「春眠暁を覚えず」――春の夜は短くて気候もいいから、ついつい朝になっても寝過ごしてしまうという意味の漢詩の一節だ。この言葉通り、春になると朝寝坊しがちになったり、起きても眠気がいつまでも取れなかったりするのはなぜなのだろうか。

春先は職場でのあくびも多くなっていないだろうか

自律神経と環境の変化が睡眠にも影響を

春先は気温が徐々に上昇していくのに合わせて、体にも変化が現れる。寒い季節は交感神経が活発に働くが、気温の上昇に合わせて次第に副交感神経が優位になってくる。

交感神経は体を目覚めさせ、活動させる神経。一方の副交感神経は、休息に働きかける神経だ。冬から春にかけてのこの時期は、体がまだ気温の変化に対応しきれていないため、自律神経のバランスが崩れがちになり眠気が残ってしまうことがある。

またこの時期は、年度末や卒業、異動、引っ越しなど、自分を取り巻く環境の変化も激しく、忙しい時期でもある。環境の変化や忙しさから、思った以上にきちんと睡眠が取れていない人も多いようだ。「春は眠たいもの」と決めつけずに、自分の睡眠状態を再度確認することも必要と言えるだろう。

慢性的な眠気は質の悪い睡眠のサイン?

「春先でなんとなく眠い」という程度なら、徐々に改善してくるはず。だが、「慢性的に眠い」「眠くて日中の仕事や勉強に影響する」「寝たのに休んだ感じがしなくて疲労感が取れない」という症状が当てはまる場合は、睡眠の質がかなり悪くなっていることがうかがえる。また、睡眠時無呼吸症候群などの可能性も考えられる。自己対策で改善できない場合は、睡眠の専門医などに相談してみるといいだろう。

眠たい時期だからこそ睡眠を見直す

2009年の経済協力開発機構の調査によると、米国やフランスなどを含む主要18か国の中で、日本は韓国に次いで2番目に睡眠が短かった。仕事や余暇を優先してしまった結果、睡眠に充てる時間が少なくなってしまっているかもしれないが、睡眠不足は健康や寿命にも影響する。眠たいこの時期だからこそ、納得できる眠りができるよう睡眠を見直してみよう。

対策1 朝は目覚めたらすぐに太陽の光を浴びる

私たちの睡眠と覚醒のパターンは、体内にプログラムされている「時計遺伝子」によって制御されている。一方で昼夜のある身体のリズムは、この遺伝子ならびに光刺激など調節されている睡眠誘発ホルモン「メラトニン」などの分泌によって制御されている。メラトニンがきちんと分泌されると、深い睡眠を得ることができ、いい睡眠を維持することができる。このメラトニンは、日中に作られて夕方以降に暗くなってくると分泌され、夜の睡眠に向けての準備を始める。「夜になかなか眠くならない」「寝た気がしない」という場合は、体内時計の狂いが原因のこともありうる。そういう人は、朝起きたらすぐに太陽の光を浴びるようにしよう。この朝の日差しによって、時間遺伝子制御による体内時計をリセットさせ、メラトニン合成にも影響することがわかっている。よい睡眠は朝に作られるのだ。

対策2 寝だめは1時間程度まで、決まった時間の起床が重要

寝足りない感じがするこの時期は、少しでも長くベッドの中にいたいもの。特に休日は「好きなだけ寝ていたい」と、"寝だめ"を決行している人も少なくないだろう。ただ、この寝だめが実は逆効果。 休日に寝だめをすると、その夜になかなか眠くならずに睡眠時間が後ろ倒しになる。それに伴い、睡眠リズムが崩れがちになってしまう。結果、「日曜日の夜遅くまで寝付けず、月曜の朝がつらい」という悪循環が発生してしまうのだ。寝だめするほど睡眠の質が低下し、疲れが取れないということにもなりかねない。できるだけ睡眠リズムは崩さず、起きる時間はほぼ一定なのが理想。どうしても寝だめしたいときには、いつもの睡眠時間プラス1時間ぐらいまでの変化にとどめるようにしよう。

対策3 手足を動かして交感神経を優位にする

眠くてベッドから出られないという人は、活動モードの交感神経が優位な状態を作ってあげるとよいだろう。ベッドの中で手足を「グーパーグーパー」と動かすだけで血流がアップして、交感神経が優位に。体が目覚めていくぞ。

対策4 肩甲骨から首の後ろに熱めのシャワーを当てる

目覚めてもなかなか活動モードにならないという人は、シャワーを活用するとよいだろう。手足を軽く温めた後、少し熱めのシャワーを肩甲骨から首の後ろ周辺に当てると、交感神経のスイッチが入る。逆に、夜はぬるめのお風呂でゆったりするようにしよう。

対策5 寝る1時間前にはスマホ、PCの使用は控える

スマホやパソコンの画面から発するブルーライトなど、夜間の照明はメラトニン合成を急速に低下させる。その結果、睡眠に至る時間が後にずれこんでしまう。すなわち、夜寝る前にスマホやパソコンを使うと、脳が睡眠モードにならずに覚醒してしまうことにつながるのだ。いい睡眠や翌朝に疲れが残らない睡眠を取るには、熟睡することが大切。そのためには、寝る1時間前には最低でもスマホやパソコンの画面を見ないようにしよう。

対策6 グリシンなど睡眠にいい栄養を摂取する

アミノ酸の中の「グリシン」という成分は睡眠改善に役立つという結果が出ており、「睡眠の質を高める成分」として注目されている。いまひとつ質のいい睡眠が取れないというときには、サプリメントでフォローアップしてみるのも手だろう。

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