パリにあるメトロの入り口。デザインも素敵

エッフェル塔に凱旋門、ルーヴル美術館にノートルダム大聖堂と、憧れの観光地がめじろ押しのフランス・パリ。実は東京の山手線の内側とパリ主要部はほぼ同じ面積ということをご存知だろうか。その意外にもこぢんまりしたエリアに、公共交通としてメトロ・バス・トラムの他、パリ近郊電車「RER」、フランス国鉄「SNCF」などの路線がひしめく。乗り鉄でなくともわくわくする。よし、乗りこなしてみようではないか!

パリ市内交通は乗り物共通・均一運賃

パリを中心とした地域圏イル・ド・フランスは、中心部から同心円状にゾーンで区切られ、公共交通の料金は移動ゾーンに応じて設定されている。区切り方はざっくりと大きく、パリは「ゾーン1」。つまり、市内観光なら均一の最低料金で済んでしまう手軽さなのだ。

さらに、メトロはゾーンの制限を受けないので、ゾーン2のヴァンセンヌ城やゾーン3の新凱旋門でも最低料金内となる。しかも、それぞれの交通機関は連携しており、共通の切符やパスで何に乗ってもOK。旅行者もにっこりの極めて単純明快なシステムだ。

基本となる切符は「Ticket t+(チケ)」。大人1枚1.8ユーロ(約230円)、10枚で14.1ユーロ(約1,830円)である。これ1枚で、メトロ・トラム・バス、ゾーン1内のRER、そして、観光客に人気のモンマルトルのケーブルカーにまで乗れる万能切符だ。

「Ticket t+」の画期的なところは、改札してから1時間半の間なら、メトロ/メトロ、メトロ/RER、RER/RER(パリ市内)、バス/バス、バス/トラム、トラム/トラムの乗り換えが同じ切符で可能なこと。あくまで目的地への移動を前提とするものなので、同じ路線での往復や乗り直しができないなどの制限もあるが、知っているとお得な知識である。

その他、一日乗り放題乗車券「Mobilis(モビリス)」や週・月・年単位の乗り放題パス「Navigo(ナヴィゴ)」もある。こちらは、例えばゾーン1~2やゾーン1~3のように、ゾーン区間毎の料金設定をしている。

乗り越し精算はできない!?

メトロはパリ観光で大活躍!(写真は2011年3月時のもの)

さて、要注意なのが郊外に足を延ばす時だ。例えばヴェルサイユ宮殿。パリから簡単に電車一本で行ける場所ながら、その駅はゾーン4。手持ちの切符で乗って目的駅の出口で精算する? ノンノン、出口には精算の窓口はないのだ。

では、車内で車掌から購入する? これもノンだ。時折、検札員が車内を回るのだが、これは無賃乗車を取り締まるため。その場で有効な切符を持っていない限り、情け容赦なく無賃乗車の扱いにされる。罰金は45ユーロ(約5,850円)から。手痛い出費となる。

つまり、フランスには「乗り越し精算」というシステムがないのだ。乗客は出発時に目的駅までの切符を持っていることが基本となる。例えば、ゾーン1~2で使える切符などを持っていたとしても、ゾーン1~4まで有効な切符を購入しなければならない。できるだけ節約したいなら、ゾーン2で途中下車し、ゾーン2からゾーン4まで有効な切符を買うという方法もあるが、その労力の方がもったいないかもしれない。

救世主となるか? 乗り放題パス「Navigo」

前述したように、パリには「Navigo」という乗り放題パスがあるが、実は現時点で唯一「乗り越し精算」ができるのがこの「Navigo」なのだ。正確には「乗り越し事前支払い」である。2013年に「Navigo」に付加された新機能で、これにより出発駅で乗車前に手続きすることで、重複するゾーン分を差し引いた区間の事前支払いができるようになった。乗車前にしておく煩わしさはあるものの、解決の道がようやく開けたと言えよう。

「Navigo」は非接触式ICカードで、イル・ド・フランス居住者が作れる「Navigo」と旅行者でも作れる「Navigo Decouverte(ナヴィゴ・デクヴェルト)」」の2種がある。週・月・年単位に、ゾーンごとに定められた金額をチャージして使う定期券のようなものだ。

「Navigo Decouverte」の料金は、最安かつ最もポピュラーなゾーン1~2・1週間タイプが21.25ユーロ(約2,760円)。これに初回のみ発行手数料5ユーロ(約650円)がかかる。ピッとタッチして何にでも何度でも乗れる万能感が魅力である。

パスの有効期間は、週パスが月曜から日曜まで、月パスは1日から月末まで。つまり、週や月にまたがる任意の期間を選ぶことはできない。複雑さを避けた、何ともシンプルなシステムだ。こうしたところもフランスらしさを味わえるポイントだと考えれば、パリの公共交通、愉快さは尽きない。

※1ユーロ=130円で換算。記事中の価格・情報は2015年3月のもの。写真はイメージで本文とは関係ありません

筆者プロフィール: 岡前 寿子(おかまえ ひさこ)

神戸在住の主婦ライター。ご近所の噂話から世界のトレンドまで、守備範囲の広さが身上。渡仏回数は10数回にのぼり、2年弱のパリ在住経験がある。所属する「ベル・エキップ」は、取材、執筆、撮影、翻訳(仏語、英語)、プログラム企画開発を行うライティング・チーム。ニュースリリースやグルメ記事を中心に、月約300本以上の記事を手がける。拠点は東京、大阪、神戸、横浜、茨城、大分にあり拡大中。メンバーによる書籍、ムック、雑誌記事も多数。