4月30日で全22作品がそろった2015年の春ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。
別記事(男は弱く、女は強く、病んでいるキャラが続出! 2015年春ドラマ全22作の傾向を徹底分析)において、春ドラマの主な傾向を[1]強力な原作で勝負! [2]男優主演ドラマの巻き返し [3]ヒロインたちはますます強く [4]病んでいる大人たちの物語 [5]枠をめぐる戦略と挑戦 の5つと分析。
オススメドラマとして、第1位『恋愛時代』(日テレ系 木曜23時59分)、第2位『アイムホーム』(テレ朝 木曜21時)、第3位『64』(NHK 土曜22時)、第4位『天皇の料理番』(TBS 日曜21時)、第5位『Dr.倫太郎』(日テレ 水曜22時)を選びました。
本記事では、それらの作品を含む、今クール全作品のひと言コメントと採点(3点満点)を紹介していきます。
『ようこそ、わが家へ』 月曜21時~ フジテレビ系
出演者:相葉雅紀、沢尻エリカ、有村架純ほか
寸評:もはや"月9"という概念はなくなりつつあるが、これほどシリアスなサスペンスは挑戦と言える。それも池井戸潤の原作あってのことだが、気になるのは一家がやられっぱなしの流れ。さらにドラマのテンポもスローなだけに、終盤の謎解きまで視聴者を引きつけられるか心配が募る。オリジナルキャラの沢尻が重要な役割を担いそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『戦う! 書店ガール』 火曜22時~ フジテレビ系
出演者:渡辺麻友、稲森いずみ、千葉雄大ほか
寸評:タイトルは書店員の群像劇というイメージだが、実際は「渡辺vs稲森」の年の差バトルという印象が強い。そのことは『ファースト・クラス』などで女性同士のシビアなバトルを描いてきた渡辺千穂が脚本を手がけていることからもわかる。十八番のトホホな役で安定感いっぱいの稲森に、渡辺麻友がどこまで食い下がっていけるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆☆】
『マザー・ゲーム~彼女たちの階級~』 火曜22時~ TBS系
出演者:木村文乃、長谷川京子、檀れいほか
寸評:ママたちの設定は、同テーマのヒット作『名前をなくした女神』とほぼ同じ。ただ、同作よりもドロドロのバトルは少なく、あっさり事件が解決していく。4人の主演経験済み演技派女優に囲まれた木村は、初主演に加えシングルマザー役に苦戦気味。陽斗役の横山歩くんが見せるキョトンとした表情は、鈴木福くんをほうふつとさせる。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『美女と男子』 火曜22時~ NHK
出演者:仲間由紀恵、町田啓太、草刈正雄ほか
寸評:何より驚いたのは、80年代を思わせる全20回の放送。9~10話が主流の中、こうした思い切ったことがやれるのはNHKならではであり、頼もしい限り。『花子とアン』コンビは演技の相性が良く、お互いの魅力を引き出している印象。ただ「マネージャーと俳優の成長と恋」という使い古されたコンセプトだけに、脚本への要求は高くなる。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『警視庁捜査一課9係』 水曜21時~ テレビ朝日系
出演者:渡瀬恒彦、井ノ原快彦、羽田美智子ほか
寸評:ついに10周年を迎えた名作だけに、今シリーズも「変わらないこと」への覚悟がうかがえる。初回は意気込みを示すための2時間版。いきなり加納係長が撃たれるというドラマを用意したほか、新宿中央署から追い出された過去、仲直りした娘との会話を交えて、盛り上げた。刑事たちのコンビネーションを見ているだけでも十分楽しい。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『Dr.倫太郎』 水曜22時~ 日テレ系
出演者:堺雅人、蒼井優、吉瀬美智子ほか
寸評:押しの強い役が続いた堺が久々にソフトなキャラを好演。聞く側に回るだけにインパクトはないものの、抑えの効いた演技で各話のゲストを引き立てている。今後、恋愛で壊れていく姿が見どころになれば面白そう。派手さのない映像と淡々とした展開は、『mother』『Woman』の水田伸生さんらしい演出だが、最後までやり通せるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『心がポキッとね』 水曜22時~ フジテレビ系
出演者:阿部サダヲ、藤木直人、山口智子ほか
寸評:興味深いのはメインの4人が、DV、自分探しの押しつけ、ストーカー、罪のない無配慮と「人を傷つける」人物像であること。『最後から二番目の恋』のチームがポップに描いているが、視聴者に意図が伝わっていない気もする。あえて90年代風の演技を見せる山口のキャラは好みが分かれるだけに、肝の会話劇までたどり着けない人も。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『京都人情捜査ファイル』 木曜20時~ テレビ朝日系
出演者:高橋克典、松下由樹、松平健ほか
寸評:内容はまさにタイトル通り、人情を詰め込んだ同枠にピッタリのドラマ。「熱いヒーロー、優しきヒロイン、器の大きいボス」という3人の関係性が、王道のドラマであることを物語っている。ポイントは、秘密任務の許可を得るシーン。そこからは時代劇のように事件解決まで急展開で、被害者や遺族の再生までをしっかり描いている。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『かぶき者 慶次』 木曜20時~ NHK
出演者:藤竜也、中村蒼、西内まりやほか
寸評:ファンの多い前田慶次だが、晩年にクローズアップしたコンセプトに驚かされた。73歳の藤は、殺陣こそややあやういが、風流人らしい仕草などはさすがの貫録で、「渋い、深い、器が大きい」慶次の一挙手一投足から目が離せない。酒と女を楽しんで見せる笑顔はチャーミングですらある。慶次の妻子も、負けじとかぶき者なのも面白い。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『ヤメゴク~ヤクザやめて頂きます~』 木曜21時~ TBS系
出演者:大島優子、北村一輝、遠藤憲一ほか
寸評:堤幸彦の演出、大島のキャラ造形、共通キャストなど、『SPEC』要素が強いが、内容は人情モノの刑事ドラマに近い。北村のコテコテ関西弁とリーゼント、麩菓子「大麩豪」、ズロース、着信音など随所に笑いどころを作るのは、堤監督らしい演出。低身長の大島がヤクザを壊滅させるシーンにもう少しリアリティか遊びのどちらかが欲しい。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『アイムホーム』 木曜21時~ テレビ朝日系
出演者:木村拓哉、上戸彩、西田敏行ほか
寸評:「ヒーロー」から一転、「フツーの人」と「悪い男」を演じる木村に新鮮味アリ。周囲の人々から軽蔑され、戸惑う姿を引き出したテレ朝スタッフの功績と言える。記憶喪失や10本のカギなどのミステリーに、2組の妻子をめぐる家族愛を絡めたストーリーは見ごたえ十分。仮面の演出もほどよいブラックさがあり、誰もが見やすいドラマ。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】
『医師たちの恋愛事情』 木曜22時~ フジテレビ系
出演者:斎藤工、石田ゆり子、相武紗季ほか
寸評:ヒットした『昼顔』の延長線上で立てられた企画であることは一目瞭然。さらに「脱がせません」と宣言することで逆に色気を引き出そうとしているが、今作の主演コンビはカッコよく描かれて欠点が少なく、共感に欠ける。斎藤の胸キュン仕草や、重い手術シーンなどが交錯するため、焦点がぼやけがちで、医療と恋愛のどちらつかずに。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『恋愛時代』 木曜23時59分~ 日本テレビ系
出演者:比嘉愛未、満島真之介、佐藤隆太ほか
寸評:亡き名脚本家・野沢尚さんの小説をドラマ化。「離婚した夫婦がお互いの再婚相手を探す」という設定こそ既視感もあるが、そのやり取りは、やさしく、せつなく、ほほえましく、つい応援したくなってしまう。周囲の人々も含めて、一般人が日々生きる姿をそのまま切り取ったようなストーリー展開は、90年代の恋愛ドラマにも通ずる。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『三匹のおっさん2~正義の味方、ふたたび!!』 金曜20時~ テレビ東京系
出演者:北大路欣也、泉谷しげる、志賀廣太郎ほか
寸評:第2シリーズもいい意味で品質に変化なし。親子3世代の世代間ギャップと絆でほっこりさせておいて、クライマックスは痛快に悪を成敗してくれる。注目は「前シリーズで原作がほぼ尽きた」ことによるオリジナル脚本だったが、人気子役と妖怪ウォッチを使うなど、全く問題なし。時代劇のように、終盤の立ち回りだけ見るのもアリ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『アルジャーノンに花束を』 金曜22時~ TBS系
出演者:山下智久、栗山千明、窪田正孝ほか
寸評:名作のリメイクであり、主役が知的障がい者という難題にトライする姿勢は称賛モノ。山下の演技には努力の跡が見られるが、超知能を身につけたあとは、さらに難易度が上がるだけに正念場で、窪田と工藤阿須加も含めたトリオがカギを握っている。野島伸司が脚本監修しているため、いずれ突き刺さるようなセリフが炸裂しそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『天使と悪魔-未解決事件匿名交渉課』 金曜23時15分~ テレビ朝日系
出演者:剛力彩芽、渡部篤郎、宇崎竜童ほか
寸評:笑いや色気を排除することで、未解決事件の謎解きと、司法取引の駆け引きは、よりスリリングに。ポイントとなる司法取引のシーンは、緊張感たっぷりで、最後に黒幕をしっかり懲らしめるなど、視聴者に与えるカタルシスも抜かりなし。序盤は悪魔役・渡部の魅力が独走しているが、今後は天使役・剛力が見せる悪魔の一面にも期待。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『不便な便利屋』 金曜24時12分~ テレビ東京系
出演者:岡田将生、鈴木浩介、遠藤憲一ほか
寸評:良く言えば「自由」、悪く言えば「自己満足」。主たるストーリーや、テンポのいい展開はなく、シュールな小ネタを楽しむ作りになっている。金曜深夜だけに、「見たあとに何も残らない」タイプのドラマがあっていいのかもしれないが、見る人をかなり選ぶのも事実。せっかく雪国ロケをしたのだから、もっと壮大な映像が見たいところ。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『ドS刑事』 土曜21時~ 日本テレビ系
出演者:多部未華子、大倉忠義、吉田羊ほか
寸評:またも多部が世代きってのコメディエンヌぶりを披露。セリフまわし、仕草、ヘアメイク、衣装まで、初回からキャラをきっちり落とし込んでいた。強烈な個性の刑事は出尽くした感もあったが、言葉攻めのシーンからわかるようにマンネリ感はなし。ただ、「深夜枠ならもっと過激さやセクシー要素で攻められたのではないか」とやや残念。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『64』 土曜22時~ NHK
出演者:ピエール瀧、木村佳乃、柴田恭兵ほか
寸評:『ハゲタカ』『あまちゃん』らを手がけた井上剛の演出だけに世界観に妥協なし。実在の事件を思わせる生々しさで、同じ横山秀夫原作の『クライマーズ・ハイ』に負けない臨場感を醸し出している。実力派がそろう中、初主演のピエールが堂々の演技。刑務部、刑事部、記者クラブ、被害者遺族、愛娘のプレッシャーで苦悩する姿が胸に迫る。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『She』 土曜23時40分~ フジテレビ系
出演者:松岡茉優、中条あやみ、竹富聖花ほか
寸評:復活した23時枠のコンセプトは『fresh&edgy』。「主人公不在」のスタイル、手持ちカメラ、カット割を減らす長回し、携帯アプリなど、攻める姿勢が全面に出ている。ドキュメンタリー風の映像は、実在する高校で起きている事件を思わせる仕上がり。今後、屈折した女子高生たちの"今"をどうリアルに落とし込むかで、作品の評価が決まる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】
『天皇の料理番』 日曜21時~ TBS系
出演者:佐藤健、黒木華、小林薫ほか
寸評:『JIN-仁-』『とんび』らの強力チームだけに、涙腺刺激スイッチはお手の物。熱く突き進む主人公と、それを支える人々の愛情が満載で、80年放送の堺正章版に負けない力作になりそう。明治時代の風景や料理など、目でも楽しませてもらえるのはうれしいところ。黒木、鈴木亮平、小林らの存在感は大きく、佐藤がどう座長を務めあげるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『ワイルド・ヒーローズ』 日曜22時30分~ 日本テレビ系
出演者:TAKAHIRO、青柳翔、岩田剛典ほか
寸評:新設されたドラマ枠をEXILE一族に任せた日テレ。そのコンセプトはアイドルドラマそのものだが、元ヤンの設定と、子どもを守るストーリーはフィットしているだけに、わかりやすいヒーロードラマとして楽しめる。このような作品も連ドラの貴重な一ジャンルであり、80年代のように19時代や30分枠の放送でも良かった気がする。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。