「子はかすがい」というように、夫婦関係において子どもは昔から大切な存在だと考えられてきました。ですが、CNNが伝えるところによると、イギリス・オープン大学が英米で5,000人を対象にして行った調査の結果、子どものいない夫婦の方が子どものいる夫婦に比べて夫婦関係に対する満足度が高く、関係を保つことに努めているというのです。また、人生で最も大切なのは誰かという調査では、子どものいる女性は自分の子どもを、子どものいる男性は自分のパートナーを挙げる傾向にあることがわかったといいます。
つまり、夫は妻が、妻は子どもがという片想いの関係が、子どものいる夫婦の現実のようです。また、アメリカ・プリンストン大学とストーニーブルック大学の共同研究によれば、子どものいる夫婦は人生の喜びが多い一方で、ストレスや負の感情も多いといいます。もちろん、英米の調査が日本にそのままあてはまるかは、吟味が必要です。ですが、もしこの結果が日本の夫婦にもあてはまるなら……。
日本でも「産後クライシス」が注目される現在
一般的に日本の場合、夫婦それぞれの就労形態や家事や育児への関与を指標に、夫婦間家の満足が研究されてきました。その意味で、子どものいない夫婦の方が、子どものいる夫婦に比べて、夫婦関係に対する満足度が高く、関係を保つことに努めているというオープン大学の研究は、とても興味深いものです。
もちろん、子どもがいる夫婦も幸せに暮らしているケースが多々あると思います。しかし、日本でも「産後クライシス」という言葉が注目されるように、子どもの誕生後に夫婦関係に亀裂が入るという問題が生じています。この研究結果を踏まえて、子どもがいる夫婦の幸せについて今一度考える必要があるのではないでしょうか。
子どもがいる夫婦が平和で幸せに暮らすには、どうしたらいいか。それを考えるためには、なぜ子どもがいると平和に暮らせないのかを考えてみればいいと思います。
夫婦に子どもが生まれる。それは、夫婦という親密な2者関係の中に、子どもという第3者が登場することの問題です。つまり、子どもが生まれる前では、すべての時間が夫婦2人きりだけだったのに対し、そこに子どもが登場することで時間が奪われます。夫婦2人の時間が減るということは、コミュニケーションの量が多少なりとも減少するでしょう。すると、お互いの考えていること、お互いの気持ちが相手にうまく伝わらなくなりコミュニケーション不全を起こしてしまいます。
これは心理学の研究でも明らかになっていますが、夫婦のコミュニケーションは、特に妻の夫婦関係満足度を大きく左右し、とりわけ子育て期ではその傾向が強いとされています。そして、「相手をもっと理解しようとすること」や「相手の言い分を十分に聞くこと」で、夫婦間の精神的な健康が維持できるとされています。つまり、夫婦お互いが、お互いを理解しようと積極的にかかわることで、夫婦関係がうまくいくのです。子どもができたことにより、子ども優先(それも大事ですが)になってしまい、お互いの努力が減ってしまった。そうなると、夫婦関係はうまくいきません。「どうして理解してくれないのか」とストレスにもなります。
夫婦関係で一番大事なことは、お互いに相手の人柄を愛し、尊敬し、かけがえのない人として大切にする気持ちです。その気持ちを忘れずに、お互いに理解し合う努力を続けること。それが、子どもがいる夫婦が、平和に幸せに暮らせる方法だと思います。
著者プロフィール
平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理に詳しい。
現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は「化粧にみる日本文化」「黒髪と美女の日本史」(共に水曜社)など。