2010年5月1日、小出早織という一人の女優が「早織」として再始動することを発表した。人気女優の登竜門と呼ばれていた「ケータイ刑事」シリーズの『ケータイ刑事 銭形雷』に抜てきされたほか、ドラマでは『電車男』、『1リットルの涙』、『帰ってきた時効警察』、映画では『舞妓Haaaan!!』など注目作に次々と出演。その中での改名は思い切った決断だったはずだが……。
「突然ですが」の書き出しではじまる同日付のブログでは「きっかけは、姓名判断で『早織』がいいよと言ってもらったからなんです」という実にさっぱりとした理由と共に、「え、それだけで? という感じかもしれませんが『早織』という二文字を見たときにあぁ、みなさまに『早織』という名前を覚えていただきたいなぁと思ったんですね」という思いがつづられていた。
常盤貴子、中谷美紀、松雪泰子といった実力派女優を多数抱える芸能事務所・スターダストプロモーションに入ったのが2003年。早織は現在26歳で、あと2年で「小出早織」時代と「早織」時代が並ぶことになる。その早織が少年隊・錦織一清の演出、A.B.C-Z・戸塚祥太の主演舞台『広島に原爆を落とす日』のヒロインに抜てきされた。舞台の話やデビューから現在に至るまでのエピソードを交えて、改名の真相を本人に直撃取材したところ、意外なつながり、そして改名が一人の女優にどのような影響をもたらしたのかを知ることができた。
演出家・錦織一清の顔
――4月3日の京都南座から舞台がはじまりますね。つかこうへいさん作・演出で1979年に舞台化された歴史ある作品です。
3月2日から稽古がはじまりました。今回上演するにあたって錦織さんが「ラブストーリーにしたい」とおっしゃって。戦時中という時代設定はありますが、お客さまには「ロミオとジュリエット」のような物語として受け取ってもらいたいという思いがあるそうです。普通の「通し稽古」は衣装をつけて、稽古の終盤でやることが多いですが、錦織さんは早い段階から通して、全体の流れを見ていく演出家さんです。初めての経験でした。全体の流れが決まると、あとは細かい微調整。すごく合理的なやり方だなと思います。
――舞台は映画やドラマと違って、同じことを繰り返していくことが求められます。早織さんなりの工夫やこだわりはありますか。
つかさんの本はすごくセリフ量が多いので、それをお客さまに伝えるための稽古はやっぱり必要だと思います。そのセリフに応えられるだけの体になってないといけませんし、何度やっても正解がないので、私としてはやるたびに新鮮な気持ちになるんですよ。セリフを覚えるのは得意不得意はあると思うんですけど、私は早い方だと思います。でも、ただセリフを覚えたからといってお芝居ができるわけじゃありません。人物の内面の動きがきちんとセリフに伴ってくると、"自然"と言える段階になるのだと思います。
――錦織さんはどのような演出家ですか。
意見をはっきりとおっしゃる方です。私は、錦織さんには美しい演技を求める「美学」があると思っています。大舞台での演技は、一つの所作に意味が出てくるから、そこを丁寧に考えてやらないとお客さまに届かないと。それはとても勉強になったことで、テレビドラマや映画の映像世界だと微細な体の動きや表情をカメラでとらえてもらえますが、大きな舞台では効果の薄いものです。例えば誰かを叩くシーンでも、大きく振り上げたりとか。舞台に合った技法は必要だと思っていて、私は舞台の現場に来るとそういう技法が拙いなといつも感じてしまいます。そこは稽古を重ねて、自分が身につけていかなければならないところです。
安藤サクラとの秘話
――映画『百円の恋』では安藤サクラさん演じる一子の妹・二三子役を演じましたね。32歳で自堕落な生活を送っていた一子がボクシングを通して新たな目標を見出していく物語でしたが、最初は一子役のオーディションから参加したそうですね。
オーディションでは、サクラさんがトレーニングウェアで、私はデブに見える服だったんです(笑)。それぞれが「どこを重視していたか」が分かりますよね。私は細身だから太った時の印象を感じてほしくて、自堕落で鬱屈していた一子の内面に重きを置きました。でも、ボクシングのクライマックスに重きを置いたのがサクラさん。そこはやっぱりさすがだなと思いました。
――結果、妹役として起用されることになるわけですが、やっぱり今でも一子役をやりたかったと思いますか?
思います。私も一子という役がやりたくて受けたのでその思いはあるんですけど、逆に私が演じた妹の二三子に共感することができました。あの人なりの悔しさや嫉妬があって、それは私がオーディションを受けている時の感情とも連鎖してるんですよね。年齢的にも近いので、違和感なく入れました。そこはキャスティングの妙ですね。ちなみに、二三子役のオーディションでは、今度はすごくタイトな衣装で臨みました(笑)。
――オーディションも自己プロデュースが大切だということですね。
オーディションに行くのが楽しいんですよね。何ページか脚本を読ませてもらってから臨むオーディションの場合は、脚本が面白いと役のイメージが自ずと膨らんできます。着ているものとか、ちょっとした仕草とか。