アンジャッシュ渡部建の勢いがとどまるところを知らない。『ヒルナンデス!』の火曜、『ニュースな晩餐会』に加え、今春から生放送の歌番組『水曜歌謡祭』のMCに抜てきされるなど、このところ「芸人の上がり」と言われる司会者としての活動が目立っている。

さらに、長年高視聴率を叩き出している『行列のできる法律相談所』の準レギュラーとして番宣プレゼンのうまさを見せるなど、依然としてひな壇芸人としての活躍も多い。

それに加えて、佐々木希との熱愛報道である……。なぜ渡部はここまで業界人や美女にモテるのか。かつて私はアンジャッシュの本を手がけたことがあり、何度となく会って話した経験も踏まえて、渡部の魅力について分析していく。

アンジャッシュの渡部建

現在のMCに必要な"イジられ力"

もともと弁が立つ上に、グルメ通、心理学、高校野球などのキャッチーな得意分野を地道に増やしていた渡部。さらに、「ホメ渡部」「世界の渡部」など企画上のキャラに染まる術を身につけ、"イジられキャラ"としての感覚をつかんだころから出演番組が一気に増えた。

こう書いていくと、ひな壇芸人としてのオファーが多いのも納得できるが、もともとアンジャッシュは器用なタイプの芸人ではない。実際、一世を風靡した『ボキャブラ天国』にも出演していたが、爆笑問題、海砂利水魚(現・くりぃむしちゅー)、ロンドンブーツ1号2号らの陰に隠れて全く目立たなかった。

その後、『爆笑オンエアバトル』『エンタの神様』などのネタ番組ブームには乗ったが、それ以外の番組ではキャラの濃い芸人たちに押され、立ち位置を確立していたとは言い難い。当時を思えば、現在のようにひな壇芸人として活躍していることの方が驚きであり、むしろこのところのMCの方が「ベタなキャラやお約束のギャグで勝負しない」渡部の力を生かしているのではないか。

テレビマンとしては、"番組の顔"としてのビジュアルに疑いはなかったが、昨今のMCに求められる"イジられ力"を上げたことで、起用しやすくなったのだろう。また、「プレゼン」「ホメ」「心理学」などの武器は、MCの必須条件である"丁寧な言葉づかいと好印象"の裏付けとなるものだ。

テレビマンとの絶妙な距離感

また、テレビマンにとって渡部の魅力は、トークやビジュアルだけでなく、対面時に見せる"物腰の柔らかさと、絶妙な距離感の取り方"にある。アンジャッシュは所属事務所・人力舎の中では古株ということもあり、決して口数の多い方ではないし、人なつっこいタイプでもない。しかし、渡部は制作側の提案を全て聞き入れ、重要なところだけ「ここはこうすればいいんですよね」と噛み砕きながら確認しようとする。つまり、ほどよく熱心で従順なのだ。

そして、一見クール風で「ちょっと話しかけにくい」と思わせつつ、意外なタイミングで自分から声をかけてくる。私が印象深かったのは、渡部と本を作りはじめたばかりのとき、おもむろに「これ自宅のFAX番号なんで何かあったらどんどん送ってください」とメモを渡してきたこと。このように渡部は、マネージャーを通さずに話す機会を作るのが上手く、思った以上に距離感が近いときが何度かあった。

意図の理解度が高く、指示に忠実。クールに見えて、ほどよく近づいてきてくれる。私が取材した番組プロデューサーやディレクターたちは、渡部の話をするとき、口をそろえるように同じことを言っていた。爆発力こそ他の芸人に劣るかもしれないが、これほど計算ができて仕事がしやすい渡部が放っておかれるはずがない。

佐々木希との熱愛報道が流れた直後に『アメトーーク!』の「いい歳して若い女の子大好き芸人」に出演して"持っている"男ぶりを見せた渡部。そういえば、2005年9月の『フライデー』で「グラドルと合コン→本命美人女優と綱渡りデート」と書かれた直後に、地元・八王子でコント本『ザッツ「アンジャッシュ」メント』の発売記念サイン会が行われたことを思い出した。しかも「その本は両方、講談社の発行」というオチまでついたほど持っている男だけに、テレビマンとしても使っていて楽しいのでないか。

女性の心をつかむ"モテの総合商社"

これまで渡部は美人女優との交際に加え、モデルや一般女性などとの目撃談も多く、後輩芸人のおぎやはぎも「職場で一番かわいい子を落とすタイプ」と話している。では、なぜ渡部は美女にモテるのか?

芸人の中ではイケメンであるが、身長175cmと芸能界では普通であり、イケメン俳優と並べばビジュアル面での優位性はない。しかも渡部の相手はモテモテの美女ばかりだから、一筋縄ではいかないはずだ。

しかし、渡部にはイケメン俳優にはない総合力がある。ビジュアルや口先のトークだけではなく、「深く狭い」食や夜景の知識と「浅く広い」その他の知識の両バランス、基本的に相手の話を聞くというスタンス、バラエティ番組で話している恋愛心理学。収入面も含め、女性の心をつかむ要素を兼ね備えた"モテの総合商社"のような男なのだ。

「なぜモテるのか?」、もう1つの理由は、"俳優・渡部建"にある。相方の児嶋一哉はこのところ俳優としての活動が増えているが、渡部にも一時そんなきざしが見られたときがあった。2006年に鴻上尚史の舞台『恋愛戯曲』で牧瀬里穂の相手役を務め、翌年にもドラマ『働きマン』に出演していたのだ。ビジュアル的には児嶋より渡部の方が俳優に向いているような気がするし、コントを見れば2人とも演技に問題ないことが分かる。

しかし、渡部には脚本家の書いた人物を演じるよりも、実在する人物(すなわち美女)との筋書きのない恋愛を楽しむ方が性に合っているのではないか。もしかしたら"イジられる"コツをつかんだのと同じように、美女を落とすコツも完全につかんだのかもしれない。

もはや渡部がどんな番組のMCを務めようが、どんな美女を口説き落とそうが、誰も驚かない領域に入っている。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。