米国の景気が一向に立ち上がってこない。3月ごろまでは、寒波や西海岸の港湾ストといった一時的な要因の影響が大きいとみられていたが、足もとで発表される経済指標も依然として市場予想を下回るものが目立つ。

ブルームバーグが提供している景気サプライズ指数は、日々発表される経済指標のうち、予想を上回るもの(ポジティブ・サプライズ)が増えると上昇し、逆に市場予想を下回るもの(ネガティブ・サプライズ)が増えると低下する。昨年の初めも寒波の影響が大きかったため、景気サプライズ指数は急低下したが、2月中旬に底打ちし、4月の中旬にはほぼゼロ近辺まで回復していた。ところが、今年は年初にマイナスになった同指数が4月中旬になってようやく下げ止まり感が出てきたが、まだ底打ちが確認できたわけではない。

アトランタ連邦準備銀行(FRBの傘下にある12の地区連銀の一つ)の短期予測モデルによると、4月16日時点で、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.1%と予測されている。同モデルの予測値は3月下旬以降ほぼゼロのままだ。つまり、この間に発表され、同モデルに投入された経済指標が、全体としてみれば景気の改善を全く示さなかったということになる。4月3日に発表された雇用統計で、非農業部門雇用者数が前月比+12.6万人と、13か月ぶりに+20万人割れとなり、市場予想を大きく下回ったのは記憶に新しいところだろう。

気になるのは、寒波やストといった一時的な要因だけでなく、ドル高や原油価格の下落が景気にダメージを与えている可能性があることだ。地区連銀の経済報告、通称「ベージュブック」によると、ドル高を背景とした輸出や外国人観光客の減少が報告されている。ドルの実効レートは昨年7月から今年3月中旬までほぼ一本調子で上昇しており、それがボディーブローのように効いてきたのだろう。

一方、原油価格の下落は、原油の純輸入国である米国経済にとってネットでプラスのはずだ。ただ、企業の生産コストの低下や消費者の購買余力の増加といったプラス効果は「広く、薄い」。一方で、石油企業の業績や資源開発投資への打撃といったマイナス効果は、一部に集中して見えやすいということか。

昨年は1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率-2.1%だったが、4-6月期には同+4.6%、7-9月期に同+5.0%と見事な回復をみせた。果たして今年はどうか。「一人勝ち」とも言われた米国の景気は、今まさに正念場を迎えつつあるのかもしれない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。