1話11.1%、2話11.7%、3話11.1%、4話9.6%。『流星ワゴン』の視聴率が初回から期待されたほどではなく、香川照之が大和田常務ばりの土下座を見せた5話も8.3%とさらに下がってしまった。
もちろん録画機器や視聴デバイスが発達した今、視聴率は1つの指標にすぎない。しかし、「最もリアルタイム視聴者が多い」とも言われるTBSの看板枠・日曜劇場での放送だけに、ここまでの停滞は予想していなかったのではないか。
「冬ドラマの本命」とも言われた『流星ワゴン』に何が起きているのか? 放送前と放送開始後の2点からその理由を探っていく。
透けて見える制作サイドの皮算用
まず放送前の問題について。原作は100万部超のベストセラーであり、重松清作品は『とんび』の成功で日曜劇場との相性も実証済み。しかもそれを手がけるのは、あの『半沢直樹』を手がけたプロデュース・伊與田英徳×演出・福澤克雄×脚本・八津弘幸のチームで、メインキャストは西島秀俊、香川照之、吉岡秀隆ら演技派ぞろい。さらに、主題歌はサザンオールスターズと、テレビマンから見たら「これ以上ない」盤石の布陣をそろえたはずだった。
しかし、これを「盤石」とは見ないのが今の視聴者。「面白いから見て」と押しつけられるのが嫌いであり、さまざまなメディアの中から「『自分が面白い』と思うものを見つけて楽しみたい」という思考が強い。
ここに「これだけそろえたのだから見てよ」という制作サイドと、「そろえ過ぎると押しつけられているみたい」という視聴者のすれ違いがある。制作サイドとしては決して視聴者を甘く見ているわけではないが、簡単な足し算ほど「オレたちがここまでそろえたのだから面白くて当然」という上から目線を感じやすいのかもしれない。
タイムスリップ乱発への冷めた目線
ただ、「そろえすぎ」に対する視聴者の違和感は、同チームが制作した昨年放送の『ルーズヴェルト・ゲーム』でも見られた。しかし、それでも初回視聴率14.1%、全話平均14.5%を記録するなど、明らかに『流星ワゴン』よりも高かっただけに、別の理由もあるような気がする。
その最たるものは、"タイムスリップもの"への冷めた目線。前クールで設定が極めて似た『素敵な選TAXI』が放送されたほか、昨年は『アゲイン!!』『天誅~闇の仕置人~』『信長協奏曲』『信長のシェフ』と5本のタイムスリップものが放送された。
これだけ放送されていたら、新鮮味や意外性がないのは当然。制作サイドが「これは他のタイムスリップものとはひと味違う」と工夫を凝らしても、せっかちな視聴者たちは初回すら見てくれない。原作小説が売れまくっていた2002年ごろならよかったのかもしれないが、とにかくタイミングが悪すぎた。
また、同じ枠で放送された『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』もそうだったが、日曜劇場の視聴者層とタイムスリップものの相性にも疑問が残る。つまり、見る前から「またか……」「これはナシかな」と見なされた可能性は大いにありそうだ。
「泣かせよう」という既視感
次に放送開始後の低迷について。これだけの大作であり、ドラマとしてのクオリティが低いわけではないのに、徐々に視聴率が下がりはじめているのはなぜか?」予想されるのは、視聴者の「きっとこうなるんだろう」という既視感であり、その「こう」に当てはまりそうなのは、「泣かせよう」という制作サイドの誘導。西島演じる一雄のふがいなさも、香川演じる忠さんの破天荒さも、序盤~中盤をハイテンポ&ハイテンションで押しまくっているのも、全ては終盤でホロリとさせるため。そもそもタイムスリップだけでなく、「なぜ父親の忠さんが同乗している?」「何で一雄と同い年?」などの設定も"ファンタジー"というより、"泣かせるための強引な設定"という印象を与えてしまっているのかもしれない。
また、ネットのクチコミなどでは、「西島と香川のダブルキャストは、『ダブルフェイス』『MOZU Season1』『MOZU Season2』に次ぐ4回目で飽きた」「戸惑う一雄のキャラと、力強い演技の西島がシンクロしない」「翌朝の仕事を控えた日曜の夜に、元気すぎる昭和オヤジ(忠さん)を見ると疲れる……」などの声もある。
当然、ほとんどのドラマにこのようなツッコミどころはあるものだが、濃厚な演出で知られる『半沢直樹』チームだけに、「目につきやすい」という側面はあるだろう。
強烈キャラに潜む忠さんの名言
しかし、ドラマ版『流星ワゴン』だからこそ、わかりやすく心に響くものがある。それはムチャクチャなことばかり言っているように見えて、「ハッ」とさせられることも多い忠さんの名言だ。
「調子悪いときに出るんが実力と違うんか?」「親が子どものことを決めつけるのは一番いけん」「子どもじゃろうが勝負は勝負じゃ。わしゃ手加減せんぞ」「邪魔でも憎んどっても離れられんのが本物の親子じゃ」「世の中にはのう、何かをやるやつとやらないやつの2種類しかおらんのじゃ」「不可能を可能にせい、健太! まず、心の中に奇跡を起こせ」「わしも何もわからん。じゃけどな、わかっとらんちゅうことだけはわかっとる」「親が子どもの顔色うかがうなんて世も末じゃ。そんなもん親子でも何でもないわ。父親失格じゃ」「わしも歳は離れとるが、(8歳の)健太のことを朋輩じゃと思うとる。朋輩のたっての頼みは聞いてやらねばならんけん」
こうして文字にすると小説と同じなのだが、香川照之の口から発せられることで、強烈なメッセージとなっている。しかもここで挙げたものはごく一部にすぎない。最終回に向けてますます熱を帯びた言葉が期待できるだけに、強烈なキャラに惑わされることなく、"セリフの力"に注目してみてはいかがだろうか。
女性優位のドラマ業界で貴重な作品
あれこれ書いてきたが、「この親子がどうなるんだろう?」と気になり、最後まで見届けたくなるタイプのドラマ、いわば連ドラの王道であることに疑いの余地はない。それに、中盤まではあまり考えずに見て、親子の愛情がたっぷり詰まった終盤を存分に楽しめばいいような気もする。実際、私も終盤のシーンに魅了され、故郷の父親に思いをはせている一人だ。
最後に。現在の連ドラは大半が女性目線で作られていて、安易に男性を小物・悪者扱いしているものも多い。その点、男性の良心にフォーカスを当てたドラマを作り続ける日曜劇場は貴重な存在と言える。
『半沢直樹』から1年半が過ぎ、視聴者の志向は当時とは違うものになっているのかもしれない。とにかく変化の早い時代だけに、同枠には当時の成功法則を捨てて、新たなチャレンジをして欲しいと、30年来の一ファンとして願っている。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。