後発薬(ジェネリック)事業が拡大、世界大手製薬会社も注目
株式投資を考えるうえで、ヘルスケア分野は、景気の波の影響が少なく、安定した投資を期待できると一般的に考えられている。だからといって、製薬会社が必ずしも安定した投資先とはいえないのが昨今の流れ。
実際、世界最大手の米ファイザーは、過去数年で高脂血症薬など主力薬の特許が失効し、売上高がこの4年で約3割減った。このまま、薬品業界の巨星も落ちていくのだろうかと思われた中、注射剤やバイオ医薬品の後発薬に強みを持つホスピーラの買収を発表。新興国を中心に後発薬(ジェネリック)事業を拡大するという戦略だ。ジェネリックは安価なことから、新興国では広く普及しているうえ、先進国は医療費削減のために利用を推進している。
確かに今、ヘルスケア市場はかなり熱い。下グラフを見てもわかるとおり、2000年を100とした場合、昨年末時点で世界のヘルスケア株式は約2.3倍上昇しており、世界株式よりも高いパフォーマンスをあげている。さらに注目なのはアジアのヘルスケア株式が、同期間で約3.6倍と驚異的なパフォーマンスをあげている点だ。米ファイザーが注目するのは当然の成長市場といえるだろう。
アジアは21世紀に入り、新興市場のなかでも、成長が著しいのはみなさんご存じのとおり。ただ、ここ数年は、中国市場の成長鈍化もあり、一時の勢いが見られなかった。
そうした中でも、アジアのヘルスケア市場はここ15年右肩上がりの成長を続けている。アジアの医療費(対GDP比)は、先進国と比べて低い水準にあるものの、年々増加の一途をたどっており、2000年から2012年にかけて約6倍に増えている。経済基盤が強まるにつれ、今度は国民の生活水準の向上部分に目が向けられるため、ヘルスケア分野の成長は今後とも期待できるものと思われる。
医療費の「安さ」を武器に、"医療ツーリズム"が急成長
アジアのヘルスケア市場の成長については、市場の需要が高まっている以外に、実はもう一つの成長理由がある。
アジアでは、医療ツーリズム(メディカル・ツーリズム)が急成長を遂げているのだ。医療ツーリズムとは、診断・治療などの医療サービスを受けることを目的とした旅行のこと。日本に住んでいると、公的医療保険が充実しており、自己負担が誰でも3割のため、海外へ治療に行くニーズがあまりイメージできない。しかし、米国や欧州、中近東などの国々では、必ずしも、誰もが3割負担で医療を受けられる国ばかりではない。
そのうえ、先進国はそもそも医療費が高いこともある。下グラフでもわかるように、たとえば、米国では人口股関節置換手術が5万米ドル(約500万円)するところ、韓国なら約1万4000米ドルと価格が約5分の1、タイなら1万米ドルを切る価格で手術を受けることができる。
そのため、アジアへの医療ツーリストの数は年々増えており、タイで250万人、シンガポール・インドで85万人、マレーシアで80万人弱を年間に受けて入れている。
政府が後押しして医療機関の「JCI認証」取得を促進
日本人から見ると、海外での治療に不安はないのかと思う人もいるだろう。それについては、政府が医療を外貨獲得の戦略的なツールと位置付けて、外国人・富裕者向けの医療機関の建設を後押ししている。その象徴的な例が、病院側が推進している国際的な評価制度であるJCI認証の取得だ。この認証は、1000を超える審査項目をクリアしなければいけない厳しい基準のもの。JCI認証取得機関ということで、外国人が安心して受診に来れるのだ。こうした医療機関を中心に、サービス面の充実も見逃せない。マレーシアにある病院経営の大手IHH下のマウトエリザベス病院では、ホテル並みの設備に加え、英語、中国語、アラビア語、ロシア語など10カ国語に対応できるという。
こうした外国人・富裕層向けの医療機関は、一般的な病院とはかなり格差があるのは確かだが、最新医療施設と手厚いサービスを売り物に、市場規模は2014年から19年にかけて、年平均20%程度の成長が見込まれているという。
アジアの医療市場そのものの成長に加え、医療ツーリズムという外貨獲得のための戦略的なサービス分野の成長も功を奏し、当分、この分野からは目を離せなさそうだ。
アジアの「ヘルスケア」の成長をどう取り込む?
この分野の株式に投資しようと思うと、まだまだ銘柄自体は少ないが、新しくこの分野を投資対象とする投資信託「アジア・ヘルスケア株式ファンド」(運用:日興アセットマネッジメント)が2015年1月に誕生した。この投資信託は、中国、インド、タイ、マレーシア、インドネシアなどのヘルスケア関連銘柄へ投資している。この分野の成長を取りこもうと思うなら、投資信託を活用するのも賢明な選択肢だろう。
アジアでは、経済成長に伴なう医療需要の高まりや医療ツーリズムの推進が見込まれることなどから、今後もヘルスケア市場の拡大が期待できるだろう。
いかがだっただろうか。このレポートを読んでいただいたことで、タイやマレーシアなどのアジアの国々の意外な一面を分かっていただけたなら幸いである。
<著者プロフィール>
酒井 富士子
経済ジャーナリスト。(株)回遊舎代表取締役。上智大学卒。日経ホーム出版社入社。 『日経ウーマン』『日経マネー』副編集長歴任後、リクルート入社。『あるじゃん』『赤すぐ』(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から経済ジャーナリストとして金融を中心に活動。近著に『0円からはじめるつもり貯金』『20代からはじめるお金をふやす100の常識』『職業訓練校 3倍まる得スキルアップ術』『ハローワーク 3倍まる得活用術』『J-REIT金メダル投資術』(秀和システム)など。