アニメやマンガが日本の現代文化として、海外などでも注目を集めています。それと同時に、アニメやマンガの登場人物と同じ装いをし、そのキャラクターになりきるコスプレも大人気です。矢野経済研究所の調査によれば、コスプレ関連ビジネスは400億円を超えるともいわれています。なぜ、そこまで人はコスプレをするのでしょうか。
コスプレは日々の自分からの解放
コスプレをする人のことをコスプレーヤーと呼ぶそうですが、単に趣味として行う人だけではなく、なかにはプロのコスプレーヤーもいるそうです。そういった職業としている人は別として、どこにでもいるような学生や会社員である人たちがコスプレするのは、日々の自分からの解放です。
コスプレとはもともとコスチューム・プレイのこと。時代劇・歴史劇のなかで、現代劇とは違い当時の衣装を身にまとって演じることを意味します。つまり、『ベルサイユのばら』のオスカルの衣装を身にまとうことで、○○という俳優さんからオスカルに変身することができるわけです。
人は日々の生活のなかで、大なり小なりいろいろな役を演技しています。会社員、母親、娘、彼女……。その役割を切り替える役割が、部屋着や外出着など、日々の装いだったりするのです。つまり、日常の自分の担っている役割を重荷に感じていて、そこから解放されたいという心理が存在しています。
キャラクターの内面と同化したい心理
と同時に、アニメやマンガのキャラクターへコスプレするのは、そのキャラクターへの同化です。それは、そのキャラクターそのものになりたいというよりも、そのキャラクターの内面(性格)を自分と同化させたいという心理があると思います。
というのも、好きなアニメやマンガのキャラクターについての調査では、その理由としてスタイルがいいからという理由よりも、キャラクターの内面への共感が挙げられることが多いです。つまり、コスプレーヤーは、日常的な自分から解放されたいという心理と同時に、今の自分に満足しておらず、そのキャラクターのような存在になりたいという変身願望が存在しているのではないでしょうか。
これは、いわば化粧や整形と同じ感覚かもしれません。部屋着の私から外出着の私に変身させる化粧、今の自分に不満で理想的な自分の姿に変える整形とコスプレは同じものなのです。ただ、コスプレは明確なキャラクターの存在があるため、変身の意味は化粧や整形より強いかもしれません。どういったキャラクターにコスプレをしているかに注目してコスプレーヤーさんたちを見てみると、その人のなりたい自分が見えてくるかもしれませんね。
※写真と本文は関係ありません
著者プロフィール
平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。