ギリシャのユーロ圏からの離脱を意味する「GREXIT」と似た、「BREXIT」(または「BRIXIT」)という言葉がある。英国のEU(欧州連合)からの離脱という意味だ。
キャメロン首相は、5月7日の総選挙で保守党が勝利すれば、2017年末までにEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると約束した。そして、国民投票までにEU残留の条件交渉を行うとしている。キャメロン首相自身はEU残留を主張している。ただ、国民投票の実施が決まれば、EU離脱の可能性が意識されるだろう。EU離脱を公約としている独立党が支持を伸ばしていることも気がかりだ。最大野党の労働党はEU残留を主張しているが、総選挙の結果にかかわらず、EU離脱の是非を国民に問うという作業は避けて通れないのかもしれない。
ユーロ圏を創ったEMU(経済通貨同盟)への参加を見送ったように、英国にはもともと大陸欧州とは一定の距離を保ちたいとの思いがある。加盟負担金の大きさ(GDPの0.5%)やEUの規制などによって、EU残留は経済的にもマイナスだとの見方もある。最近では、EU条約が人の移動の自由を原則保証しているため、英国への移民が増加しており、それに伴う社会保障給付の増加などが問題視されるようになっている。英国がEUに留まる限り、独自に移民制限などの政策を採用することはできない。
もっとも、英国がEUから離脱する方がデメリットは大きいとの見方が一般的だろう。EUから離脱すれば、輸出の約半分をEU向けが占める英国は、その特権的アクセスを失うことになりかねない。また、当然のことながら、EUの様々なルール作りに関して、英国は発言権を喪失することになる。
より深刻な影響が出そうなのが金融業界だ。ロンドン金融市場はニューヨークと並んで、グローバルな金融市場のなかでも際立った存在だ。それも、国内経済の規模に比べて格段に大きな役割を果たしているのは、外国の参加者が多いためだ。外国人選手の活躍が目立つことに例えて「ウィンブルドン現象」と呼ばれたこともあった。
その英国がEUから離脱した場合に、これまで同様に外国からの市場参加が望めるのか。ローカル市場に成り下がらないまでも、ある程度の存在感の低下は避けられないのではないか。そして、外国金融機関は拠点の中心をロンドンから大陸欧州、例えばフランクフルトなどに移すかもしれない。その場合、英国の金融資産や不動産、通貨ポンドに対する需要も減退する可能性がありそうだ。
総選挙の帰趨とEU離脱論の行方に注目したい。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。