静岡県には、"菓子パン界のスーパーモデル"とでも評したくなるようなパンがある。スリムでおしゃれな見た目通り、商品名は「のっぽパン」。一体どんな味がするのだろう?
工場の老朽化で中止になるも9カ月後に復活
のっぽパンが生まれたのは昭和53年(1978)のこと。長さ34cmの文字通りのっぽなパンにミルククリームをサンド。誕生からすぐに、最大1日2万本以上販売する人気パンとなり、長年に渡って個人商店から大型スーパー、コンビニまで、静岡県中東部であればどこでも手に入る菓子パンになったという。
しかし2007年7月、専用工場が老朽化したことで販売中止が決定。出荷最終日には有志のファンが大勢工場に駆け付け、なんと最終出荷トラックを見送る「さよならのっぽの会」が開催されたんだとか。
「さよならのっぽの会」開催時の様子 |
しかも、販売中止後も復活を望むファンからの手紙や電話がひっきりなしに届き、遂にはメーカー内で復活プロジェクトが発足。2008年4月、発売中止から9カ月後、「手作りのっぽパンの店」として静岡駅構内に専門店がオープンすることになったのだ。
「発売初日は予定していた1,000本を約1時間で完売してしまい、その後、数カ月間は、毎日製造が追いつかない状況が続いていました。そこで、設備を補強して増産体制を整え、同年9月には沼津に専門店2号をオープンしたんです」。
教えてくれたのは、のっぽパン製造元である「バンデロール」販売企画部の冨田正昭さん。冨田さんによると、沼津店では初日に約5,000本を販売。その後も販売店舗を着々と増やし、一部スーパーなどでも販売を再開。これによって、専門店についてはその役目を終えたということで2013年に閉店したものの、その後ものっぽパンそのものは販売数を増やし続けているという。
売れ過ぎが原因で従業員が腱鞘炎に
しかし、なぜそれほどまでに人気なのだろう?
「発売当時は、菓子パンといえばあんパンなどが主流で、のっぽパンのような細長い形は珍しかったそうです。子どもが食べやすいサイズや形にこだわって作られたそうなのですが、パッケージにデザインされたキリンのキャラクター人気と相まって予想以上に評判となり、サンドのクリームを絞る従業員が腱鞘炎になるほど大変な思いをされたそうです」。
冨田さんの語り口から、かつてのっぽパンの人気を支えた従業員たちの苦労がうかがいしれるが、きっと作業が大変であればあるほど、多くの人に食べてもらえるという喜びもひとしおだったに違いない。
パン生地は現在でも、発売当初にできる限り近い配合を維持しているばかりか、サンドするクリームにいたっては、一番人気の「クリーム」味は当時そのままの原料で製造している。
ネット販売で全国ののっぽパンに!
また最近では、のっぽパンを使って作ったラスクの人気も高い。「昔ながらの製法ののっぽパンは、ラスクにするのに最適なんです。サックリとした食感と、小麦本来の味を楽しんでいただけますよ」(冨田さん)。味は、定番のシュガー、メイプルの他、季節や地域限定でいちご、抹茶、黒ゴマなども販売しているという。
さらに、この4月には、遂にのっぽパンの知名度が全国区になる出来事が起こる。なんと、ネットショップがオープンしたのだ。
「受注・製造体制の問題もあって、それほど大々的に宣伝を行っていないのですが、予想以上の反響に驚いています」(冨田さん)。現状、大量生産は難しいとのことだが、「少しずつでもできる限りよい品&鮮度の高い情報をお客さまにお届けしたいと思っています」との言葉通り、facebookファンページの情報も充実。ますます多くのファンを得ることになりそうなのっぽパンの、今後の躍進が楽しみだ。
※記事中の価格・情報は2015年4月取材時のもの。価格は税込