いまから10年前の2005年、テレビ朝日系列で「熟年離婚」というドラマが放送されました。主演は渡哲也さん。その内容はというと、渡哲也さんが定年退職を迎えた日、35年の結婚生活を共に送ってきた妻から離婚届を突きつけられるというもの。主人公からすれば、寝耳に水の出来事です。
現実にもドラマさながらに、子どもが手離れしたときや、夫の定年退職を機会に、妻のから離婚を切り出すケースは多いようです。それが、突然に離婚を思い立ったのではなく、きっかけはもう何十年も前だったというのも、よく聞く話です。なぜ女性は、離婚したいと思った夫と長年一緒に暮らすことができ、その間、夫の面倒も平気な顔ででき、自分の本音を隠し通せるのでしょうか。
女性は嘘をつくときも目が泳がない?
厚生労働省の「人口動態統計」などを見てみると、結婚5年未満の離婚割合が減る一方で、20年以上の熟年離婚が増えているようです。
前述のように、離婚のきっかけはここ数年のことではなく、10年、20年前にさかのぼる……なんてことも少なくありません。なぜ女性は、離婚したいと思った夫と長年一緒に暮らし、自分の本音を隠し通せるのか。いってみれば、嘘が上手なのか。
これに関してはアメリカで面白い研究が行われています。その内容とはというと、男女に、一対一で話し合いをしてもらい、最初は本当のことを、途中から男性も女性も、嘘の内容を話させるという実験です。
結果はというと、本当のことを話しているときの相手の顔を見つめている時間に比べて嘘をついているときは、男性は女性の顔を見る時間が減少し、女性は男性の顔を見る時間が増えたのです。
よく、嘘をついている人は目が泳ぐなんていいますが、そのことが男性に関しては証明されたわけです。逆に女性はこの実験によると、嘘が上手で、自分の本音を隠し通すことができる、ということになりました。
しかし、この実験結果では、離婚したいと思った夫と長年一緒に暮らすことができるという説明にはなっていないですよね。その説明には、経済的な問題が関係しているかもしれません。というのも、現在熟年離婚をする世代においては、女性で仕事を持っている人は多くはありません。離婚するとこで、生活水準が下がるケースは多いわけです。夫の定年退職後の財産分与(退職金)や厚生年金の分割などは、小さな問題ではないでしょう。そのためにも、定年までは一緒にいるんだという覚悟が女性にはあるのだと思います。
もともと女性は、自分と自分の子どもを保護・養育してくれる男性をパートナーと決めたら、揺れ動くということは基本的にはありません。というのも、自分の命と引き替えになるかもしれない出産を、その男性との子どものために行うわけです。つまり、一度決めたら貫き通すというのが女性なのです。そんな女性の持つ意志の強さと嘘の上手さが、自分の本音を隠し通せる理由なのかもしれません。
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著者プロフィール
平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理に詳しい。
現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は「化粧にみる日本文化」「黒髪と美女の日本史」(共に水曜社)など。