全日本空輸(以下、ANA)とトヨタ紡織は4月21日都内で記者会見を開き、両社が共同開発した新航空機シートを発表した。シートは国内線普通席のシートで、6月より導入し、2016年度までにB767-300型機6機(席数合計1,560席)に装着する予定となっている。
トヨタ紡織初のシートは計1,560席
今回、トヨタ紡織としては初めての航空機シート開発・製造となる。同社はコンパクトカーから高級車、スポーツカーまで、年間約700万台分のシートをトヨタ自動車をはじめとするカーメーカーに提供。近年は鉄道車両用シートも開発・製造しており、同社のシートは3月14日に全線開通した北陸新幹線の新型車両E7系・W7系のグランクラスにも搭載されている。
共同開発するにあたり、ANAはエアラインとしてのノウハウ・ニーズを提供し、トヨタ紡織は長年にわたる自動車用シート開発を通して培ってきたデータと高品質のモノづくりを活用。構想・製造、国土交通省からの認可取得に至るまで3年をかけ、「お客様の心に残るひとときを」をコンセプトにしたシートが誕生した。
新シートの仕様は、座席幅17.5インチ、座席間隔(ピッチ)31インチ、配列2-3-2。B767-300型機(普通席260席仕様)に装着し、合計6機(計1,560席)を予定している。ANAの国内線に関しては、2012年にB777、B787の薄型軽量シートを導入。今回はB767-300の普通席を刷新することで、国内航空の旅のさらなる快適さを追求していくという。なお、今回の新シートは5,6年の使用を予定している。
どんな体格の人もリラックスできるように
ANAが2014年上期に利用者へ実施したアンケートでは、改善を要望する項目として約1/4以上の人が座席を指摘していたという。ANAの狙いとしては、快適性の向上とともに効率的な運航を実現するために、座席数を確保しながら1席の空間を広げる工夫と軽量化による燃油費負担軽減を目指していた。
こうしたANAからの要望に対し、トヨタ紡織は改良の着眼点として「腰(骨盤)の安定」「座面の圧力分布の均一化」「自然なアームレストやテーブルの位置」という3点を設定。特に腰を安定させるために「体幹」を意識し、開発においても一番こだわったのがこの体幹だったという。腰をしっかり支持することで、腰周りの筋肉の疲労を抑え、結果、よりリラックスできる座り心地になるという。
小柄な女性から大柄な男性も心地よくフィットするシートを追求し、身体にかかる圧力をバランスよく分散するように、背もたれや座面の形状、高さ、長さ、角度、構造を設計。特に背もたれは身体に負荷がかからないように立体形状にアルミをプレスして作成し、座面は固いウレタンと柔らかいウレタンを組み合わせた立体構造にするなどの工夫が施されている。
また、座った際に見える前の座席の背面にもこだわり、目の高さにファブリックを配置するほか、丸みを帯びた形状にすることで圧迫感を低減させるという。使いやすさへのこだわりとして、身体に合ったテーブルの高さや、自然に肘が支えられるアームレストの高さなど、小柄な人から大柄な人まで誰もが心地よいと感じる位置やカタチを検証して設定した。
会場には女子スキージャンプ 高梨沙羅選手が登場し、完成したばかりのシートを体験した。身長152cmの高梨選手は、「足がちゃんとついていることに感動しました。(今までのシートだと)足が短いので膝や腰に負担がかかっていたけれど、これならずっと座っていられそう」とその座り心地を評価していた。
"Made in Japan"のメリット
現状、航空機シートは海外のシートメーカーが市場を占めている。その中で国内メーカーを採用するメリットとしてANA商品戦略部長 岡功士氏は、距離的な近さと日本語で話ができるという「意思疎通の早さ」のメリット、さらに、整備部品の調達コストも含めた「コストの削減」という長期的なメリットをあげた。
またANA代表取締役社長 篠辺修氏も、「航空産業に関してシートについては海外メーカーが強いものの、日本においてもこれだけ自動車産業でシートを作っている有力なメーカーがある。だから、航空機シートだってあってもおかしくないだろうという気持ちは常にあった」とコメントしており、今回のシート開発が業界そのもののきっかけになることにも期待しているという。
トヨタ紡織としては今回が初めての航空機シートであるが、今後については未定と言う。トヨタ紡織代表取締役社長 豊田周平氏も、「シートをやれるところはやっていきたい。ただ、どの業界のシートをやるべきなのかはしっかり見定めていかなければいけない。"Made in Japan"のシートとして今度も全日本空輸に買ってもらえるものを提案できるかどうかというのが、大切なファクターである」とコメントしている。