてから5カ月あまりとなり、その後の消費者からの反応や事業の進展状況などについて、ラッキーバンク・インベストメントの代表取締役社長・田中翔平氏と、同副社長の奥村晴雄氏に改めて話を伺った。
――改めて“ソーシャルレンディング”についてと、御社のサービス概要についてお聞かせいただけますでしょうか?
田中:はい。ソーシャルレンディングサービスとは、インターネットを通してお金を投資したい個人の方や事業者と、お金を借りたい企業をつなげる仕組みになります。その中でも、不動産特化型ソーシャルレンディングサービス会社として、弊社は2014年5月1日に設立をさせていただいたのですが、現在、約650人の投資家の方にご登録をいただいております。弊社では、“匿名組合出資契約”をもとに、個人投資家の方が弊社に出資をしていただき、その出資金を弊社で審査をした企業・事業に融資を行っていくという流れになります。つまり、出資者が弊社に出資をして、弊社が企業に融資をするということになります。
――利益というのは、どのようなかたちで発生するのでしょうか?
田中:弊社の利益は、企業側に融資を行った際に貸金業法に則った金利の設定をさせていただき、利息をお支払いいただいています。そして、その利息の中から投資家の方々へ、各ファンドに設けられた分配利率分配利率に応じて貸付金利内の収益を分配をさせていただきます。つまり、企業からいただいた利息を投資家の方々に還元するといったことになります。
――日本では6社のソーシャルレンディングサービス事業者がありますが、不動産に特化しているのは御社だけです。なぜ不動産に特化したサービスを展開されているのでしょうか?
田中:まずひとつには、不動産が持つ実物資産の価値にあります。これは、投資家の方にとっても弊社が融資をするにあたっても、より安全性が高い案件になると考えております。それともうひとつには、やはり“社会資本の再生”といった点で意義があると考えているからです。
例えば、弊社が所在している日本橋地区もそうなのですが、古い場所には古い物件があり、そういったものを不動産事業として手掛けるには、資金的に余力がある企業しか着手できないといったところを、我々としては中小企業も含めて、企業側の熱意や姿勢、計画性などを考慮し判断した上で、不動産再生事業といったものに力添えをできればと思っており、こうしたサービスを開始させていただきました。ただ単純に不動産で利益を出すということではなく、その地域が活性化されることによって、雇用拡大にもつながるなど、波及効果がどれくらいあるのかといったことも踏まえ、コンプライアンスも含めた上での企業姿勢としてサービスの拡大を考えております。
――第1号案件として、2014年12月11日に募集を開始したプロジェクトの成果はいかがだったのでしょうか?
田中:第1号ローンファンドに関しては、約2,000万円が集まり、無事に募集が完了致しました。
――以降はどのようなかたちで進んでいるのでしょうか?
田中:現在では27号ローンファンドまで募集が完了しています。場所は東京の中心地から宮城県仙台市、神奈川県といったところの案件も公開させていただいております。設立後から現在までに投資家の方が投資してくださった累計の金額は8億円強にのぼっています。
――順調なスタートとも言える状況ですが、その要因としてやはりインターネットを通じたサービスであることの利便性の高さも関係していると思われますか?
田中:そうですね。まずは、お客様が投資家登録を行っていく際に、必要書類のご提出と同意をいただく必要があるのですが、それらが一貫してインターネットで完了するというメリットは大きいと思います。そして、案件が公開されて以降も実際の投資実行もインターネットで完結するという点でも、かなりタイムリーに接することができるので、スピード感といった点でも限りなく高くなっているのではないかと思います。
――最速1分強で8,260万円が成立した案件があるとお聞きしましたが、どういったプロジェクトだったのでしょうか?
田中:東京都港区表参道エリアに所在するデザイナーズ・マンションの再生・販売プロジェクトです。事業内容としては、中古の不動産を取得後、リノベーションを行ない、国内資産家及び、海外資産家への販売を予定しております。そのプロジェクト資金の一部である第22号と第23号ローンファンドの計8,260万円募集金額に対して、21時00分に募集をさせていただいたところ、80名弱の投資家の方々より投資をしていただき、21時1分21秒には完了をしました。
――これだけ早く案件が成立してしまうというのは、日本には結構お金を持っている人が増えていると考えていいんでしょうか? それとも、もともと持っていた人が投資するようになったということでしょうか?
田中:例えば定期預金などといった一般的な金融資産をお持ちの方は大変多くいらっしゃると思います。現在弊社に登録いただいているお客様は、年収300万円から700万円の方々が約65%を占めております。いわゆる一般サラリーの平均収入と差がないということになります。しかしながら、金融資産状況は約2000万円から3000万円以上を保有しているというのが約45%にのぼります。我々のほうでこうした数字を実際に出してみてわかったことですが、年収は平均的であっても、資産として積み上げてきたものをどのように運用していくのか。いわゆる資産ポートフォリオの形成といったものをお考えになっていらっしゃる方が多いというのが弊社のお客様の特徴であると考えています。
――つまり、給与は平均的な水準だけれども、資産はコツコツ貯めてきたという人が、インフレ対策といった需要もあるのでしょうか?
田中:そうですね。それから、何より今の日本国内における金融市場の中では定期預金を含めて銀行の金利自体が低金利化している中で、海外市場に出るとなるとギリシャの財政破綻などのカントリー・リスクや為替変動リスクといったものが当然懸念されます。
そうした懸念事項があるなかで、検討が続けられているうちに埋もれてしまった金融資産というのがあります。しかし、ソーシャルレンディングサービスが普及しつつあることにより、日本国内の企業や事業といったものが、身近な存在であることから、安心して投資ができるというのはあるかと思います。
――確かに、資産運用でよくアパート投資という選択肢を聞くのですが、なんの知識もなく、アパート経営を行うことには高いハードルがあると思います。そんなとき、御社のようなソーシャルレンディング型の投資であれば、割と手軽に不動産にお金を出せるというのはありますね。
田中:まさしく不動産投資で言うと、基本的にはローンを組み、中長期的な計画を持ち、収益率を見て始められると思いますが、ソーシャルレンディングの特徴はまず少額からということです。
例えば弊社の場合は、1万円単位で投資が可能で、案件によっては半年など短期で運用できます。最長でも3年、平均すると1~2年というのが現況の市場で、感覚的には投資というよりは資産運用に近いものになるかと思います。短期的な投資でありながらも定期預金などと比べても利率が好条件といったところが資産運用的な魅力になるのではないでしょうか。
奥山:もうひとつ言えるのは、30~40代の人の投資が多いというのも特徴です。金融資産についても結構多く持っていらっしゃる方が多いです。しかも金融資産と言っても預金という方が多いです。ワンルームマンションや、土地活用型のアパートなど、今までの不動産投資というとどうしても金額が大きくなります。しかし、個人の方がお金をたくさん借りて投資をするとなるとやはりリスクが高いですよね。実物資産のキャピタルの変動というのがありますから、万が一それが起きたら負債だけが残ってしまいます。そうすると、やっぱりちょっと考える方が結構多いと思うんです。
それを考えると、ソーシャルレンディングであれば金額が小さくて、リスクもゼロではありませんが小さくて、比較的安定して金利が入ってきます。ソーシャルレンディングが今伸びてきているのは、そういう方々の気持ちを十分に反映しているからだと思います。年金さえ今後どうなるかわからないという状況で、自立型の運用をやりたいということで、リターンは少ないかもしれないけれど、コツコツと資産を増やしていきたいという気持ちも若い人にも結構あるのではないかと思っています。
――実際には金額としてはいくらぐらいの投資が多いのでしょうか?
田中:ひとりあたりの投資額で言うと、1番多いのが100万円未満です。そうした意味では少額投資といったところが、現在、投資していただいている方々の中のニーズと弊社のサービスが合致していると思っております。
――代表取締役社長の田中さん、取締役副社長に就任された奥山さん。最後に、それぞれ抱負などをお聞かせください。
田中:まずは、現状完了したのが第27号ローンファンドまでですが、年内で第100号ローンファンドの公開・募集を目指しています。不動産向けのソーシャルレンディングサービスとして認知度を高めた上で、投資経験のない方にも知っていただきたいと考えています。
そういった面でも今後は多様性のある案件を多く取り扱っていければというふうに考えております。そのひとつには例えば限られた地域の不動産だけでなく、誰もが自分の住んでいる地域であれば親近感が湧いて応援したいという気持ちが出てくると思います。インターネット上で行っているサービスなので、いずれは日本全国の不動産事業へ取り組めるように、今後は広げていきたいとも思っています。
奥山:私自身は不動産に限らず、海外でいろいろな投資事業に関わってきたのですが、日本のお金で日本のいいものに投資をして、還元を日本の人に取っていただきたいという思いが強くあります。あとは、基本的には日本の若い人のための資産形成というのが極めて大事だと思います。ソーシャルレンディングは、それに役立てるような大きなツールのひとつだと思っています。
ご存知のように、例えば通販の世界や他の世界でもすべてインターネットによって中間業者が抜け、効率が図られているということが起きています。我々が携わっている日本の不動産業界では非常に力が強い銀行業を突き破るというわけにはなかなかいかないでしょうけど、ソーシャルレンディングはその中の一部を崩しつつある勢力のひとつであると思っています。
それは事業自体としても国民全体のためにも有益なことですし、そういうものに今までの経験を踏まえてやり遂げたいなと思っております。それから、金融の世界では最後にはやはりリスク管理というのが非常に重要なことです。自分も経験をしていますが、これが十分に行われなかったことから過去にもいろいろな事件が起きています。ゆえに、弊社は小さな会社でもありますから、設立時から務めているコンプライアンスオフィサーという立場からも、十分に意を尽くしてリスクの担保を確保していきたいと思っております。