昨夏の1バレル=100ドル台から急落した原油価格(WTI先物)は、今年に入って50ドルを挟んでもみ合う展開だったが、足もとでジリジリと上昇している。原油価格はついに下げ止まって上昇に転じるのだろうか。引き続き予断を許さない状況だが、原油価格の先行きに関する2つの新たな材料が出てきた。残念ながらそれらが示唆する方向は真逆だ。
1つは、稼働リグ(※)数が急減していることだ。米国で昨年末に1500基近くあった稼働リグは今年4月上旬に760基にまで減少している。米国の原油生産量が明確に減少に転じていないところをみると、採算ラインの低いリグで集中的に生産を増やしている可能性が考えられる。ただし、米国のEIA(エネルギー省情報局)は、シェールオイルの生産量は5月に減少すると予想している。これは、2013年に月次レポートの発行を開始して以来、初めてのことらしい。
(※ 原油の開発・生産を行うプラットフォームのこと)
もう1つは、イランからの原油供給が増える可能性だ。4月2日に欧米など6か国とイランとの核協議が大筋での合意に達した。これにより、イランに対する経済制裁の解除に道が開かれれば、イランは原油の生産や輸出を増やすだろう。
上述のEIAによれば、イランは2016年末までに原油生産を日量70万バレル増やすことが可能だ。これは世界の原油生産量の1%近くに相当する。たかが1%、されど1%だ。同じくEIAによれば、イランは洋上のタンカーなどに備蓄した原油在庫を少なくとも3000万バレル保有しているという。そして、イランの在庫の放出と生産増加によって、2016年の原油価格(北海ブレント)はベースラインの1バレル=75ドルに比べて、5~15ドル低くなると試算している。
原油先物のカーブをみると、1か月前(3月16日時点、下図青線)も、直近(4月16日時点、同赤線)も、期先に行くほど価格が高い右肩上がりのカーブ、いわゆる「コンタンゴ」になっている。ただし、期近ほど直近の方が高く、2019年あたりで逆転してそれから先は1か月前の方が高くなっている。
つまり、1か月前と比べると、現時点では、需給の調整が進むことで、原油価格は上昇が予想されるが、イランの原油供給が増えることで、価格上昇のペースは抑えられるというシナリオが織り込まれているとみることができそうだ。
もっとも、米国の石油生産がどの程度のペースで減少するのかは不透明だ。また、今年6月期限とされるイラン核協議が最終合意に漕ぎ着けても、IAEA(国際原子力機関)の査察が終了して経済制裁が解除されるのはかなり先になるかもしれない。原油価格の先行きは依然として不透明であり、過去1年間がそうであったように上述の先物カーブの形状や水準も大きく変わるかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。