工学院大学はこのほど、同大学技術士会の講演会を東京都・新宿キャンパスにて開催した。同講演会では、小山文隆教授(現工学部応用化学科、4月より同大学先進工学部生命化学科着任予定)による「認知症・アルツハイマー病 知って安心、今後のために」の講演が行われた。

小山文隆教授(壇上)による講演「認知症・アルツハイマー病 知って安心、今後のために」の様子

物忘れと認知症の違いとは?

まず認知症とは、「獲得された知能が低下した状態」のことを指す。老化による物忘れと、アルツハイマー病などの病的認知症の大きな違いは、物忘れは「自覚がある」のに対し、認知症は「自覚があまりない」ことがあげられる。

具体例として、「昼食に何を食べたかを忘れる」のが老化による物忘れであるとすれば、「昼食を食べたことを忘れる」のが"認知症の疑いがあり"ということ。このほか認知症には、「全体像を忘れる」「全知的機能の障害が起こり、社会生活が円滑にできない」などの特徴も見られるという。

さらに認知症は、「脳血管性認知症」と「アルツハイマー型認知症」の2つに分けられる。これらの違いについて、「脳血管性認知症は、脳血管が詰まることで発症します。原因がわかっているぶん対策がとれるので、患者数を減らすことが期待でき、少なくとも激増することはありません。これに対して、アルツハイマー型認知症は原因がわからないので、有効な予防法や治療法の手段がありません。これでは患者が増えることにつながります」と小山教授。

アルツハイマー病が注目されている理由

アルツハイマー病の名称は、1906年にドイツの精神科医、アロイス・アルツハイマー博士が症例を報告したことに由来する。

その特徴としては、まず老年期(65歳以上)の認知症の60%以上が該当し、記憶に関わる脳の神経細胞が死滅することがあげられる。そして、高齢者ほどその頻度は高く、進行的であり、有効な治療法がないのが現状だ。

また、イギリスの研究(「認知症の出現頻度と年齢の関係」)によると、認知症の出現頻度は、65歳未満では700人に1人なのに対し、65歳以上では14人に1人、80歳以上では6人に1人と高くなるとのこと。

小山教授は、最近アルツハイマーが注目を集めている背景には、「日本人の長寿化」があると語る。「例えば平均寿命が50歳ほどだった戦国時代はアルツハイマー病の発症リスクが少なかった。日本人の寿命が延び、多くの人が65歳を超えるまで生きる現代だからこそ、アルツハイマー病が増加し、この病気への注目が高まっているのです」。

アルツハイマー病患者の脳に見られる3つの特徴

アルツハイマー病の発症因子として、約10%を占めるのが「家族性」で、残りの約90%は「孤発性」だという。家族性の原因遺伝子は「アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)」「プレセニリン1」「プレセリン2」という3つの遺伝子のどれかに、発症に関わるアミノ酸変異が一つ入ると、40~65歳でほぼ発症するという。

「アルツハイマー病の発症因子」(小山文隆教授提供)

孤発性因子の原因遺伝子は明らかになっていないが、危険因子として「アポリポタンパク質E」という遺伝子が報告されている。「E4」というタイプをホモで持つ(同じ対立遺伝子からなる状態)と、発症するリスクが上がるとのこと。そして、アルツハイマー病の最大の危険因子は年をとること、つまり老化だという。

そして現在、世界中のアルツハイマー病研究者の多くは「アミロイドカスケード仮説」を支持し、研究しているといわれている。

アルツハイマー病患者の脳には「老人斑の蓄積」「神経原線維性変化の蓄積」「脳の萎縮」という3つの特徴が見られるという。老人斑は、その前駆体タンパク質のAPPから生成される「アミロイドβ(タンパク質)」、神経原線維性変化は「tau(タンパク質)」からできており、アルツハイマー病の発症に関係するといわれている。まずアミロイドが蓄積した後、神経原線維変化も蓄積し、神経細胞死が起こる。そして脳の萎縮が見られ、認知症になっていく。これが「アミロイドカスケード仮説」である。

毎日の"昼寝"が予防に有効!?

このように現時点では、発症メカニズムが解明されておらず、有効な治療法もないアルツハイマー病。小山教授は「発症を10~20年遅らせることができればいいですね」としながら、最後に興味深い情報を一つ付け加えた。

その情報というのは、「第17回日本痴呆(現認知症)学会」において、「毎日昼寝をしていた人は、していない人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが5分の1に減った」と発表されたことだという。これには小山教授も、「毎日20~30分の昼寝によってアルツハイマー病が抑制されると思います」とコメント。昼寝には、皮膚の老化防止や短期記憶の消去といったリフレッシュ機能があることが指摘されているという。

そして、「誰でも年をとります。年をとればアルツハイマー病が増えます。アルツハイマー病の特徴を知り、必要以上に怖がらないで、高齢化社会を過ごしましょう。そして、脳の神経細胞を休め、リフレッシュ効果が期待できるお昼寝もぜひ試してみてください」と締めくくった。