テレビ東京の『怪奇恋愛作戦』をラストに、冬クールの連ドラが全て終了した。平均視聴率15%を超えるヒットこそなかったものの、それはクオリティとは別次元の話。また、実力派脚本家のオリジナル作品が多かっただけに、「録画率が高かった」という見方もできる。

実際、今クールは、月曜の刑事、恋愛ドラマからはじまり、ヒューマン、医療、夫婦、不倫、学園など、いつも以上にバラエティ豊かな作品がそろっていた。

ここでは、「日本ドラマ界を代表する脚本家の明暗」「カップルと夫婦はどう描かれたか?」「最終回のバッドエンドが大反響」という3つのポイントから検証し、全20作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は一切無視」の連ドラ解説者・木村隆志がガチ採点する。

『相棒』主演の水谷豊(左)、『デート』主演の杏

■ポイント1 名脚本家のオリジナル作品に明暗

『リーガルハイ』『鈴木先生』の古沢良太(『デート』)、『フリーター、家を買う。』『僕の生きる道』シリーズの橋部敦子(『ゴーストライター』)、『昼顔』『白い巨塔』の井上由美子(『まっしろ』)、『家政婦のミタ』『女王の教室』の遊川和彦(『○○妻』)、『ガリレオ』『HERO』の福田靖(『DOCTORS3』)、『最高の離婚』『Woman』の坂元裕二(『問題のあるレストラン』)など、今クールの脚本家陣は「今世紀最高」と言ってもいい豪華さだった。

いずれも作家性の強い脚本家だけに、そろってオリジナル作品で勝負。「常に予想を裏切る」古沢、「葛藤と生き様を描く」橋部、「骨太さと心の声で魅せる」井上、「ミステリアスなヒロインと愛情の深さで引きつける」遊川、「変人キャラを楽しく見せる」福田、「タイトなセリフ劇でドキッとさせる」坂元というように、いずれも持ち味を出していたが、視聴率と視聴熱では明暗が分かれた。

視聴率では『デート』『○○妻』『DOCTORS』が高水準をキープした一方、『ゴーストライター』『まっしろ』『問題のあるレストラン』が大苦戦。よもやの1ケタ代にとどまった。

一方、Yahoo!テレビでのコメント数やTwitterなどで見る"視聴熱"は、『デート』が圧倒的に高く、『ゴーストライター』『DOCTORS』『問題のあるレストラン』は固定ファンからの熱い支持を得ていた。厳しかったのは『まっしろ』『○○妻』。前者は設定そのものに、後者は終盤の唐突な展開に対する違和感の声が多かった。

特筆すべきは新たなチャレンジを見せた古沢。初の恋愛ドラマに挑み、独自の世界観を構築しつつ、毎話必ずほっこりさせる奥の深い脚本が際立っていた。

■ポイント2 カップルと夫婦はどう描かれたか?

昨年、『きょうは会社休みます。』『昼顔』のヒットで、久々に復活の兆しを見せた恋愛・夫婦ドラマ。その影響もあってか、この冬は多くの作品がラインナップされた。21世紀になってすっかり減っていたジャンルだけに、各局はどんなカップルや夫婦の描き方をしていたのか。

まずカップルでは、「昼メロ」と掲げた大人の恋愛がテーマの『セカンド・ラブ』。売れないダンサーとアラサー女教師という「満たされない二人が求め合う」展開は、80年代の恋愛ドラマを思わせるクラシックなもの。主人公のモノローグと映像美の重視は、『昼顔』のイメージに近かった。次に、『デート』は全てが規格外のカップル。ニートとリケジョをディフォルメした2人を通して、「現代カップルや結婚に関わる矛盾を考える」という変化球だった。

夫婦で目立っていたのは、『残念な夫』。「夫のいいところがほとんどない」という女性上位のドラマ界を象徴する関係性は新鮮だった。『流星ワゴン』もそれに近い図式。妻への理解が足りない夫が三下り半を突きつけられるなど、弱い立場が描かれていた。『○○妻』の献身的な愛と過去の過ち、『美しき罠』のダブル不倫でドロドロの関係は、こちらも"80年代への回帰"というイメージ。今後も女性上位、80年代への回帰、ドロドロの恋愛・夫婦ドラマが続くかもしれない。

■ポイント3 最終回のバッドエンドに大反響

コラム「『相棒』『○○妻』『ウロボロス』がまさかの結末に……バッドエンド連発とバッシングの背景とは?」で書いたように、いつになく後味の悪い結末が続いた今クール。

最悪の結末となった『相棒』『○○妻』『ウロボロス』以外でも、お金の呪縛から逃れられなかった『銭の戦争』、小さなクレームから閉店に追い込まれた『問題のあるレストラン』、まだまだ不倫が続きそうなムードの『美しき罠』も、ハッピーエンドとは言えない。

一方、伏線を見事に回収し、ハッピーエンドで終わった『デート』『ゴーストライター』への評判が上がるという反動も見られた。また、当初はタイムスリップの設定に疑問の声が多かった『流星ワゴン』も見事なハッピーエンドで、「見てよかった」の声が続出。「3カ月もの間、見続ける連ドラは納得のいく結末であって欲しい」という視聴者の声は間違いなく高まっている。

ただ、結末がハッピーエンドばかりではつまらない。少なくとも制作サイドは、「単なるハッピーエンドにはしたくない」「ハッピーエンドの方がウソくさい」という気持ちがあるものだ。それだけに視聴者のニーズは分かっていても、少しずつ角度を変えながら、さまざまなエンディングを見せてくれるだろう。


以上を踏まえた上で、今クールの最優秀作品に挙げたいのは、異色の恋愛ドラマ『デート』。攻めの姿勢を貫いた古沢良太の脚本はさすがであり、特に最終回は、電車の切符や『アダムとイヴ』のリンゴと蛇など、大納得の伏線回収。変人カップルと普通の人たちとのコントラストを際立たせた演出も光っていた。

シーソーのように入れ替わる2人の苦悩を描いた『ゴーストライター』が双璧。タイトルで誤解されることもあっただろうが、主演コンビの静かな熱演や、陰影ある映像美など、見どころは多かった。

一方、ウラ最優秀作品は『まっしろ』。「玉の輿」や「女のバトル」など複数掲げたテーマがぼやけたまま進み、最後まで何が言いたいのか分からなかった。

また、『出入り禁止の女』は、内容よりも放送そのものに問題アリ。一週間飛ばしたり、2話一挙放送したり、2月で終わらせてしまったり……キャストやスタッフがかわいそうだ。

【最優秀作品】『デート』 次点-『ゴーストライター』
【最優秀演出】『風の峠』 次点-『デート』
【最優秀脚本】『デート』 次点-『ゴーストライター』
【最優秀主演男優】長谷川博己(『デート』) 次点-中村雅俊(『風の峠』)
【最優秀主演女優】中谷美紀(『ゴーストライター』) 水川あさみ(『ゴーストライター』)
【最優秀助演男優】高橋和也(『風の峠』) 次点-松尾諭(『デート』)
【最優秀助演女優】坂井真紀(『怪奇恋愛作戦』) 次点-本田望結(『警部補 杉山真太郎』)
【最優秀新人】広瀬すず(『学校のカイダン』) 清野菜名(『ウロボロス』)
【ウラ最優秀作品】『まっしろ』 次点-『出入り禁止の女』