18日、FOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受けドルはほぼ全面安
3月18日、米FRB(連邦準備制度理事会)が金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受けて、ドルはほぼ全面安となった。公表された声明文や経済見通し、あるいはイエレン議長の会見から、FRBは利上げ開始に対して慎重であり、かつ利上げのペースは緩やかになると示唆されたからだ。
イエレン議長は会見で、強いドルは「一部には米経済の強さを反映している」としつつ、「輸出が弱い理由の一つだ」、「少なくとも一時的にインフレを押し下げている」とも語った。ドル高を明確にけん制したわけではないが、議長がドル高に言及したこと自体が為替市場の警戒感につながったのかもしれない。
2015年のGDP成長率やインフレ率のFOMC見通しは前回12月時点と比べて下方修正
さて、声明文で、金融政策の先行きを示すフォワード・ガイダンスは、「(利上げ開始まで)忍耐強く(なれる)」から、「(利上げが適切になるのは)労働市場が一段と改善をみせ、中期的にインフレ率が2%の目標に回帰すると合理的に確信できた時」に変更された。
2015年のGDP成長率やインフレ率のFOMC見通しは前回12月時点と比べて下方修正された。市場が、「合理的に確信できた時」はかなり先だと考えても不思議ではないかもしれない。また、FOMC参加者の予想する今年末の政策金利(中央値)は0.625%と、前回の1.125%から大幅に下方シフトした。このことも利上げ観測の後退につながったのだろう。
米国が利上げ方向、日欧を含めその他の主要な国が金融緩和の継続ないし強化と、金融政策の方向性の差に大きな変化は生じていないので、いずれドル上昇の気運が強まると考えられる。ただ、今後の米国の経済指標によって、景気や労働市場の一段の改善、賃金上昇率の加速、インフレ率の上昇などを示唆する材料が積み上がって、利上げ観測が改めて高まるまで少し時間がかかりそうだ。
4月に発表される経済指標をみても、悩ましそうなものがいくつかある。例えば、3月の雇用統計では、非農業部門雇用者数や失業率もさることながら、伸び悩みが続く賃金がいよいよ加速するか。あるいは小売売上高だ。2月まで3か月連続で前月比大幅なマイナスだったが、寒波の影響がはく落することで3月に顕著な増加をみせるか。そして、次回FOMCの当日に発表される1-3月期の実質GDP成長率だ。1-2月のデータを中心に投入した短期予測モデルでは、ほぼゼロ成長が予想されており、そこから挽回できるか。もちろん、現時点でその答えは不明だ。
筆者も含めて、ドル強気派は今こそ「忍耐強く」が必要なのかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。