2014年は国内大手時計メーカーから衛星電波受信機能を持つ製品が出そろい、まさにGPSウオッチ元年ともいえる年だった。そんな中でひときわ異彩を放っていたのがシチズンの「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ F100」だ。今回は、持ち主の個性を主張する未来的なデザインと衛星電波を素早くキャッチする実用性の高さを併せ持つ、今もっとも気になる衛星電波時計である本製品の魅力をレビューする。
あなたの左腕に小宇宙(コスモ)はあるか!?
今、ビジネスウオッチを買うなら、どれを選ぶ? そう聞かれたら、真っ先に候補として頭に浮かぶのがGPSウオッチである。時計の至上命題である正確性はもちろん、旬の話題性に富むカテゴリーだけに、各メーカーともデザインや素材を含めた品質にも非常に力を入れている。黎明期はやや過剰ともいえる存在感があった(早い話が大き過ぎた)ケースも技術の進化によって小型化され、日本人の腕にも収まりの良いサイズとなった。機械式の工芸品的な歯車駆動の美しさを求めるなら話は別だが、そうでない限り、GPSウオッチは機能面でも時計本来の魅力という面でも注目すべき時計なのだ。
中でも、個人的に気になるのがシチズンの「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ F100」(以下「F100」)である。円と直線、そして複雑に織りなす面を巧みに組み合わせた都会的かつ未来的なケースデザイン。かと思えば、ダイヤルは視認性の高い大型針を配した実にオーソドックスな3針+1針のデイデイトスタイルだ。日常でどれだけ使われるかよくわからないクロノグラフを敢えて採用しなかったのが潔い。人工衛星からの時刻情報受信というSF的エッセンスと、時計の原点に立ち返ったようなストイックな精神。その2つの主張を見事に両立させたデザインは見事というほかない。
チタンバンドに腕を通し、高級時計の証であるムクの三折れバックルを締めた刹那、メタルウォッチならではのひやりとした冷たさが手首に走る。これをビジネスマンとしてのスイッチが入る瞬間、と捉える人は多いだろう。そう、ビジネスウォッチには、この瞬間が必要なのだ。
F100の重量は、わずか106g(筆者計測による)。これはチタン(ケース・バンド)ならではの長時間でも疲れない軽さながら、腕時計をしている実感を得ることできる、腕時計としての最適値に近い重量だと思う。ちなみに、10万円を超える時計となると、さすがに扱いには気を使うが、F100のケースとバンドにはシチズンが誇る信頼の表面加工技術「デュラテクト」が施されているので、普段の着用時をはじめ、テーブルに置くときにも過剰にナーバスにならずに済むのが嬉しい。
ボリュームで主張せず、デザインで主張する
実際に腕に着けて眺めると、あらためて見所の多さに気付く。人工衛星の太陽電池パネルあるいはオービタルリングをも連想させるダイヤルと、そこから浮遊したバーインデックス、そしてさらに上空に浮かぶごとく風防に印字された都市コード。ダイヤルの曲率の延長上に面を合わせて配置された操作ボタンは肉抜き処理され、人工衛星のパイプフレームをモチーフとしているという。気分はまさに成層圏の彼方だ。
ケース厚は12.5mm(設計値)と衛星電波受信機能を持つ時計としては世界最薄を誇るF100だが、特徴的な4つの美しいミラー面のおかげで数値以上に薄く感じる。つまり、心理的に着けやすいのだ。しかも、物理的にもシャツの袖口との衝突を受け流してくれるため、実際に着け心地がいい。だから、外出時に時計を選ぶとき、つい手に取ってしまう。F100は「ボリュームで主張せず、デザインで主張する時計」なのだ。
なお、余談だがこのミラー面もまた、人工衛星に関する「あるもの」がデザインモチーフとなっているのだが、おわかりになるだろうか。答えは「ミウラ折り」。宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構)の三浦 公亮 名誉教授が考案した折り方で、人工衛星の太陽電池パネルやアンテナなどの伸展に利用されている。F100はその隅々にまで「サテライト ウエーブ」としてのデザインが貫かれているのである。
ところで、F100の肩書きは「衛星電波時計」である。いわゆる「GPSウオッチ」とどこが違うのだろうか。また他メーカーの競合製品には位置情報と時刻情報の両方を取得するものもある。F100はなぜ位置情報を取得しない設計としたのだろうか。シチズン時計 広報宣伝部の岩橋さんにお話を伺った。
岩橋さん「シチズンは1989年から電波時計の開発に着手、1993年にいちはやく世界初の多局受信型アナログ式電波時計を実用化しました。F100などの衛星電波時計も、その連綿と続く歴史を受け継ぐ製品で、シチズンにとってはあくまで電波時計のひとつなのです。正確な時刻情報を取得する電波時計の弱点だった“標準電波の届かない地域”という問題を克服するために、人工衛星の電波を利用するというアイディアです。また、GPS(Global Positioning System)と聞いたときにまず思い浮かべるのは、カーナビやスマホなど位置情報を取得する機能ですよね。でも、F100はGPSの時刻情報のみを取得して、位置情報は取得しません。それが特徴ですので、『GPSウオッチ』ではなく、衛星電波時計としています」
つまり、最初から位置情報を取得するという視点に立脚していないということだ。GPSで位置情報と時刻情報を取得し、タイムゾーンを割り出して正確な時刻情報を参照するという製品とは、出自そのものが違うということか。なるほど!
時刻情報のみを取得するF100は、情報取得に関してはひとつの人工衛星を補足すれば良いため (位置情報も取得する場合は3つの衛星補足が必要)、取得成功率が高く時間も短くて済む。
岩橋さん「時計に必要なのは、とにかく正確な時間を素早く取得すること、という発想です。そのために衛星電波受信のアルゴリズムを刷新しつつ、通常の約3倍(笑)の速度で針を動かせる高速モーターを搭載しました」
海外、それも都市コードから探すのも面倒なほどあちこちの国を飛び回るならいざ知らず、日本にいる機会が圧倒的に多いなら、位置情報を取得しなければならない機会はそれほどないだろう。とすれば、「時刻情報のみ短時間で取得+タイムゾーン変更はユーザーがおこなう」という選択は現実的といえるかもしれない。
もう普通の電波時計には戻れない!
実際に時刻の手動取得をおこなってみた。操作は、4時方向のボタンを長押しするだけ。…おぉ、確かに早い! 詳しくは動画をご覧いただきたいが、平均しても針が受信位置に来てから10秒以内には時刻取得が終わる。これははっきり言って、もう標準電波の取得操作がまどろっこしく感じられる快適さ。この早さを一度味わってしまうと、もう電波時計には二度と戻れなくなりそうで、マジでヤバい……。
ただ、タイムゾーンは自分で合わせなきゃならないんですよね?
岩橋さん「そうなんです。でも、F100は当社のりゅうずによるタイムゾーン切り替え機能“ダイレクトフライト”を搭載しています。りゅうずを一段引いて回し、秒針をダイヤル上の任意のタイムゾーンに合わせていただくだけで、次々に時刻表示が切り替わります」
また、りゅうずを二段引いた状態で回すと、サマータイム(DST)のオン/オフが切り替わる。ダイレクトフライト自体はもはや慣れ親しんだ機能だが、新搭載の高速モーターのおかげでレスポンスが向上し、便利さがいっそう際立っている。これは、必要がなくとも操作したくなるほど楽しい。
岩橋さん「そう仰るお客様は多いんです。でも、F100は非受信時の精度も月差±5秒と高精度なので、そのうち、特に操作しなくても困らないことに気付いちゃうんだよね、と仰る方も多くて(笑)」
最後にもうひとつ、便利に感じた機能「ライトレベル インディケーター」にも触れておこう。衛星電波取得に加え、高速モーターを搭載しているF100にとって、充電量はもちろん、エコ・ドライブの発電環境もまた大切な問題だ。いや、実際はパワーセービングモードで7年間ももつほどの省電力設計なのだが、ユーザーとしては充発電の状態は常に気になるところだろう。
2時位置のボタンを押すと全針が動き、その場所での発電量(受光量)を7段階(12時~6時を指す)で表示するのだ。12時を指したらレベル0(最低)、6時を指したらレベル6(最高)という具合。このとき、7時位置のインダイヤルは充電量を示す。充電量が低下してきたとき、より効率的に充電できる環境を探すのに役立つ機能だ。
このほか、磁気や衝撃による針位置のズレを検出して針位置を自動補正する「パーフェックス」や自分で針の基準位置を確認、修正する機能など、高級腕時計としての足回りも万全。メーカー希望価格は17万円(税別)からと決して安い買い物ではないが、F100は、衛星電波時計をお探しなら一度は店頭で手にとってみていただきたいモデルだ。遊び要素の少ないビジネスウオッチとはいえ、せっかく高級時計を買うのなら、ありふれていない、あなたの個性を物語ってくれる時計がいいと思いませんか?