おなかの中でどんどん成長する新しい命。近年では超音波(エコー)技術の発達により、その様子を垣間見ることができるようになりました。おなかの中で赤ちゃんが動く様子やどんどん成長していく姿は、本当に感動的です。同時に、赤ちゃんの成長にあわせて、「子宮」も大きな変化を遂げています。妊娠初期から妊娠後期までに子宮で起こる現象を追いかけてみましょう。
妊娠! 子宮の壁が柔らかく変化
妊娠は、卵管での精子と卵子の出会いから始まります。ここで精子と卵子が受精して受精卵ができると、受精卵は3日ほどかけて子宮へと移動します。子宮は毎月、妊娠のために子宮内膜を分厚くして準備をしています。子宮へやってきた受精卵は、分厚くなった子宮内膜に埋まるようにして着床します。これで妊娠成立です。
その後、着床した受精卵、子宮内膜の両方から血管が伸びて胎盤を作り始めます。無数の血管が集まってできた胎盤は、子宮内で赤ちゃんを育てていくために不可欠な器官。胎児の肺や消化器官の代わりとなって酸素や栄養の交換を行うほか、肝臓や腎臓などとしての役割も果たしていくことになります。一方では、子宮の壁全体が、赤ちゃんの成長につれて大きくなるために、柔らかくなっていきます。
伸縮自在!? どんどん伸びて大きくなる!
では、妊娠前と妊娠後期の子宮の大きさを比べてみましょう。妊娠前の子宮は、縦の長さは約7㎝、横の長さは約3~4㎝、重さでいうと約40~50gといったところ。普段は鶏の卵くらいの大きさの子宮ですが、その壁は非常に伸縮性に富んだ筋肉でできています。そのため妊娠後期になると、縦の長さは約36㎝以上、横の長さは約24㎝、重さは約800~1,000gに。長さや幅は約5~6倍、重さは約20倍という驚異的な変化です。
臨月になり、エコーで赤ちゃんを見ていると、よくママやパパから「狭そうですね」といわれますが、赤ちゃんは狭いとは思わず、「抱きしめられている」と感じているそうです。赤ちゃんにとって子宮ほど居心地の良い場所はありません。「子宮」という言葉通り、まさに子どもの宮殿なのですね。
出産が近づくと、子宮が下がり、子宮口が開き始める
約10カ月かけて大きくなった子宮は、間近に迫った出産に向けて、赤ちゃんを押し出すための準備を始めます。胎児の頭が骨盤の中へと下がってくるため、子宮の位置も下がってきます。
また子宮口(子宮の入り口)には、内子宮口と外子宮口があり、この2つを結ぶ部分を子宮頸(けい)管と呼びます。出産が近づくと、「前駆陣痛」という弱いおなかの張りで子宮頸管が柔らかくなって広がり始め、内子宮口と外子宮口が開き始めます。
この時期には「おしるし」という少量の出血も見られたりします。これは、前駆陣痛によって子宮頸管が変化したり、赤ちゃんを包む卵膜が子宮の壁からはがれたりすることで起こります。「おしるし」という名前なのですが、お産の始まりを知らせるものではなく、お産の準備ができているという合図です。お産の始まりは、規則的な痛みを伴う「陣痛発来」、もしくは卵膜が破れて羊水が外へ流れ出る「破水」からと覚えておきましょう。
さあ、いよいよ出産。赤ちゃんが子宮から外の世界へ冒険の旅をするために陣痛が始まります。陣痛は子宮が赤ちゃんを外へ出してあげるための原動力。子宮がギュッと赤ちゃんを押して、赤ちゃんは産道を進んでいき、最後はママのいきみが子宮の収縮を手助けします。子宮とママとの共同作業で赤ちゃんが誕生することができるのです。そして産後の子宮は、約6~8週間かけて、また元の大きさに戻っていくことになります。
こうしてみると、子宮の底知れぬ力には、あらためて驚かされます。妊娠・出産という大舞台で最大限に力を発揮してもらうためにも、日頃から子宮にやさしい生活を心がけたいですね。
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善方裕美 医師
日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。
主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など