「根拠なき熱狂」のエピソードとは?
米FRBのイエレン議長は、5月6日の講演で「株価のバリュエーションはかなり高い」と述べ、株高に注意を喚起した。これをもって、グリーンスパン元議長の「根拠なき熱狂」になぞらえる見方もあるようだ。ただし、結論は、警鐘を鳴らすのは「数年早すぎる」である。
そこで、1996年の「根拠なき熱狂」のエピソードを振り返っておきたい。それは主にIT(情報技術)株ブームに警鐘を鳴らしたものだった。
グリーンスパン元議長はIT革命に悲観的だったわけではない。むしろ、元議長は、米経済悲観論が支配的だった1993年ごろに早くも、IT投資の急増とサービス部門の労働生産性の上昇、すなわち後に「ニューエコノミー」とよばれる現象に気づいていた。
それでも、IT株を中心に株高が続くなか、元議長は1996年12月5日の講演で、低インフレや高収益が株高の背景にあることを認めつつ、「根拠なき熱狂が、正当化できる以上に資産価格を押し上げ、それが長期的な収縮につながりかねないことを、我々はどうやって知ることができようか」と述べたのだ。
急落に転じたのは、「根拠なき熱狂」から3年4か月後
グリーンスパン元議長はその後も、機会をとらえては株高に警鐘を鳴らし続けた。しかし、警鐘を無視して株価は上昇を続け、IT株を多く含むナスダック指数が最高値をつけて急落に転じたのは、「根拠なき熱狂」から3年4か月後の2000年3月10日だった。
ナスダック指数は2000年3月10日の5132から2年半で約8割下落し、2002年10月10日に1108で底打ちした。それは「根拠なき熱狂」発言の前日、1996年12月4日の終値1297とさほど変わらない水準だった。その意味で、グリーンスパン元議長の警鐘は正しかったと言えなくもない。
グリーンスパン元議長の失敗は、株高に警鐘を鳴らすのが早すぎたことではないだろう。むしろ、元議長が後悔しているのは、ナスダック指数が急落を始める4日前、2000年3月6日に株高を肯定するような発言を行ったことかもしれない。元議長は「ニューエコノミー」と題する講演のなかで、「構造的な生産性の伸びがもたらす高い期待は、株価などの資産価格を引き上げている」と述べたのだ。
ナスダック指数が2000年3月の高値を約15年ぶりに更新した現局面で飛び出した、イエレン議長の発言が「数年早すぎる」かどうかは判然としない。ただ、株価の上昇が続けば続くほど、その反動が大きくなる可能性がある点に留意する必要はありそうだ。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。