日本にとって、「欧州」は理解しがたい!?
「欧州情勢は複雑怪奇」―。
これは昭和14年に内閣総辞職に際して、平沼首相が残したセリフだ。
欧州は様々な国の思惑が絡まり合い、物理的な距離の遠さもあって、日本からは理解しがたい。それは今も変わらないのかもしれない。
ギリシャとユーロ圏の交渉は、長い歴史や独自の哲学に基づいているのか、非常にゆっくりとしたペースで進んでいる。いつが本当の「期限」なのか判然としない。英国では総選挙で予想外に保守党が過半数の議席を獲得したが、EU(欧州連合)離脱の国民投票を公約したこともあって、今後改めて政治不安が高まるかもしれない。スコットランド独立を標榜するSNP(スコットランド民族党)が多くの議席を獲得したことも、先行きの不安材料かもしれない。
金融市場においても「怪奇」現象!?
さて、金融市場においても「怪奇」現象がみられた。4月中旬にほぼゼロまで低下したドイツの長期金利(10年物国債利回り)が5月に入って急騰したのだ(国債の価格は下落)。また、ユーロ相場(対ドル)は3月中旬に続いて4月中旬に1ユーロ=1.05ドル近辺で二番底をつけて、1.15ドル近くまで反発した。少し前までユーロの下落が続いており、パリティ(1ユーロ=1ドル)もありうるとみられていただけに、ちょっとした衝撃だった。
もっとも、そうした状況はある程度説明可能だ。米国や英国、日本などの主要国の長期金利は既に1月下旬に底打ちしていた。これは原油価格が底打ちしたタイミングとほぼ同じだった。つまり、原油安による物価押し下げ期待がはく落したことが長期金利の反発につながった。一方で、ドイツの長期金利は、原油価格や主要国長期金利の反発を無視して、低下を続けた。ECB(欧州中銀)が1月にQE(量的緩和)による国債購入を決定して実際に3月から購入を開始したこと、そしてギリシャ情勢の混乱によってギリシャから安全なドイツへの投資資金のシフトが起こったことなどが背景とみられる。
ただ、さすがに長期金利がほぼゼロ(厳密には0.05%)というのは行き過ぎだったのだろう。「低金利」が代名詞の日本の長期金利でさえ、史上最低は0.20%だった(今年1月20日)。直近ボトムから5月中旬までの上昇幅は、日本を除く他の主要国もドイツもほぼ同じだ。つまり、ドイツの長期金利が他の長期金利にキャッチアップしたとみることもできよう。
一方、ユーロ相場(対ドル)は1月下旬から3月中旬や4月中旬までの下げ幅を、5月中旬までにほぼ戻した格好だ。
ユーロ相場もドイツ長期金利も、「行き過ぎ」はほぼ修正されたのかもしれない。今後は、内外の経済ファンダメンタルズの変化に対して素直に反応することが期待されるのではないか。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。2015年5月29日にWEBセミナー「マーケットリサーチ・レーダー:6月の投資戦略の探求」を開催する。詳細はこちら。