子宮頸がんの現状や原因、治療法とは

NTT 東日本関東病院 産婦人科医長・近藤一成医師が「子宮頸(けい)がん ~産婦人科医になって感じたこと~」を講演した

MSDはこのほど、メディアセミナー「『子宮頸(けい)がん "私の問題"』~本当の怖さは『知られていないこと』かもしれない~」を都内にて開催した。同セミナーでは、「子宮頸がん ~産婦人科医になって感じたこと~」と題し、NTT 東日本関東病院 産婦人科医長・近藤一成医師が講演した。

日本では1日に約10人の女性が子宮頸がんで死亡

子宮に発生する上皮由来のがんは、子宮の奥(子宮体部)に発生する「子宮体がん」と、子宮の入り口(子宮頸部)にできる「子宮頸がん」に分けられる。子宮体がんは閉経後の50代以降の女性に多くみられるのに対し、子宮頸がんは20~30代の若い女性に急増しているという。

子宮頸がんは、毎年世界で約50万人が新たに発症し、約28万人が亡くなっていると推定されている。日本だけで見ても、毎年約1万人以上の女性が新たに子宮頸がんにかかり、約3,000人が亡くなっているという(「国立がん研究センター がん情報サービス」より)。

子宮頸がん 罹(り)患数(リスク)

"女性特有のがん"と呼ばれるものの中でも、子宮頸がん(上皮内がんを含む)は乳がんに次いで罹(り)患率が高く、特に20~30代のがんでは第1位に。若い女性の発症が増えている理由としては、性交渉の低年齢化などが考えられるとのこと。「子宮頸がんは性交渉のある女性なら、誰にでも起こりうる病気です。今日も日本のどこかで10人もの人が子宮頸がんで亡くなっているのです」と近藤医師。

子宮頸がんの原因は?

HPV感染による異形成、がん化のリスク

子宮頸がんの原因は、「ヒトパピローマウイルス(HPV=human papillomavirus)」の感染であることが明らかとなっているという。実はHPVは、性交渉のある女性の80%以上が50歳までに感染すると言われるウイルスで、多くの場合は、感染しても免疫力によって自然に体内から排除されるという。しかし、がんを引き起こす可能性のある「高リスク型」のHPVが排除できずに感染が持続した場合、5~10年以上かけて子宮頸がんを発症する可能性があるとのこと。

高リスク型のHPVに長期にわたり持続感染すると、正常な細胞とは異なった形態の細胞に変化していくという。そのような異常な細胞で構成された上皮を「異形成」といい、それ自体はがんではない。異形成には程度があり、異常細胞が少ない軽度の場合には自然に治ることも少なくないとのこと。しかし、正常組織よりもがん化しやすいとされる「前がん病変」(「高度異形成」「上皮内がん」)では、浸潤がんに進行する可能性が高まるという。

治療が女性の人生に与える影響

子宮頸(けい)がん: 進行期と治療法

子宮頸がんの進行期は0期~4期(数字が大きいほど進行している)に分けられ、それに応じて治療法も異なる。近藤医師は、「初期の子宮頸がんは全くと言っていいほど自覚症状がないことから、発見が遅れ、"気づいたときには既に進行していた"というケースも少なくありません」と語る。

子宮頸がんを発症した場合、上皮内がんの段階(前がん病変)で見つかれば、「円錐(すい)切除」という子宮頸部の一部を切除する手術で治療することが多いとのこと。子宮を温存できることから、医学的には、その後の妊娠・出産も可能とされている。

一方、がん細胞が基低膜(上皮・筋・神経組織が結合組織と接する所にある膜状のもの)をこえて広く体の組織内で増殖してしまっている場合は、進行期に応じて、子宮全摘手術、広汎(はん)子宮全摘出手術(子宮・卵管・卵巣・子宮周囲のじん帯・リンパ節など、広範囲に切除する手術)、放射線治療、化学療法といった治療法がとられる。

どの治療法を選択したとしても、さまざまな後遺症を伴うリスクがあり、学業、仕事、恋愛、結婚、出産、育児など女性の人生に大きな影響を与えるという。主な影響として次のようなものがあげられる。

円錐切除術によって起こりうる主な影響
・妊娠するまでの期間の長期化
・早産や低出生体重のリスク増加
・再発の心配

広汎子宮全摘出手術や放射線治療によって起こりうる主な影響
・妊よう性の喪失(妊娠できなくなる)
・両側卵巣を摘出した場合、卵巣欠落症候群(更年期障害のような症状)
・リンパむくみ(リンパ液の貯蓄による下肢・そけい部・外陰部・腹部のむくみ)
・排尿や排便障害、腸閉塞(へいそく)
・直腸膣漏(ちつろう)や膀胱(ぼうこう)膣漏(直腸や膀胱の内容物が膣に漏れ出る)
・骨粗しょう症リスクの増加
・転移や再発の可能性
・夫婦やパートナーとの関係の悩み

さらに患者の中には、世間の"子宮頸がんは性感染症である"といった間違った認識で苦しむ人や、病気のことをパートナーへ打ち明けられないなど、恋愛や結婚へのためらいを感じる人も多いという。

子宮頸がん検診の受診率、アメリカ85%、日本38%

このように、発症すると治療はもちろん、治療後の負担も大きいと考えられる子宮頸がん。では、どうしたら防ぐことができるのか。近藤医師は「予防と早期発見のためには、子宮頸がん検診を受けることです」と語る。

世界の子宮頸(けい)がん検診受診率

世界各国の子宮頸がん検診受診率を比較すると、アメリカがトップで85.0%。次いで、オーストリア、ドイツ、スウェーデン、ノルウェー、ニュージーランドも、それぞれ75.0%以上と高い受診率を誇る。これらの国々に対し、日本の受診率は37.7%にとどまっているのが現状だ(「OECD Health Statidstics 2013.」より)。

一方で、子宮頸がんには「腺がん」という進行が早い種類のものもあり、"半年前の検診では異常が見つからなかったのに発症した"というケースも。だからこそ、日頃から子宮頸がんを自分にも起こりうる病気として捉え、定期的な検診を心がけることが重要なのだという。

病気が治っても、結果として子宮を摘出することとなり、肩を落として病院をあとにする患者を数多く見てきたという近藤医師。「私は子宮頸がん検診を義務化してもいいくらいだと思っています」と語気を強める。そして日本の女性に向けて、「子宮は生命維持に必要なのではありませんが、次世代のいのちを紡ぐ臓器です。私たち産婦人科医は子宮を守るために、予防法や治療法の開発を常に考えています。予防に勝る治療はありません。ぜひ、検診に行ってほしいと思います」と呼びかけた。