2014年のコンテンツ業界は、まさに『妖怪ウォッチ』一色だったと言っていいだろう。アニメからブームに火がつき、玩具、音楽、書籍などあらゆる関連商品が大ヒット。ゲームそのものも600万本を出荷するなど、日本全国を妖怪が席巻した。
そんな妖怪ウォッチが、新たな展開を見せる。4月7日に開催された発表会「LEVEL5 VISION 2015 -THE BEGINING-」では、レベルファイブの日野晃博社長が自らが登壇し、今後の妖怪ウォッチの展開に関するプレゼンテーションを行った。『妖怪ウォッチ』はどこへ向かうのか。発表会をレポートしながら、2015年以降の妖怪ウォッチを占っていこう。
今回、発表となった『妖怪ウォッチ』の新展開は、3つのパターンに分けることができる。「ゲーム」を中心とした展開と、2014年に仕掛けてきた「クロスメディア」展開のさらなる発展形、そして他メーカーや他業種との「コラボレーション」である。まずはゲームソフトの正当な続編となる『妖怪ウォッチ3』から見ていこう。
これまで、『妖怪ウォッチ』『妖怪ウォッチ2』はさくらニュータウンという架空の町で起きる出来事を描いた物語だったが、『妖怪ウォッチ3』では舞台を一新。お父さんの転勤により、海外の「USA」にある町「セントピーナッツバーグ」に舞台を移して新たな物語が紡がれていく。
日野社長は、自身が『ドラゴンクエスト3』をプレイしたときの衝撃を例に挙げ、「見知らぬ場所を冒険すること」の面白さについてコメント。「『妖怪ウォッチ』は変化することを選びました」と、発表会中に何度か"変化"という言葉を強調した。これは単純に『妖怪ウォッチ3』で舞台が変わることを意味するだけでないだろう。日野社長の言葉を借りるなら、『妖怪ウォッチ』というコンテンツが今後10年20年と続くために、「変わらない良さ」よりも「変わっていく面白さ」を選ぶことにした、という決意表明でもある。
「変化」は、ゲームにも新たな試みとして取り入れられている。『妖怪ウォッチ3』は通常通り、買い切りとなるニンテンドー3DSのパッケージソフトだが、発売後にはいくつかの大型バージョンアップが予定されていて、まるでオンラインゲームやスマホゲームかのように内容が変化していく。一本のソフトを長く遊んでもらうと同時に、話題性を持続させる戦略といえる。
そんな『妖怪ウォッチ3』のもう一つの"変化"はキャラクターだ。新たに女主人公として未空イナホ(CV:悠木碧)と、ジバニャンに続く主役級の妖怪としてUSAピョン(CV:重本ことり)が追加される。新たな舞台となる「USA」では、他にもUSAの妖怪たちが多数登場するという。そういった意味でもUSAピョンは、これまでのジバニャンやコマさんとは異なる、海外展開を見据えたデザインにも見える。
新主人公となる未空イナホとUSAピョンは、7月に放送されるTVアニメ「妖怪ウォッチ」セカンドシーズンにも登場する。いわゆる普通の男の子であった主人公・ケータとは違い、未空イナホはちょっと変わった女の子であり、オタク的な属性を持った少女。そんな彼女がUSAピョンや他の妖怪たちとどんなドタバタ劇を繰り広げるのか、期待して待ちたい。
なお、TVアニメの主題歌も7月のセカンドシーズンからはキング・クリームソーダの「人生ドラマティック」に、エンディング曲がコトリ with ステッチバードの歌う「宇宙ダンス!」に変更。同様に5月からはエンディング曲が「ようかい体操第二」となる。
アニメと並んで、妖怪ウォッチにとって重要なクロスメディア展開の一つとなる玩具にも、新たな製品が登場する。SDカードを用いることで、ゲームのバージョンアップに応じた更新が行える新型ウォッチ『妖怪ウォッチU プロトタイプ』である。従来のものとは色味が変わったほか、新しく『メリケンメダル』が登場。妖怪を呼び出したときのボイスも変更されている。
ゲーム的な展開として注目したいのは、スマホへの進出だ。例えば手軽に遊べるパズルゲーム『妖怪ウォッチぷにぷに』や、ミニゲームを通して辞典を完成させていく『妖怪大辞典』、さらにシリーズ初のリズムゲームとなる『妖怪ウォッチ ゲラポリズム』などが続々と登場する。これまでゲームとしてはあくまでニンテンドー3DSが中心だった『妖怪ウォッチ』だが、2015年は本格的にプラットフォームとゲームジャンルの幅を広げる年になりそうだ。
ゲームジャンルの幅を広げるという意味では、もうひとつ見逃せないコラボがある。コーエーテクモゲームスと組んで開発する『妖怪三国志』である。プラットフォームはニンテンドー3DS。言うまでもなく、コーエーテクモゲームスが誇る歴史シミュレーションの名作『三国志』シリーズとのコラボだ。発表会には本作のプロデューサーを務め、三国志シリーズのプロデューサーとしても知られるシブサワ・コウ氏が登壇し、あいさつを行った。内容に関する詳細な発表はなかったが、『妖怪ウォッチ』と三国志のカオスな組み合わせを、名プロデューサー、シブサワ・コウ氏がどうまとめあげるのか、楽しみにしたい。
同じくニンテンドー3DSでは、新作タイトルとして『妖怪ウォッチバスターズ 赤猫団/白犬隊』の発売が7月11日に予定されている。こちらは『妖怪ウォッチ2』の中で遊べるアクションゲーム『妖怪ウォッチバスターズ』がパワーアップして一本のゲームになった、スピンオフ作品。妖怪視点で戦うアクションゲームで、インターネット通信を利用したマルチプレイにも対応する。
スマートフォンへの進出とは別に、きっちりと『妖怪ウォッチ3』までの間を埋めるタイトルをニンテンドー3DSで用意しているところはさすがだ。これは例えば『ポケモン不思議のダンジョン』や『ポケモン+ノブナガの野望』のような関連ゲームを多方面に展開した『ポケットモンスター』シリーズにも共通している。
こうした国内展開とは別に、『妖怪ウォッチ』はいよいよ海外にも進出する。タッグを組むパートナーとなるのは、『トランスフォーマー』や『マイリトルポニー』で知られるハズブロ社。同社の全面的な協力を得て、2016年中をめどに世界へと展開していくという。かつてポケモンが世界を席巻したように、妖怪ウォッチならぬ『YO-KAI WATCH』も世界中に知られるコンテンツとなれるだろうか。
最後に紹介するのは、この夏、ユニバーサルスタジオジャパンで開催される「妖怪ウォッチ・ザ・リアル」だ。妖怪ウォッチの世界をアトラクションとして再現し、ジバニャンをはじめとした"ホンモノの妖怪に出会える"感動を体感できるという。二次元での展開が中心だった妖怪ウォッチにとって、"バーチャルからリアルへの進出"とも言える大きなコラボになりそうだ。
以上が発表会で明らかになった「妖怪ウォッチ」の新展開の全容だ。ゲームにアニメ、玩具、音楽、スマホ、海外、テーマパーク――まさに「満を持して」という言葉がふさわしい全方位展開となった。
これまでと大きく変わるのは、ターゲット層の拡大ではないだろうか。2014年の妖怪ウォッチは、ゲームやアニメ、玩具をメインとした展開で、どちらかといえば子供と、せいぜいその親にまで届くことを目標としている印象が強かった。そこからスマホやテーマパークへも展開することで、さらに幅広い層にアプローチすることが可能になるというわけだ。
一年をかけて十分浸透しきった今、『妖怪ウォッチ』が次に目指すのは、世の中のさまざまな場所に根を下ろし、『ポケットモンスター』や『ドラえもん』のように長く愛されるコンテンツになることなのだろう。そのためには、これまでよりもさらに多くの人の日常にちょっとずつ入り込み、気づけばその辺にいるという存在になっていかなくてはならない。それはまるで、本物の妖怪のようでもある。