ADB(アジア開発銀行)の中尾武彦総裁は3月25日、日本記者クラブで会見し、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)について、協力関係を模索する考えを明らかにしました。
「ADBがAIIBに敵対するというオプションはあり得ない」
中尾総裁は、
「ADBがAIIBに敵対するというオプションはあり得ない。条件を満たす形でAIIBが始動するならば、協調融資などで協力していく。それは日本の利益にもつながる」
と強調しました。
さらに中尾総裁は、
「そもそもADBにはADBの強さがある。巨額の資金を持ち、多くの専門職員、事務所を構えるなか、アジアで大きな信頼を得てきた。資本金は、2014年末時点で約1531億ドル(約18兆3000億円)。職員数は2990人で、うち1074人は専門職員(日本人151人)。1966年の設立当初から加盟している日本からは、初代総裁以来、歴代の総裁を輩出してきた。
年間投融資承認額は約131億ドル、投融資残高は約843億ドルに上っている。
日本は反省もあるなかで、自国の利益にこだわらずに、アジア全体の発展を支援していく姿勢を見せてきた。そうしたなかで東南アジアの国々を始め、アジア各国の信頼を得てきている。その信頼を活かしならAIIBとも協力関係を構築していきたい」
と述べました。
「中国のAIIB関係者も、ADBと補完し合う関係を築いていきたいという意思」
また中尾総裁は、
「まだまだアジア地域には膨大なインフラ資金需要がある。これまでもJICA(国際協力機構)や各国政府機関、各国金融機関と共に、様々な形で協調融資や技術支援などにおいて協力関係を築いてきた。そこにAIIBが加わったとしても、問題はないだろう。
ただ、AIIBと協力する場合も、ADBの融資基準を堅持し、環境対策などに配慮しない支援は避けていきたい。ADBが歴史のなかで築いてきた信頼と条件には、重要視すべき点があると思う。環境や人権に配慮した融資基準を下げることは考えていない」
とつけ加えました。
そして、AIIBを主導する中国との関係について、中尾総裁は、
「中国のAIIB関係者らと何度か話しているが、彼らもADBと補完し合う関係を築いていきたいという意思を持っている。中国側は日本の技術力を始めとしたこれまでの経験を共有したいと考えているようだ。日本から援助を受けてきたことも知っており、評価もしている。
中国を始め、周囲のアジア各国が豊かになれば、日本にある資源は価値を生む。
各国の繁栄は経済の発展がなければ始まらないし、その中心はやはりインフラの分野だ。
国が発展し、人々の暮らしが豊かになるために必須なインフラは、電力や道路などの整備になるだろう。
そうした現状のもと、AIIBが必要だと考えられているのは多大な資金需要があるからだ。今後も資金需要が続くなかでADBの資金が駆逐されることはない。
将来については予想できないが、現段階では、ADBの資金規模は大きいと考えている」
と、アジアにおけるADBの存在意義を強調しました。
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。