ウォシャウスキー姉弟が監督を務めた映画『ジュピター』が3月28日より公開される。宇宙を舞台にした壮大な作品に仕上がっており、SF映画に新たな金字塔を打ち立てることは確実な本作。ところで、皆さんはウォシャウスキー姉弟という名前に聞き覚えはないだろうか。そう、あの『マトリックス』の監督なのである。今回はウォシャウスキー姉弟の軌跡を追いながら、『マトリックス』以来16年ぶりの完全オリジナル新作『ジュピター』を掘り下げてみよう。
『マトリックス』の生みの親・ウォシャウスキー姉弟の軌跡
ウォシャウスキー姉弟は、1965年生まれのラナ・ウォシャウスキーと、1967年生まれのアンディ・ウォシャウスキーの2人がコンビを組んで活躍する映画監督だ。2人は実の姉弟で、大学に進学するものの中退。エンターテインメントの世界に飛び込んでいく。
2人の名が最初に世に出たのは、1995年のこと。ワーナー・ブラザースによって公開された『暗殺者』という映画で、2人の脚本が使われたのだ。脚本が認められた2人は、その翌年、今度は『バウンド』で監督としてデビューし、1999年には世界的なヒットとなった『マトリックス』を生み出すことになる。『マトリックス』が大ヒットしたとき、ウォシャウスキーという名前に聞き覚えがない人も多かったと思うが、無理もない。何しろ、『マトリックス』は2人にとって2作目の作品だったのだから。
その後、ウォシャウスキー姉弟は2003年に『マトリックス リローデッド』『マトリックス レボリューションズ』の2作を発表し、シリーズは完結。ここからウォシャウスキー姉弟は長い沈黙に入ることになる。といっても、作品を発表していないわけではない。例えば2008年には『スピード・レーサー』を、2012年には『クラウド・アトラス』を発表している。
しかし、これらはいずれも『マトリックス』とは違い、ウォシャウスキー姉弟の完全オリジナル作品ではなかった。『スピード・レーサー』は日本のテレビアニメ『マッハGoGoGo』を原作にした作品だし、『クラウド・アトラス』はトム・ティクヴァとの共同監督作品で、原作も別にある作品だ。
そうではない。僕らファンが見たいのは、ウォシャウスキー姉弟による完全オリジナルの作品なのだ。原作、監督、脚本――『マトリックス』のように、ウォシャウスキー姉弟がすべてをゼロから生み出した世界にもう一度浸りたい。それが『マトリックス』に衝撃を受けた世界中のファンの願いだろう。
2015年、ついにファンの期待に応えた作品が登場する。原作、監督、脚本のすべてをウォシャウスキー姉弟が担当する『ジュピター』だ。初代『マトリックス』から実に16年。再びウォシャウスキー姉弟が世界に衝撃を与えるときがきた。
映像の圧倒的な美しさとリアリティを実現
『ジュピター』は、地球が宇宙最大の王朝に支配されていた――という壮大な世界観で描かれるSF映画。地球で毎日不満を抱えながら生活している少女・ジュピター(ミラ・クニス)は、異星の賞金稼ぎケイン(チャニング・テイタム)との出会いをきっかけに、自分が宇宙最大の王朝の王位継承者であることを知り、人類の支配権をかけて運命の戦いに挑んでいくことになる。
これこれ! 『マトリックス』でウォシャウスキー姉弟を知った僕らとしては、こういう壮大な世界観で、なおかつ彼らがオリジナルで生み出した映画が見たかったのだ。何しろ『マトリックス』から16年である。今見ても『マトリックス』の映像は十分すばらしいものではあるが、どうせなら最新技術を駆使したウォシャウスキー姉弟の作品が見たいじゃないか。宇宙を舞台にした壮大なスケールで描かれるSF映画は、それにぴったりの舞台なのだ。
果たして、『ジュピター』はその期待に十分応えてくれた。「映像革命の新章はじまる」というキャッチコピーは決して大げさではない。まずはその背景の美しさだ。宇宙の支配者たちが住む宮殿はすばらしく荘厳で、なおかつ細部までこだわって作りこまれており、圧倒的なリアリティが感じられる。このリアリティはどこからくるのだろうか。
彼らの文明は地球よりもはるかに進んでいるのだが、建築物や室内のオブジェなどにはどこか中世のようなテイストが取り入れられており、近未来感とうまく融合して、独特の世界観を作り上げている。これが、「どこかで見たようで、見たことがない」という不思議な感覚をもたらしてくれる。しかし、こうしたオリジナルの世界に少しでもチープ感があると、途端に見ている方としては冷めてしまう。観客は「ああ、作り物だな」と敏感に見抜いてしまうのだ。
『ジュピター』では、「そこまで見る人はいないのでは」と思うほど、背景の細かい部分にまでこだわりぬいて作られている。宮殿だけではない。都市を俯瞰(ふかん)で見る場面があるのだが、そんなところまでおそろしく作りこまれている。このままカメラがアップになっていけば、人々の生活に飛び込めそうな気すらするほどだ。背景ひとつとっても、これほどの完成度を誇るのは、ウォシャウスキー姉弟が映画に出てこない場面まで含めて、完璧に世界観を脳内で構築しているからだろう。2人がオタク気質であることはよく知られているが、今回もそんなオタクならではの徹底ぶりがよく表れていると言える。
『マトリックス』ファンも納得の超スピードアクション
もう一つの進化ポイントはアクションだ。『マトリックス』ファンなら、真っ先にウォシャウスキー姉弟に求める要素だろう。結論から言うと、これも大いに期待してOKだ。『マトリックス』ではバレットタイムと呼ばれる手法で世界を驚嘆させたウォシャウスキー姉弟だが、今回は正統派の超スピードアクションで魅せてくれる。
前半はビルが立ち並ぶ大都市の上空を自由自在に宇宙船で駆け巡るチェイスシーンや、反重力ブーツを使ったスタイリッシュな立ち回り。後半には宇宙空間や異星の都市を舞台にした、迫力のバトルが展開されるのだ。『マトリックス』とはまた違ったアクションシーンながら、これぞウォシャウスキー! と納得のいく映像に仕上がっている。
『マトリックス』から16年。映画に映像革命をもたらした2人が、再び世界に衝撃を与えるべく帰ってきた。
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