この春、『白熱ライブ ビビット』(TBS)、『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)がスタートしたほか、『スッキリ!!』(日本テレビ)がリニューアル、『ゴゴスマ GO GO Smile!』(CBC) の関東地区放送がはじまるなど、生放送の情報番組に大きな動きが見られた。
その結果、"コメンテーター"の数も倍増。その顔ぶれはさまざまで、弁護士、大学教授、政治経済ジャーナリスト、作家、医師、元アスリートあたりはこれまで通りだが、芸人や女性タレントが大量起用されたのはなぜなのか? 今回は「コメンテーターって何をする人なの?」という基本的なところから考えていきたい。
バラエティ番組の"ガヤ"に近い
まず「コメンテーターの役割はどんなものか?」の前に、情報番組を取り巻く現在の状況にふれておきたい。注目すべきは、キャスター中心で報道色の強い『FNNスーパーニュース』が、やわらかい解説とコメンテーターの発言が多い『みんなのニュース』(ともにフジテレビ)にリニューアルしたこと。
これは他の情報番組がそうであるように、ニュースや情報が多様化・細分化したため、「"キャスターが原稿を読むだけ"の形式では視聴者に伝わらない」という判断ではないか。その証拠に『みんなのニュース』は、コメンテーターを前番組の1人から3人に増やして、新たな視点を取り入れようとしている。このような状況があるため、コメンテーターの出番は、朝・昼・夕方と全ての時間帯で増えているのだ。
これまでコメンテーターの主な仕事は、「当事者でもテレビ局員でもない第三者の立場からニュースや情報を掘り下げること」「繊細な話題で自局アナウンサーの代わりに発言すること」の2点だったが、ここ数年は新たな役割が加わっている。
それはバラエティ化が進む情報番組に必要な"人気"と"にぎやかし"。芸人や女性タレントのコメンテーターが増えているのは、まさにこれが理由であり、いわばバラエティ番組における"ガヤ"に近い。制作サイドの意図は、「人を増やして多様さとにぎやかさを出したい」「何人かいれば誰か好きな人がいるだろう」。つまり、「専門家のコメントを聞こう」より「人気者のコメントを聞こう」、「何をしゃべるのか?」より「誰がしゃべるのか?」。という考え方なのだ。
たとえば、私のような人気のない人は、ときどきコメント出演こそあるものの、決してレギュラーコメンテーターに抜てきされることはない。また、みなさんが「この人は人気ないのでは?」と思うコメンテーターでも、ベストセラー著書があったり、1000人クラスの講演会を行っていたりなどの人気があり、視聴率につながりそうな人を選んでいる。
タレントの中で芸人が増えているのは、舞台というライブで鍛えられ、タレント同士の連携プレーに慣れているから。また、女性タレントが多いのは、喜怒哀楽のリアクションが早くシンプルな上に、数人そろえれば女子会のような盛り上がりを作れるから。ただ、この両者を増やした結果、朝から深夜までテレビに出ている顔ぶれがほとんど同じになってしまった。
なぜ専門外のことまで話すのか?
視聴者のコメンテーターに対する声で最も多いのは、「専門外のことまで話すな」という不満だが、前述したように制作サイドは"人気"と"にぎやかし"を重視して選んでいるのだから、それは織り込み済みと言えるだろう。
また、コメンテーターはMCと同様に、「番組のイメージを担っている」とも言える。たとえば、『スッキリ』は女性タレント、『ビビット』は芸人、『とくダネ』は文化人が多いのだが、いずれも「コメンテーターの顔ぶれを見れば、どんな番組なのかわかる」ようにラインナップされているのだ。
これは見方を変えれば、「コメンテーターは幅広い知識を持つ人でなくてもいい」ということ。優先されるのは、深く称賛されるコメントよりも、浅くてもいいから苦情が届かないコメントができる人。生放送の失言がアッと言う間に広まり、永遠に残ってしまう時代だけにやむを得ないところはあるが、どこか寂しさを覚えてしまう。
その点で異色の存在は、『ワイドナショー』(フジテレビ)。同番組は、松本人志、指原莉乃、坂上忍ら"ふだんニュースにされやすい人"と、小倉智昭、安藤優子、中居正広ら"ふだんMC側にいる人"がコメンテーターを務めている。この図式はこれまで見たことがないと言ってもいいだろう。
コメントが賛否を呼ぶなど予定調和に終わることが少なく、週明けにはコメントを拾ったネットニュースがあふれるのは、彼らが人気者であると同時に、一流のコメンテーターだからかもしれない(「生放送ではない」という話しやすい環境を踏まえても)。考えてみれば、どんな分野でも彼らのような一流の人が話す言葉は、たとえ専門外のことであっても説得力があるものだ。
毒舌タレントの"毒舌風トーク"
一流と言えば、ビートたけしが『ワイドナショー』にゲストコメンテーターとして出演したとき、「オレは(『報道ステーション』の)元経産省の古賀みたいに本質を突かない。テレビで本質を突いたらプレッシャーがかかるに決まっている」「(オレのコメントは野球の)チップくらいかな。『(本質に)当たったか?』と言われたら、『ファウルでした』と言い訳できるから」と笑わせた。ビートたけしほどの大物ですらそうなら、全てのコメンテーターが本質を避けているのかもしれない。
さらに、たけしはタレントのコメンテーターが増えていることについて、「頭は切れるけど、本質の多くを知らなくて、本質を突かないから便利」と話していた。この春から『ビビット』のコメンテーターに加わったヒロミと泉谷しげるは、ふだん毒舌を売りにしているが、同番組では安全運転のコメントばかり。"毒舌風"の振る舞いをしているだけで、鋭く本質を突くようなことは一切ない。
一方で、本質!? ばかりのコメンテーターがそろっているのは『5時に夢中』(MXテレビ)。ここに同系列で書いていけない番組のような気もするが、肩書は同じ「情報番組のコメンテーター」であり、マツコ・デラックス、北斗晶、岡本夏生、美保純、岩井志麻子、中瀬ゆかりらが言いたいことをズバズバしゃべってくれるため、妙な爽快感がある。
コメントの違いは、『とくダネ』とかけもち出演している中瀬ゆかりに注目するとわかりやすい。どちらの番組に出ている中瀬が本質を突き、生き生きとしているかは一目瞭然だ。また、4月8日にゲストコメンテーターを務めたおおたわ史絵が『スッキリ』では見せない本質的なコメントを連発し、自ら「これが本当の姿」と話したことからもそれがわかる。
「だって全然違う番組でしょ」と言うことなかれ。ごく一部でもこのような本質や本音を入れなければ、わざわざ生放送でコメントをする意味がない。コメンテーターたちによるコメントが、ただの井戸端会議や女子会トークにならないことを心から望んでいる。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。