最近では、美容への関心が高い男性が増えてきました。洗顔後に化粧水を塗ったり、ネイルサロンへ通ったり。では、どうして男性は美容に関心をもつようになったのでしょうか。

有史以来多かれ少なかれ男性も化粧をしていた

1994年、イギリスの作家マーク・シンプソンが、「メトロセクシャル」という言葉を作品の中で登場させます。都会に住み、美容やファッションなどに高い関心を持つ、"中身だけではなく外見も大事"と考える男性たちを称して、「メトロセクシャル」呼んだのです。想像しやすい男性で具体的に言うと、デビッド・ベッカムのイメージでしょうか。

ですがもちろん、マーク・シンプソンの影響によって現代の日本で美容に関心をもつ男性が増えた訳ではありません。タイミングとしては、年功序列型の給与体系から成果報酬型のインセンティブ給与体系が2000年頃から導入され、営業職などで外見も能力のうちと考えられるようになったことが影響しているのかもしれません。肌も荒れ、髪もボサボサの男性より、お肌スベスベでさわやかな男性に営業された方が好印象ですよね。ですが実は、化粧文化論的に言えば、男性が化粧をしなかった歴史はなく、程度にこそ差はあるものの、有史以来、男性だって化粧をしてきていました。

化粧でストレスが軽減される

では、なぜ男性は化粧をするのか。そこにはさまざまな理由があります。例えば、リラクセーション効果。人はストレスを感じた時にそれを軽減させようと、いろいろな行動をとります。お酒を飲んだり、買い物をしたり、日記を書いたり……。これらは、その行動の一部です。そして、化粧にもストレスを軽減させる効果があるんです。以前、男子大学生を対象にマニキュアをすることで、ストレスがどう変化するかを事件で検証したことがあります(「男性による化粧行動としてのマニキュア塗抹がもたらす感情状態の変化に関する研究」)。結果はというと、見事にストレスが軽減されました。

化粧は男性にも自信を与えるエッセンスになる

また、化粧によって自信が持てるという効果も期待できます。これは、ある情報科学番組で、男性に化粧をしている時としていない時の状態で、初対面の女性と会話をする際の積極性の変化を調べるという実験を監修したことがあります。その結果はというと、化粧をしたときの方が化粧をしていないときに比べて、積極性が高まるということが証明されました。つまり、自分に自信が持てるということが分かったんです。こういった効果があるからこそ、ストレスが多く、また人と会うことの多い営業職の男性の間で美容や化粧に対する関心が高まっているのかもしれません。

化粧は、顔に施すものであるがために、どうしても顔の美醜に関連づけて語られることが多いのが実情です。また、どうしても「化ける」に「粧う(よそおう)」と書くことから、日本では化粧に対する批判が強く、そういった批判への懸念から化粧に関する研究が進んできませんでした。ですが、化粧には自信を高めることやストレスを軽減させることに代表されるような、メリットがたくさんあるんです。まだまだ、「男が化粧なんて」と思う人もいるでしょうが、男女を問わず化粧の心理的効用をうまく利用してほしいなと思います。

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著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。