FOMCでドル高が一段と進行するリスクを指摘するメンバーも
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、FOMC(連邦公開市場委員会)で金融政策を決定している。1月27-28日に開催されたFOMCの議事録によると、利上げ開始を早める場合と、遅らせる場合のリスクを比較検討し、その結果多くのメンバーが低金利を長期化する方向に傾いたとあった。これを受けて、市場では利上げが遠のいたとの観測が強まり、ドルが売られた。
FOMC議事録のなかで興味深かったのは、ドル高の弊害が認識されたことだ。ドル高は輸出を抑制し続ける要因になるとされ、ドル高が一段と進行するリスクを指摘するメンバーもいた。また、経済見通しに関して、ガソリン安が消費を刺激するプラス効果はドル高によって相殺されるとのスタッフの分析も紹介された。
昨年12月のFOMC議事録も、ドル高に言及していた。ただ、それはドル高が輸入価格の下落を通じて物価を押し下げるという文脈においてのみだった。景気の抑制要因として指摘されたのは今回が初めてだ。
FRBがいつ政策変更するか、「次の一手」は引き続き利上げ
ドルの実力を示す実質実効レートをみると、昨年以降に急上昇し、2003年4月以来の水準に達している。当局がドル高を警戒するのも無理からぬことかもしれない。ただ、レーガノミクスが急激なドル高を招き、プラザ合意によるドル高修正へとつながった1980年代前半や、ITブーム(IT株バブル)によって世界中の資金が米国へ流入した2000年代ごろと比べると、ドルの実質実効レートはそれほど高いようにはみえない。ドル高が経常収支の急激な悪化や産業空洞化をもたらすには、まだ距離がありそうだ。
FRBがいつ政策変更するか、そのタイミングは不透明だが、「次の一手」は引き続き利上げと考えて良いだろう。1月下旬のダボス会議に参加した米国のルー財務長官は、「強いドルは米国にとってプラスだ」と言明した。当局が「ドル高」にお墨付きを与えてくれる間は、主要国との金融政策の方向性の差からみてドル高の基調は大きく変わらないのではないか。
なお、ドルの実質実効レートが目立って上昇したのは、2014年後半からだ。つまり、2012年終盤から2014年前半にかけて、ドル円が80円から100円前後まで上昇したのは、円高の修正であり、「円安」だった。そして、100円前後から足もとの120円前後まで上昇してきたのは「ドル高」と言えそうだ。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。