第7回WOWOWシナリオ大賞を受賞した栄弥生脚本の『ドラマW 十月十日の進化論』(3月28日22:00~)で、不器用な昆虫分類学博士役にトライした尾野真千子。彼女が演じた主人公・小林鈴は、虫とたわむれる純真さをもちつつも、虫の研究に没頭しすぎて、周りの空気が読めないという変わり者のKY女子だ。メガネをかけてこの役に挑んだ尾野にインタビューし、ドラマの舞台裏について話を聞いた。

尾野真千子

尾野が演じた鈴は、突然大学を解雇されたり、元カレとの酔っ払った勢いでの情事で妊娠してしまったりして、ふんだり蹴ったり状態だ。そんな彼女が、どうやって人生と向き合っていくのか?

本作でWOWOWのドラマの演出に初挑戦したのは、映画『箱入り息子の恋』(2013年)など、どこかずれているけど、たまらまく愛おしい人間を描くラブコメディに定評がある市井昌秀監督。共演に田中圭、でんでん、りりィ。サニーデイ・サービスの曽我部恵一が音楽を手がけ、自然案内の専門家"プロ・ナチュラリスト"の佐々木洋が、昆虫監修を手がけている点にも注目したい。

――鈴というキャラクターを、どう捉えましたか?

監督が最初に「鈴は周りの人を振り回す役だ。この物語は成長するドラマではないし、そういうことを描きたいわけではない」とおっしゃった時、ああ、いっしょの意見だなと思いました。これは、鈴が成長し始める前までのドラマ、気づく話なのかなと。何も成長しようとしてこなかった女子が、やっといろんなことに気付き始め、女性としていろんなことを始めていくまでの話だと思います。

――妊婦役はこれまでにも何度か演じられていますが、改めて十月十日分を演じてみていかがでしたか?

難しいですね。何回やっても、やっぱり妊婦の気持ちはわからないです。あの重みは綿を入れたところでわかるわけではないし。どちらかというと、妊婦のだんなさんの気持ちに近いのかもしれない。痛みも重さも辛さもわからなければ、何をしてあげていいのかもわからないという感じでした。やっぱり自分で経験しないことにはわからないんだろうなと。まあ、私も女だけに、ちょっとした気持ちはわかるから、なんとなく自分の気持ちも入りますが、まあ、ト書きどおりに演じました。

――元々、虫好きだったそうですが、虫との共演はいかがでしたか?

最初にWOWOWの方とお話をした時、「虫は全然大丈夫です。得意です」と言ったのですが、実際にやってみたら、意外とさわれない虫が多かったです。蛾の幼虫は小さい頃から嫌いだったので、初めに「こいつだけは触れません」と監督に言ってあったのですが、撮影をしていくにつれ、やばいぞということになって。カマキリをつかむシーンがあったのですが、その撮影日に、小一時間、カマキリとご相談させていただきました(苦笑)。その結果「少し触ります」ってことになりまして。子供の頃はムカデなど、あらゆる虫を手でつかんで刺されたりして、いろんなことを覚えてきたつもりでしたが、意外とカマキリはつかんだことがなかったんですよ。

――劇中では、カマキリをとても自然につかんでいましたよね。

ご指導をいただきまして。真上から背中のあたりをバッとつかめば大丈夫ってことで。そのとおりにつかもうとするんですが、カマキリの0.何ミリかのところで、毎回止まってしまうんです。「いいのか?お前、大丈夫か?」ってこと毎回ご相談です。カマキリは元気が良いやつと、ちょっとおとなしいやつの2匹が準備されていて。「もう抵抗しません」というおとなしいやつをつかんで、ようやくOKが出ました(笑)。

――田中圭さん演じる元カレ・安藤武とのユニークなラブシーンも印象的でした。

ああいう芝居ってちょっと照れがあったりして、なかなかがっつりやっていくのは難しいんです。でも、そんなに悩むことなく、テストから2人でこうしよう、ああしようとちゃんと言い合える良いパートナーだったとは思います。久しぶりの共演でしたが、いろんなことをお話しながらできました。

――本作に出演してみての手応えについて聞かせてください。

虫と関われることは、私にとって原点中の原点なんです。いちばん素になれるものとして、1つが家族で、もう1つは自然にふれ合うことなので。しかも今回の役は、子供を授かったりもするし、今の私に必要な物がこのドラマには散りばめられています。私は今、いろんなものに気づかなければいけない年でもあるし、いろんなものに感謝もしなければいけない。まさに原点に戻らなければ痛みも喜びも悲しみもわからない気がするので、このドラマは、私が今、出会うべき作品だった気がします。

――それは、演じてから気づいたことですか?

やる前にそういうことは思っていました。それで、実際にやってみて「ああ、私、虫が苦手になっていたんだ」ということに気づいたり、子供を産むってことにいろんな疑問を感じたりして、鈴と同じ感覚になっていきました。そういう意味で、いろんな思いを出すことができました。それが芝居に役立てたかどうかはわからないけど、自分の中でいろんな思いが湧いてきたんです。だから、これから見てくれる人も、たとえば私と同じくらいの年代の人だったら、自分自身を見つめなおしたり、共感したり、いろんな感情を表に出していただけるといいですね。