2月末をもって、米国の国土安全保障省が一部閉鎖の瀬戸際
2月末の期限切れを目前にして、ギリシャが支援策の4か月延長でユーロ圏と合意に達し、危機はいったん回避された。もっとも、ギリシャは2か月以内に支援条件の詳細を決め、それらを実行に移す必要があるため、まだまだ安心は禁物のようだ。財政緊縮策の巻き戻しを公約にして政権を奪取したツィプラス首相のSYRIZA(急進左派連合)と、サマラス前政権が受け入れた条件の履行を求めるユーロ圏との溝は開いたままだ。
同じ2月末(厳密には27日)をもって、米国の国土安全保障省が一部閉鎖の瀬戸際にあった。同省の予算が失効するためだ。
米連邦政府の会計年度は前年10月から当該年の9月までの1年間。つまり、現在は2015年度で、今年の10月から2016年度が始まる。2015年度の予算はオバマ政権と共和党との交渉が難航したため、年度開始後の昨年12月に成立した。
ただ、その時に国土安全保障省の予算だけが、今年9月の年度末までではなく、2月末までの期限付きにされた。共和党が同省の3月-9月の予算を人質にして、オバマ政権の移民政策に影響を与えようとしたためだ。共和党が新たな予算案に、オバマ政権の移民規制緩和策を覆す条項を盛り込んだため、交渉が難航していた。
最悪の場合は政府機関の閉鎖や国債のデフォルト
米国がテロの脅威に晒されている時に、それらに対処すべき国土安全保障省の予算失効を交渉材料にする共和党の戦術は、さすがに国民の理解を得られなかった。共和党は移民関連の条項を削除して短期のつなぎ予算を成立させる方向だ。
もっとも、国土安全保障省の予算交渉は、これから本格化するオバマ政権と共和党の財政バトルの前哨戦に過ぎない。3月16日には一時的に無効にされているデットシーリング(連邦債務上限)が復活する。そうなれば、その時点で政府は借り入れを増やすことができなくなるため、最悪の場合は政府機関の閉鎖や国債のデフォルト(債務不履行)につながりかねない。政府は裏ワザを使って期限を数か月先送りすることは可能だが、夏場には議会によるデットシーリングの引き上げが不可欠になる。その頃には、来年11月の大統領選挙も視野に入れて、デットシーリングの引き上げや2016年度予算を巡るオバマ政権と共和党の交渉は難航しそうだ。
金融市場は固唾を飲んで見守ることになるのか。2011年夏の米国債格下げ、2013年初の「財政の崖」、同年秋の窓口閉鎖(16日間)など、米国の財政危機は「恒例行事」とみなされるのかもしれないが、やはり注意は怠れない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。