人間は誰しも気分の浮き沈みがある。楽しい・嬉しいときは気分が高揚し、悲しい・つらいときは気分が落ち込む。ただ、悲しいことやつらいことに直面していないのに落ち込んだ気分が続くと、「もしかしてうつかも……」と自分を疑いたくなるときもあるだろう。
だが、自分で思い込んでしまうのは早計だ。うつかどうかを判断するには、一定の"基準"があるし、人によってなりやすさも異なる。そこで、うつに関するさまざまな記事を紹介するので、「いざ」というときに正しく対処できるよう、そしてそのような状況を未然に防ぐためにも役立ててほしい。
うつにまつわる正しい知識を手に入れる
心身の不調が続いてうつを疑いたくなるとき、医療機関を受診すべきかの判断基準の一つとして、心身の不調時間の長さがある。喪失体験の後、1年たっても心身の不調から抜け出せないときは「うつ病」の可能性がある。「眠れない」とか「生きていたくない」といった深刻なうつ状態が続くと、精神科などにかかったほうがいいだろう。
うつ状態は必ずしもうつ病を意味しない。うつ状態が続く場合、うつ病以外にも統合失調症や「心の風邪」とも言われる適応障害などの疾患も考えられる。個々の患者の状態によって治療法や指導法も異なるため、まずは一人で悩まずに医療機関を訪れるようにしよう。
個々のストレス耐性を上回るだけの負荷がかかる状態が長期間続くと、人はうつ病に陥る危険性がある。そんなうつ病は、実は脳内の「セロトニン」「ドーパミン」などの神経伝達物質が減少することによって生じる「脳の病気」だということは、意外と知られていないかもしれない。
「セロトニン」が減少すると不安感が増大し、「ドーパミン」が減少すると物事への興味がなくなり、喜びを感じにくくなると言われている。生活習慣や思考を変えたり、場合によっては薬の力を借りたりすることで神経伝達物質を増やし、うつ病の症状の改善を図るのが一般的だ。心を病んでしまったら、その人に見合った適切な"処方箋"で、乗り越えるようにしよう。
脳の病気であるうつ病だが、性格によってなりやすさには個人差があるのだ。典型的なうつ病になる人は、真面目で責任感や義務感が強い人が多いとされている。また、仕事熱心な人もあてはまりやすい。どれだけ仕事や悩みを抱えていても周囲にSOSを出さないため、ある日ふと自分のストレス耐性の限界を超えてしまい、うつ病を発症してしまうのだ。
このように責任感の強いタイプの人は、馬車馬のようにまじめにせっせと働く。だが、本物の馬車馬はカーブになれば、必ずスピードを緩める。私たちも、心と体が悲鳴を上げたら、自らブレーキをかけることが大切なのだ。
最後に、うつを遠ざけるための思考法を紹介しよう。「認知行動療法」と呼ばれるその治療法で行うのは、「自分の認識を変えて、行動に移す」ことだ。私たちは、固有の思考パターンや癖にとらわれて何かを考えている。責任感が強い人は、トラブルが起きるたびに「自責感」という思考や認識に基づき、自身を責める傾向があることなどが一例だ。
水が半分入ったコップを見て、「もう半分しかない」と思うのか。それとも、「まだ半分もある」と思うのか。後者からは前向きな印象を受けるが、人によってはこの半分の水をとても悲観的にとらえる人もいるかもしれない。そういった「思考の癖」を改善して、物事を多角的かつ柔軟に考えられるよう、認識を変えて行動に移していくのが認知行動療法だ。悲観すべきことがあっても、できる限り前向きにとらえて沈み込まないように努めてみよう。
記事監修: 波多野良二(はたの りょうじ)
1965年、京都市生まれ。千葉大学医学部・同大学院卒業、医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。東京の城東地区に基盤を置く桐和会グループで、日夜多くの患者さんの診療にあたっている。