音楽、ファッション、サブカルチャー、若者を中心とした中央線文化と、50年以上続く阿波おどりの伝統文化が混在する"日本のインド"こと高円寺。今回紹介するのは、そんな高円寺の「小杉湯」だ。JR高円寺駅から徒歩5分。にぎやかな商店街を通り、一本路地に入ったところに佇む、昭和8年(1933)創業の銭湯である。
ロビーにはギャラリースペースも
伝統的な破風屋根と、シンボルでもある鯉の懸魚(げぎょ)は、昭和の風情そのまま。開店前から列をつくるほど地元に愛されており、ほかの銭湯では見かけないような若者も多い。まさに客層は老若男女だ。シャッターが開くと同時になだれ込む。
フロント式で、男湯は右、女湯は左。メディア取材も多く、有名人の写真も飾られている。月替わりのアートギャラリーになったロビーは目玉のひとつ。このギャラリースペースは1カ月無料で利用できるのだが、予約はなんと2年待ちだとか! そのほか、ロビーにはドリンクやアイスのケース、また、手書きのPOPが添えられたマンガ本が並んでおり、湯上がり後のひとときもここでゆっくりできる。
銭湯そのものは戦前の建築だが、大黒柱や格天井はそのままに、中は現代風に使いやすく改装済み。ロッカーは3面。中央に腰掛けがあり、境目は鏡張りだ。そのほか、体重計や血圧計、マッサージチェアなどが備えられている。高い天井と清潔な脱衣所はそれだけでも気分が晴れやかになる。
深井戸水を浄化した「自然回帰水」
浴室も白を貴重としており、日中は特に明るい。正面には丸山清人絵師が描いた芦ノ湖のペンキ絵が。繊細で落ち着いた画風が特徴的だ。カランにはボディーソープ、リンスインシャンプーと固形石けんが常備されており、タオルも無料で借りられるので手ぶらで行っても安心。
また、深井戸水を浄化した「自然回帰水」というやわらかい水を使っている。少しぬるっとしているのが特徴で、石けんの泡立ちも良く、美肌効果もあるとか。
「別府鉄輪温泉」に「ミルク風呂」も
湯にも工夫が多く見られ、左のジェットバスは「別府鉄輪温泉」の湯の華を使った白い濁り湯。中央、少し熱めのバイブラバスは日替わりで、薬草やゆずなどの香りのあるお湯になっている。そして、小杉湯といえばやはり「ミルク風呂」。なめらかで少しぬるめに設定されており、女性にも人気が高い。客のほとんどが水風呂と交互に温冷浴をしており、ついつい長湯をしてしまう。
ちなみに、小杉湯はiPhoneアプリ「小杉湯詣で」をつくっている。このアプリはポイントカードのようなもので、来店につき1ポイントもらえ、一定回数貯まると"いいこと"があるそう(詳しくは小杉湯でご確認を)。
また、小杉湯内で音楽ライブをやっていることもあるなど、お祭りが大好きな高円寺らしく、次々に新しい試みにチャレンジしている。一度訪れてみれば、この土地で長く愛されている理由が分かるはずだ。
※記事中の情報は2015年2月時点のもの。イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません
筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)
1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。