お気に入りの写真や絵葉書、雑誌の切り抜きなどを、部屋の壁にぶら下げたりノートに貼って集めた経験はありませんか? Pinterestは、ネット上の写真でそれに似たようなことができるビジュアルブックマークサービスです。ここで行うのは好きな画像をカテゴリ分けして集めるという非常にシンプルな作業ですが、実はそんなシンプルな行動が人のマインドに大きな変化をもたらすことがあります。

Pinterestで検索結果画面。ネット上にある写真を「Pin」することで、自分の「ボード」に集めていくことができる

たくさんの「ボード」をつくり、テーマごとに写真を整理しておくことができる

現在、Appleの公式サイトに掲載されている『iPadで変わる』特集では、クリエイティブなアイデアを見つけるためのアプリとしてPinterestが紹介されています。Pinterestとはどんなツールで、どんな人がどんなふうに活用しているのでしょうか。今回は、Pinterest日本語版を提供するピンタレスト・ジャパンの代表取締役 定国直樹さんと、Pinterestを様々な形で仕事や生活に活かしている3名のユーザーさんのインタビューを、前後編に分けてご紹介します。

「何かをする自分」のためのサービス

Pinterestは2010年に米国で誕生し、日本語版は2013年に提供開始。この時、ピンタレスト・ジャパンの代表取締役社長に就任したのが定国直樹さんです。Pinterestはネット上で写真を楽しむという使い方から、Instagramに似ていると捉えられることもありますが、定国さんはPinterestはSNSではないと言います。

定国さん 「SNSは"今起きたこと、または、 過去に起きたことを友達に伝えるのが楽しい"サービス。それに対して、Pinterestは"自分のために、これから何かをする"ためのサービスです。向いている方向が違うんですね」

ピンタレスト・ジャパン代表取締役社長 定国直樹さん

定国さんは自宅のベランダガーデニングをする際にPinterestを活用しました。植物には詳しくないものの、気に入ったガーデニングの写真をピンボードに集めていくうちに、好きな雰囲気の完成イメージが徐々に固まり、調べていくとそれらにはイギリスのガーデニングでよく使われるツゲ科の植物が多く用いられていることが分かったそうです。ホームセンターで苗を見てもイメージしにくい庭全体の完成イメージが、多数の写真のを集めることで浮き彫りになっていったというわけです。

Follow 定国直樹 / Naoki Sadakuni's board ベランダの装飾アイデア / Balcony Project on Pinterest.

定国さん 「部屋をどんなふうに模様替えしよう、といった質問には検索エンジンでは答えが出ません。何が欲しいのか分かっていないことについては、サーチ(検索)ではなくディスカバー(発見)していくしかない。Pinterestはそれをサポートするツールだと思っています」

心地よいプロダクト体験を追求する

現在、Pinterestでは日本語版サービス強化のため米国から専門チームを迎え様々な取り組みを行っています。その成果がPinterestのモバイルアプリに現れ始めています。

定国さん 「Pinterestの根本的な面白さである"発見し実現する"ことは、世界のどの国でも共通だと思います。ただ、そこを楽しんでもらうために必要な部分は、各国のユーザー事情によって差があるので、トライアンドエラーでどんどん進化させていくべきだと思います」

例えば日本の場合は米国に比べ、サインアップの時点で機能や楽しみ方をより詳しく伝える方が好まれる傾向があります。また、日本では特にファッション・レシピ・旅行・インテリア・DIY/ハンドメイドという5つのカテゴリの人気が高く、検索機能にはこれらのおススメコンテンツを表示するなど、より発見しやすくする工夫が加えられました。「どんどん新しいことにチャレンジし、失敗したらすぐ改善し、成功すれば伸ばしていく」(定国さん)ために、最近は3~4週間という短いスパンでアプリがアップデートされています。

定国さんはiPad miniのサイズ感がお気に入りとのこと

この速さの中でも常に重視されているのが、ブラウジングの快適さ。人はストレスには敏感でも、ストレスの無さには気付きにくいものです。リラックスして"流し見"できるストレスフリーな使い勝手はごく自然で当たり前のように思えますが、実は並々ならぬクォリティの追求によって実現されているのです。

定国さん 「どちらかと言うと『リーディング』より『ブラウジング』といえる体験ですね。これがスムーズに進むことが大事だと思っています。読んでいて気持ちが良い感覚ということですね」

現在、Pinterestへのアクセスは75~80%をスマートフォンやタブレットが占めており、昨年と比べて10ポイント以上増加しているそうです。デバイスを問わずシームレスに使えるPinterestですが、積極的に身構えて作業をするのではなく、ゆったりした姿勢で直感的に手で操作することが、好きなもの・興味あるものを見つけていくのに適しているのかもしれません。定国さんは特にサイズ感でiPad miniが気に入っているとのこと。

今後は新しいユーザーのためのアップデートと共に「Pinterestを知らないユーザーがウィジェット等を経由して入って来た時に、使ってみ ようと思える体験を提供できるよう取り組んでいきたい」 と定国さんは語ります。利用者が増えて新しいピンが増えることは、既存のユーザーにとってもうれしいこと。さらに仲間が増えていくことに期待です。

Pinterestで『イメージを共有』するデザイナー

ピンタレスト・ジャパンのオフィスは、目黒川沿いのリノベーションされたビルに入居しています。インテリアはもちろんオシャレ。と言っても、気取らず自由な発想で使える造りで、遊び心も見られます。このオフィスをデザインしたのが、PinterestユーザーでもあるMakeshiftの福垣慶吾さんです。もともとアメリカで建築関係の仕事に携わり、現在は日本でアプリ開発・運営やインテリア設計の事業を手掛けています。

アプリ開発・運営やインテリア設計の事業を手掛けているMakeshiftの福垣慶吾さん

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Pinterest歴4年以上という福垣さんですが、2年ほど前から仕事にも活用する機会が増えたと言います。きっかけは、インテリアデザインのプロジェクトで壁画を描くアーティストを探していた時。

福垣さん 「クライアントとイメージを共有するのにPinterestを使うと、食い違いがなくなるということに気付いて。それ以来、仕事でもいつも使うようになりました」

例えばクライアントから「和風なテイスト」と要望されても、「和風」という言葉の示す幅が広いためにお互いのイメージが合致しない恐れがあります。そこでPinterestにプロジェクトごとのボードを作ってクライアントとiPadを使って共有すれば、お互いのイメージをシェアすることを起点にさらに良いものを見つけていけると福垣さんは考えています。iPadを導入したことで、無駄な時間が省け、方法論に関しても変化が起こったようでした。

その方法でデザインされたのがピンタレスト・ジャパンのオフィス。プロジェクトではデザインの前にPinterestの社員も参加して共有のピンボードが設置され、どんなオフィスにしたいかというイメージが集められました。

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次に、福垣さんはボードの参加者を集めてワークショップを開き、参加者たちが何に注目してピンを打ったのかを会話の中から探っていきました。すると、一見バラバラに見えたイメージの底に共通するコンセプトが見えはじめ、それを福垣さんが自分なりに解釈して最終的なデザインが作られていきました。

福垣さん 「集めたものを整理するというより、お互いにもう一度イメージを作る作業をしたのだと思います。会話をするうちに『なんとなく』が明確になっていった。誰かのアイデアを採用しないのではなく、それを踏まえて新しいイメージを作るほうが合理的だし、新しいものが生まれます。それが会話ベースでできるので、デザイナーとしてはすごくやりやすいですね。iPadの大きな画面で閲覧するから、少々人数が多くてもイメージが見やすく共有しやすいというメリットもあったと思います」

もう一つのデザイン会社とのコラボレーションで作業が進み、Pinterestで見つけたディテールをヒントに、福垣さんたちが自ら作業を行った部分もあったそうです。Pinterestは、モノづくりが好きな人の心を刺激してやみません。

好奇心が「やりたい」に変わる

福垣さんは、仕事でプレゼンをする際もイメージを伝えるツールとしてPinterestのボードをそのまま利用しています。クライアントが違うイメージを持っていた時にもその場で検索してすぐにイメージを追加できるという、ライブなプレゼンが可能なことがその理由。このやり方が福垣さんのデザインに対する考え方に合うのだそうです。

福垣さん 「デザイナーができることは80%までだと思っています。残り20%はクライアントがその空間を使って完成するものだから、開けておく必要があるんです。デザインをガチガチに固めて渡すのではなく、自分たちのライフスタイルは自分たちで見つけて欲しい。僕はあくまでツールを提供する程度という思いです」

福垣さんが愛用しているのはiPad 2。4年前のモデルだが、最新のiOS 8.3がキビキビと動いていた

情報集めという意味では新聞や雑誌のスクラップにも似ていますが、Pinterestはただ見るだけでなく「何かできるんじゃないかと思わせてくれる」ところが魅力だと福垣さんは言います。Pinterestには誰かが興味を持ったもの、やりたいと思って集めたものが蓄積されていて、その空間にいると世界中のユーザーの"やる気"に影響を受けるのだそうです。

福垣さん 「自分がインスパイアされたものを、まずは集めてみるのがいいんじゃないかと思います。最初は探すのが楽しくて、集まってきたらもうやるしかない! という感じになると思います」

iPhoneもMacも使いこなす福垣さんですが、iPadは仕事関連のアプリを最小限だけ入れ、仕事とプライベートを繋ぐものとして使っているとのこと。持ち歩く時は「ほとんどノート代わり」というだけに、インスピレーションを手軽にメモできるPinterestとiPadのコンビは最適なツールと言えます。また、自宅ではリビングに置いて動画を見たり、奥さんとお互いのiPhoneの写真を共有したり、それをApple TVでテレビに映したりと、iPhoneよりもオープンに使える特性が活用されています。