――3つのクラウドサービスを組み合わせることで、どんなサービスが提供されることになりますか。
過去2年に生成されたデータは、人類が誕生してから生成されたデータの約9割を占めるといったような調査結果がありますが、それだけ、いまの世の中には数多くのデータがあふれかえっています。そうした流れを形成するもののひとつに、ソーシャルメディアなどに投稿されている数多くのテキストデータや画像、映像があります。こうした情報の投稿や利活用において、アドビのツールを活用してもらえる場が増えているといえます。写真の加工や、PDF化すること、さらにはこれらのコンテンツを活用してマーケティング活動をしていくという点でも、アドビは貢献できます。
世界がデジタル化していくなかで、アドビの製品を活用して、情報をさらに有効活用してもらいたい。いま、アドビでは、「4つのM」という表現をしています。これは、Make(コンテンツ制作)、Manage(コンテンツ管理)、Measure(計測)、Monetize(収益化)の頭文字を取ったものです。Creative CloudとDocument Cloudは「コンテンツ制作」のためのツールであるとともに、ここで作ったものをしっかりと「コンテンツ管理」していくツールでもあります。そして、ManageとMeasureの間には、マーケティング活動や営業活動など、なにかしらの行為が発生するわけですが、これらの活動を行った結果はどうだったのか、インパクトはどうだったのかということを「計測」することになる。ここは、Marketing Cloudの役割です。「計測」した結果、それが「収益化」につながり、さらに改善点があれば、「コンテンツ制作」へと反映させることができる。このように、マーケティングプロセスを包括的に支援できる唯一の企業がアドビです。
――一方で、クラウドへの舵の切り方があまりにも急激であったため、ユーザーが置き去りになっているという印象も受けます。
クラウドサービス化したことによって実現したモバイルデバイスへの柔軟な対応や、新たな時代に向けた新機能の提供のほか、銀行振り込みへの対応や発注書への対応など、購入しやすい環境を提供している点にも評価が集まっており、すでにかなりのユーザーがサブリスクリプションモデルへと移行しています。ただ、クラウド環境への移行は、まだまだやらなくてはならないことがあると感じています。
――Document Cloudでは、紙の文化と共存させるということを強く訴求していますね。
日本ではまだまだ紙の文化が中心となっています。社内の申請や購買手続き、稟議など、社内のルール上、紙でしかできないような仕事も数多くあります。しかし、それを否定するのではなく、むしろ、うまく活用しながらも、お客様の課題を解決することを支援したいと考えています。そこにDocument Cloudの役割があります。
紙の書類も、モバイルデバイスのカメラで撮影し、それをPDF化し、必要な加工をして、情報共有するといった使い方ができるわけですが、従来の仕組みでは、それをやるには、かなりの手間がかかりました。スキャナーが必要だったり、ソフトウェアをインストールしたりといったことも必要でした。しかし、いまでは手元のモバイルデバイスで、それらの作業のほとんどは代替できますし、Document Cloudによって、いつでも、どこでも利用できるようになります。複合機でも、紙への出力だけでなく、PDFへの出力が可能な製品が増えていますし、電子黒板でも手書き文字が一気にPDFに変換できる。PDFを利用すれば、上司が出張続きで、紙の申請書類は上司の机の上に置かれたままで、いつまで経っても手続きが進まないということもなくなる。紙で往復する回数を減らすことは、業務の大きな効率化につながります。
このように、効率化のために、紙の情報をPDFで共有するのであれば、そのステップを大きく削減して、もっと手軽に行えるようにしたい。PDFは、社内、社外を問わず、どんなアプリケーションであれ、最も使われるフォーマットですから、情報の共有化には最適です。共通化している点では、紙に最も近いフォーマットであり、それでいてデジタルならではの利便性、効率性が図れる。つまり、紙をデジタル化するには、最も身近なフォーマットともいえるわけです。紙との共存を図りながら、デジタルならではの使い方を付加することが、アドビの提案ということになります。
――Document Cloudで新たに提供するe-signを活用した、日本市場に向けた利用提案はありますか。
たとえば、日本の法律に準拠した形で、契約書にe-signを活用するといった提案は可能ですが、具体的なソリューション提案はこれからになります。電子サインは、日本では普及していない仕組みですから、我々からも積極的に利用提案をしていく必要があります。見方を変えれば、大きなビジネスポテンシャルがあるともいえます。
また、これは、決定した話ではありませんが、ハンコにも対応してほしいという声が多ければ、そうしたことも考えていきたいですね。利用者からのフィードバックをもとにして、日本の商習慣にあわせた形で進化させるといったことにも取り組みたいと考えています。
――Document Cloudの最初のゴールはどこになりますか。
社内の数値目標とは別に、Acrobatにはなかった機能の活用率が高まることを期待しています。例えば、スマートフォンで撮影したデータを、JPEGのまま保存するのではなく、PDFに変えて情報を共有したり、画像データから文字データに変えたりといったことが行われるようになるといいですね。また、e-signの導入も、日本の企業におけるビジネスの効率化に寄与すると考えていますから、この利用率ということにもこだわりたい。米国では、EchoSignを利用した契約書の総数が、1年間で1億件に到達しています。日本でもこうした指標は重視したいと考えています。
Acrobatは、大手企業の社員が複数のデバイスで利用していますから、社員数に対する導入率が100%以上となっている場合も多い(笑)。そこまでいくにはまだ時間がかかるかもしれませんが、e-signを利用することによるメリットは積極的に訴求していきたいと考えています。